第十一話 神算鬼謀
バウムガルトナー少尉は即興で集めた小隊の部下たちと共に銃撃を加えながら前進していく。
少尉は短機関銃のMP40を、その他の部下は小銃のKar98kやM24型柄付手榴弾を投げて敵と応戦していた。
「敵が撤退していっている!どうしますか!?バウムガルトナー少尉ッ!!」
「戦車連隊はどう言っている?」
「はいッ!迷わず微速度で追うと言っています!」
「了解した!歩兵は戦車と共にある。
他の隊も心持ちは同じだと思っている、このまま進む!」
歩兵と戦車は迷わず逃げていく北ナ連の紅旗軍の背中を追う。
しかしただ一人、敵側の動きに違和感を抱いている人物がいた。
MG42機関銃によって支援を行っていたシュヴァルツ大尉である。
「待てッ!!全隊止まれッ!!これは中隊長命令だッ!!」
すると攻勢を仕掛けていた連隊の内、第54歩兵中隊の足取りが止まった。
「大尉ッ!なぜですッ!!」
少尉のみならず、他の兵士も訝しんで見つめてくる。
「あれは囮だッ!追うなッ!
仲間が伏兵か、地雷が待つ場所までおびき寄せてから囮の部隊と伏兵部隊で包囲する気だッ!だから追うなッ!!他の部隊にもそう伝えろッ!!」
いち早く異変を察知し、そう結論づけた彼女だったが、賛同してくれる声はなかった。
「なぜわかるんです?」
バウムガルトナーは歩み寄って尋ねる。
「敵の抵抗が弱すぎる。
どうしても兵力を温存しているように見えてならない。
戦車を攻撃して我々を挑発し本気にさせ、追いかけさせているように見える」
「か、考えすぎですよ…!敵は兵力を出し惜しんでるだけですって、苦し紛れの持久戦をしようとしているだけです。
早く片付けないと私たちまで苦戦を強いられます」
他の兵士たちもそうだそうだとでもいいだけな表情で大尉を見る。
「シュヴァルツの考えを実行してしていい方向に転んだことないからなぁ」
「おい声が大きいぞ…!聞かれたら長ぇ説教されるぞ…」
そんな小声も、今は構っている暇はない。
「とにかく戦車部隊と他の歩兵部隊を一旦停止させろッ!!あのまま突き進んで地雷でも踏んだら……」
しかし誰も納得してくれていない。
戦車も全く止まる気配もなく、どんどんと砲撃を行いながらを前進していく。
それを見て威勢のよかった大尉も萎れた草のように段々と弱気になる。
「…もう、遅いか……わかった、戦車を追うぞ」
止まる気配もなくずいずい突き進む戦車たちを見て諦めたように静かなトーンで言い放つ。
兵士たちは無言のまま戦車の後を追った。
「大尉、無理もないです。
あ、あんまり言いたくないんですけど…貴方には人望が…」
「ああ、わかってる。
だがそれは過去のシュヴァルツだ、今は違う」
「…わかってます、私も今のシュヴァルツ大尉を信じたかったんです…でも…どうしてもまだ思いきれなくて…ごめんなさい」
少尉は手を抑えて頭を下げた。
「気にするな、急に『ボク変わりました』なんて嘘吐きの常套句みたいな事言われて素直に信じられる程、人の心理は単純じゃないからな。
…それより早く行こう、戦車の護衛なしは危険だ」
残された二人は早急に戦車と兵士たちの後を追った。
しかしその後ろジリジリと目を光らせながら茂みの中を歩いていたのは敵の紅旗軍の兵士たちであった。
戦車隊と共に進む兵士たちは周囲を警戒しながら歩いている。
大尉も少尉を気を引き締めて進んでいた。
その時。
大きな熱波と黒煙を放ち1輌の戦車が轟音と共に爆発した。
「ッ!?」
たちまち黒焦げた残骸となり外れた砲塔が重そうに転がる。
「じ、地雷だッ!!対戦車地雷が敷設されているんだッ!!」
「まずいッ!戦車を直ちに停車させろッ!!」
1輌の戦車の撃破を受け、全車輌のキャタピラの回転が止まる。
その停車した機会を狙うかのように、数発の発砲音のあとに戦車の装甲に弾丸が当たり車体が鈍い金属音を立てて揺れる。
「馬鹿なッ!地雷は爆撃で全滅したはずじゃ…ッ!!それに対戦車ライフル…ッ!!」
混乱する兵士たちと少尉。
そんな彼らにシュヴァルツは静かに語る。
「やはりか、あの撤退した部隊は囮だ。
かろうじて残った地雷原に戦車を誘く為の陽動部隊だった。
かなりまずいぞ…さっきの対戦車弾は後ろ側から飛んできた…やはり陽動部隊と伏兵部隊で包囲する気だ」
「包囲…ッ!?第206歩兵連隊は2000人はいますッ!それを囲むなど…」
