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敗将が死んだ日 ~帝国最悪の愚将に転生したミリオタ、地獄の戦場で成り上がれ~  作者: 万田 カフエ
第一章 はぐれ者の異世界戦争
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第十三話 反撃、そして成功へ

森の中が銃声の蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)に包まれる。

断末魔が響き渡り、鉄臭い匂いと火薬の匂いがマイナスイオンに混ざって鼻腔をくすぐった。


「少尉ッ!!地雷の撤去作業が完了したとの報告が入りましたッ!戦車をこちらに動かしますよッ!!」


打ち込まれる横殴りの弾雨を樹木の影でしゃがんでやり過ごしていた中隊の兵がバウムガルトナー少尉にそう報告した。


「承知した!敵兵の掃討は順調で、すぐにでも走破できると伝えて!」


地面の上に伏せてMG42機関銃の引き金を指で引き、走り込んでくる敵兵の身体に鉛玉を撃ち込む。


辺りはすっかり敵味方の死体で埋め尽くされた地獄絵図へと成り代わり、悲鳴の代わりに銃撃音が鼓膜を震わせる。


「よし…ッ!前進ッ!!」


熱のこもった機関銃を抱えて立ち上がると敵陣へと走り込む。

他の兵士たちもそれに続いて小銃や短機関銃で弾幕を張って進んでいく。


そしてその途中、バリバリと乾いた音が後方から聞こえてきた。


焦げ臭いエンジンオイルの匂いと共に現れたのは味方のVI号戦車、ティーガーI。


乾燥した倒木をキャタピラで押しつぶして現れた鉄の猛獣が木々の間からゆっくりお目見えだ。


「友軍のティーガーだッ!!俺たち中隊が切り開いた敵陣にやってきたぞッ!!」


その瞬間だけは黒逸兵は戦闘中だとも言うことを忘れて歓喜した。

対照に、黒鉄(くろがね)巨躯(きょく)を目撃した北ナ連の紅旗軍兵士は脱兎の如く逃げ出した。


「包囲陣が突破されたッ!?

ぜ、全隊!戦略的撤退ィーーーッ!!」


応戦をやめ、背中を見せる敵兵。

しかしティーガーはそれを見逃さない。


長い砲身を敵へ向け、そして一斉に放火する。


逃げた敵は着弾した際舞い上がった土煙と倒れる針葉樹を駆け抜けて、姿をくらました。


「逃げ出した!追いますか少尉!?」


「…いや、深追いは不要だと思う。

これ以上兵站線を伸ばすわけにはいかない」


「…ということは…?


銃撃やめェェーーッ!!」


ふと静まり返る戦場。

それも次の瞬間には歓声の上がる勝利の宴会場へと様変わりした。


「俺たちの勝利だァーーッ!!我ら54歩兵中隊が連隊を勝利に導いたぞぉぉッ!!」


生き残った兵士たちは銃身を握った拳を突き上げて天にも届けと戦勝を(のたま)う。


ある兵士たちは肩を組み陽気に小躍りをし、ある兵士は涙を流しながら身を寄せ合って抱き合う。


そんな彼らには混じらず、バウムガルトナーは機関銃を放置して歩き回る。


(大尉…大尉はどこだろう……?)


勝利に酔いしれる兵士たちの群れを抜け、陰惨とした戦場を歩く。


銃痕が無数に残る樹木の数々、打ち捨てられた新鮮な双方の軍の兵士の死体が折り重なり血で少しぬかるんだ地面を歩く。


「大尉ぃ〜ッ!シュヴァルツ大尉〜〜ッ!!どこですかぁ!戦闘は終わりましたよ〜!」


大声で呼びかけるも返事がないことに、少尉は段々と不安を表情に表した。


「まさか…戦死…!?いやそんなはずは…!」


不安がどんどんと膨らんでいくのを感じながら探索していると、樹木の影から一人の人影が現れた。


耳をすませば荒い吐息が聞こえてくる。


「大尉ですかッ!?」


すぐに駆け寄って見ると顔面蒼白で佇む大尉がいた。

無表情で息を吐き、片手に握ったMP40が艶めく。


「大尉ッ!?どうしたんですかッ!?」


「いや、なんてことはない。

少し敵の()()に手こずっていただけだ」


それを聞くと少尉はホッと胸を撫で下ろした。


「戦闘が終わったのか…?」


「はい…!今中隊のみんなと戦車隊が到着してくれました!もう少し連隊の兵士たちも来ますよッ!」


「えへへっ」と少尉のはにかんだ笑顔に大尉もつられて微笑んで愛らしい彼女の被るシュタールヘルムの頭部を優しく撫でた。


こうしてシュヴァルツ大尉の改案した霧雨(シュプリューレーゲン)作戦は成功し、電撃的侵攻による敵陣の占領と敵軍の撤退という功績を挙げ、汚名返上の足がかりとなったとわかるのはもう少し先の話である。


「残していった塹壕から北ナ連の軍の鹵獲(ろかく)兵器も押収できましたし、我が黒逸の勝利は確固たるものになっていますね!」


軍用車両、キューベルワーゲンの後席で揺られるバウムガルトナーは隣に座って車両の外枠に腕をかけ制帽が飛ばされないように片手で抑えている大尉の肩に身を寄せる。


「あぁ、この辺りの地区の掌握も早いだろうな。

(本当はここがどこなのかさえわかっていないが…)