「できるさ、まるで『島津の釣り野伏せ』だ。
あの戦法なら少数でも包囲殲滅は可能だ」
「釣り野伏せ…?」
「極東のサムライの使った戦法だ、300人で3000人を包囲殲滅した戦いにこの戦法が使われた」
「ど、どうしてもそんな遠い国の話を…。
しかもそれを北ナ連の兵が…?」
「さぁ?そういうのに詳しい指揮官がいるんじゃないか?あるいはたまたま偶然似たか…」
そう話している最中、立ち往生していた戦車は無闇矢鱈に遠くを砲撃し、近くの木々をなぎ倒す。
「…ッ!?戦車部隊共にすぐ砲撃をやめさせろッ!敵がどこにいるかもわからないでの砲撃など砲弾の無駄遣いだッ!!」
大尉の言葉も耳に入らないのか、戦争は四方八方に撃ちまくる。
「う、うわぉぁーーっッ!!どこだ豚共ッ!!撃ち殺してやるッ!!」
兵士たちも周囲から飛んでくるライフル弾に怯え、見えない敵と銃撃を始める。
するとそれに答えるように敵側からも銃弾のプレゼントが届いた。
そのプレゼントに味方は次々と身体を貫かれて、血を流して地面に倒れる。
瞬時にして砲音と銃声と断末魔が響く血の池地獄と化す。
それでも大尉はもう動じていない。
(兵が混乱し始めてきている…!俺がなんとかのしなければ…ッ!)
そうしている間にもライフル弾は1輌、また1輌と装甲に着弾する。
自慢の装甲で何発かは跳弾し撃破を免れていたも、キャタピラに被弾するとたちまち走行不能になり、弱い側面を攻撃されて爆破炎上する。
「くそったれ!おい歩兵ッ!さっさと対戦車兵を掃討しろッ!このままじゃいい的だぜ俺らはよぉ!」
戦車長が砲塔のキューポラから上半身を出して歩兵に文句をつけている。
「うるさいぞッ!装甲に守られたやつが安全なところから口出しするんじゃねぇ!」
戦車兵と歩兵の雰囲気も悪い。
このままでは士気は下がり、あえなく連隊は壊滅させられるに違いない。
「俺たちがやるしかねぇ」
「えっ…」
大尉の言葉に少尉は耳を疑った。
「連隊の奴らはお荷物だ。
第54歩兵中隊の俺たちがやるしかねぇ」
大尉の目は真剣だった。
(まさか…あの自分の身を第一に行動していたシュヴァルツ大尉からそんな言葉が…)
少尉は一瞬、感動したがすぐに思った疑問をぶつける。
「いいんですか?他の中隊長や後方のアーデルハイト少佐、連隊長と話し合わなくて…」
すると大尉は厳しそうな目つきで言う。
「そんな時間もうあるもんか、現場指揮官の俺たちが早々に決断しなきゃ滅ぶのは時間の問題。
敵が総力を上げて潰しに来るか、それとも補給線と退路を完全に断って兵糧攻めしてくるか、どっちにしろ今現在が隊の全盛のコンディションだ。
包囲戦は時間が経てば立つほど打開の可能性は下がる。
ならば今、俺たちがやるしかない!」
ズバッと言い放った大尉の表情は数々の戦場を駆け抜けてきた歴戦の猛者のような闘将の目をしている。
「俺は戦争を知っている
勝つ国と負ける国の差、それは決断だ。
勝ち筋が見えなくても兵站が少なくても、勝利はなくても必ず助かる道はある。
その道を探す決断をすれば自ずと勝利へつながる!
野戦電話を繋げて伝えろ!
『第54歩兵中隊シュヴァルツ大尉から第206歩兵連隊、大隊指揮官アーデルハイト少佐へ。
我が隊は完全に包囲されている、事態は最悪だ。
これより、我が中隊が戦車の脅威となりうる敵兵を掃討し突破口を開く、戦車連隊がその突破口を拡張し、残りの兵士の包囲陣突破の護衛に当たるよう呼びかける。
かくて軍旗は立てられた、これより反撃を開始する!!
第54歩兵中隊長シュヴァルツとその仲間の名は永遠に祖国の歴史に刻まれるであろう』とな」
少尉にそう告げると、同じくそれを聞いていた彼女の部下二人に向け言う。
「中隊長命令として他の奴にも伝えろ、それから隊の奴らにだ。
現状を打破するのは我ら中隊しかいないッ!頼んだぞッ!」
「はッ!」
敬礼を済ました部下は走り去っていく。
堂々と混乱の中立つ大尉の姿に、少尉は思った。
「(この人に…託してみよう…もしかしたら…もしかしたら…ッ!)」
その気持ちを感じ取ったように大尉は笑顔でうなずく。
「さぁ行くぞバウムガルトナー、真の戦争はこれからだ」
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