それにしてもいいのか…?俺たち戦場に残らなくて…」


「はいっ!残兵の掃討や陣地の再構築は部下たちに任せればいいんです!」


「ふぅ〜〜ん……」


猫背の運転手が動かす車両に乗り、アーデルハイト少佐たちが待つ野営地へと帰還する。


帰ってきた先ではいつもと同じ通り、無数のテントや揃って並んでいるティーガー戦車。

その他物資や軍備が乱雑に置かれている。


乗り捨てるように停車した車両からドアを開けて降りると待ってましたかと言わんばかりに立つアーデルハイト少佐が出迎えてくれた。


「お疲れ様だ、シュヴァルツ大尉。

…生きているのか」


「何だその少し残念そうな顔は」


「いやはやなんとも、元気そうでよかった。

聞いたよ、電報でな。

君の作戦が功を奏したようだね、おかけで君も私も武功を立てられた、この件ばかりは君に感謝するぞ」


そう言って彼女は制帽のつばをつまんで少し浮かして礼を表す。


「そうかよ、()()だのなんだの言って割には結構素直だな」


「そりゃあ有能な味方なら大歓迎さ」


チェッ、コロコロ態度変えやがって。

その言葉が喉まで出かかったが、これ以上の争いを望まない大尉は余計な事を言う前に口を固く閉ざした。


「それより、無事帰還できた君たちを労ってやろうという私の粋な計らいでもうすぐ()()()がやってくるぞ」


「えっ…!それってもしかして…!!」


「その()()()()()、だ」


はしゃぐ少尉と腰に手を当てて笑う少佐。

シュヴァルツには話についていけずぽかんとする。


「な、何だよ、何二人で盛り上がってるんだ…?」


「大尉!まだわからないんですか?

少佐の言う()()()なんてあれしかないですよ!」


そう言って目を輝かせながら少尉の指を指した方向からは一輌の半装甲車であるケッテンクラートと共に牽引されたとある機材が現れた。


「あれは…()()()()()じゃないかッ!」


『シチュー砲』、正式名称でフィールドキッチンと呼ぶその炊事用車輌は前線で戦う兵士たちに温かい食事を与えることを目的とした移動式調理機材だ。


二輪であること、一本の煙突があること、そして軍用車両に牽引されて運ばれることからそれらを大砲に見立て、『シチュー砲』などというあだ名で呼ばれていたのだ。


現場の兵士の士気維持のためには欠かせない大切な兵站のひとつなのである。


「ありがとうございます少佐っ!お上に無理を言ってわざわざ…」


「なんてことはない、当然のことをしたまでだ。

ほら大尉もどうだ?」


「…ありがとう、少佐。

ちょうど腹が減っていた」


少し気恥ずかしそうに礼を言い、催促する少佐に踵を返して少尉と大尉は腰のベルトに提げた飯盒(はんごう)をもってキッチンの列に並ぶ。


他に並んでいるのは戦闘中、野営地で通信や連絡、哨戒をしていた兵士たちであり、あとから帰ってくる戦地の兵士たちに残りが配られる。


しばらく待っているとキッチンの煙突から湯気が立ち上る。

そして軽快に食材を切っているであろう包丁のリズミカルな音が遠くで聞こえてきた。


そして列は動き出す。


「お、おい見ろ…!!シュヴァルツ大尉が列に…ッ!!」


「もう終わりだこの国…!あの大尉が割り込まずに素直に列に並ぶなんて…!!」


配給を受け取った兵士たちはわざと聞こえるように話しながら列を折り返して去っていく。


「あの野郎ぉ〜…少尉、所属を調べろ。奴らを締め潰してやる」


「ええっ…」


そんな与太話もはさみつつ、いよいよ白い割烹(かっぽう)のような上着を着た兵士たちがお玉を使って具を飯盒に注いでくれる番になった。


だがそこに注ぎ込まれた物を見ては大尉は目を見張った。


「なッ…!?何だこれはッ!?三角コーナーに捨てられた生ゴミみたいな野菜クズと黒いじゃがいもが浮いている…ッ!?腐ってるんじゃないかこれェッ!!」


飯盒に漂う崩れかけの人参や玉ねぎが味の薄そうなホワイトシチューの池を漂っているのだ。


「あ、それ腐ってますよ」


「ええッ!?ほんとに腐ってるのかよ!」


「長期間保存していたやつですからねぇ」


見るとキッチンの隣の棚の木箱に積まれた野菜は新鮮さを失っており、ハエの羽音が聞こえてくる。


「文句があるのか?」


配給係の兵士がお玉の手を止めてギラッと睨んだ。


「…ッ、いや、ありがとう」


愛想笑いで飯盒を受け取って大尉は列を離れた。


(道理でいい匂いがしなかったわけだ。

こんな腐ったシチューじゃあ当然だな)


適当な場所にあぐらをかいて腰を下ろすと、少尉も合流してきた。


「はい、どうぞっ」


「?」


「大尉はうっかりさんですね、スプーンをもらい忘れてますよ」


「あぁ…すまないな、色々思考が止まってしまって…」


銀色のスプーンを受け取ると、それをシチューの中に差し込んだですくい上げた。

ぼとぼととスプーンからこぼれ落ちる具材を見てもやはり美味しそうには見えない。


「毎日これなのか?」


「当たり前じゃないですか…ほぐほぐっ…うんうん…水洗いが足りないですね…あの配給係はだいぶズボラと見た」


「うげぇ…ッ」


当然のように食する少尉に若干ドン引きしてしまった。

結局、少尉に「いらないのですか?ならもらいますね」と言われて素直に受け渡すまで、スプーンを口に運ぶ手が動くことはなかった。


(慣れって怖いなぁ…)


しんみりとした背中と、目の前の食材にがっつく背中が対照的な雰囲気を生み出したのは戦場での厳しい現実なのだった。

やはり当分の間は、この地に慣れそうにはない。


第一章 完。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯


【補足】

この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。

登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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