第九話 進軍開始
空を飛行しているシュトゥーカの隊列は森の上空に差し掛かる。
森からは先行していた伏兵が発煙手榴弾を投げ込んでいてくれたようで、赤い煙がモクモクと広がって漂っていた。
それを目標に急降下爆撃機は次々と機体を傾けて降下していく。
「来るぞ…来るぞ…ッ!!悪魔のサイレンが鳴るぞ…ッ!!」
シュヴァルツ大尉は嬉しそうに額に汗を流しながら拳を固く握りしめていた。
すると急降下し始めたシュトゥーカはまるでサイレンのような独特のエンジン音を放ちながら森へと飛び込んでいく。
これがシュトゥーカのエンジン音が『悪魔のサイレン』と恐れられる由縁である。
「うわぁッ!!来るぞッ!!シュトゥーカだッ!!」
数十機の爆撃機は耳が劈く程の爆音を鳴らしながら森の塹壕に潜む北ナ連兵へ接近し、機体の底に懸架されていた黒い爆弾を投下していく。
投げ込まれた無数の爆弾が着弾するとくぐもった爆発音と共に地鳴りのような揺れが木々と大地を震わせる。
「うわ゛ぁァァァぁーーッ!!」
「ぎゃぁッー!!」
辺りは瞬く間に砂塵と舞い上がった土の匂いと火薬の匂いが立ち込める。
敵兵は爆撃に左往右往しまるで蟻の巣に水を注ぎ込んだような騒ぎとなった。
爆撃され無茶苦茶に蹂躙される森を見てアーデルハイト少佐は呟く。
「よし…第一波の攻撃は順調だな…
これより戦車隊と歩兵の機甲部隊により敵陣に侵入し背後をとるぞ」
「少佐、その戦車隊っていうのは何処いるんだ?歩兵と装甲車のキューベルワーゲンはあるが…」
心配そうに尋ねる大尉だったが少佐はニヤッと笑って答えた。
「なぁに、敵に見つかると不味いので少し後ろに隠しておいたのさ。
ほら聞こえてくるだろ?敵を捕殺したくてウズウズしている虎の声が」
その瞬間、少佐の隣に突如として現れたのは側面にルーン文字のSがあしらわれた鋼の猛虎だった。
キャタピラをぶん回し、けたたましいエンジン音と共に現れた巨体は藪や低木をなぎ倒しながらその全貌を表したのだ。
「VI号戦車…ティーガーIッ!!」
驚いている間にも、次々とドイツの有名な戦車であるティーガーは大尉の隣を隊列を組んで前進していく。
植物の障害をなぎ倒した戦車隊列は草原へと繰り出し、そして疾走していく。
大尉がその惚れ惚れする車体に目を奪われていると後ろから声がかかる。
「大尉ッ!!私達もいかなければッ!!」
バウムガルトナー少尉はすでに見知らぬ男の歩兵の運転手と共に軍用車のキューベルワーゲンの後席に乗り込んでいる。
「あぁ!今行くぞッ!!」
シュヴァルツはMP40短機関銃片手に車両に飛び乗ると一言、少佐に尋ねた。
「少佐はどうするんだ?」
「一応君の中隊を抱える大隊指揮官だからな、連隊長と一緒にあとからついていく」
「わかった、待ってるぞ」
その会話に割り込むように通信兵がアーデルハイトに声をかける。
「第206歩兵連隊指揮官から第20歩兵大隊指揮官へ!
総司令部より攻撃許可が降りたとの通達ッ!直ちに連隊、戦闘態勢に入れとの電報がッ!」
「よし、こうしちゃいられないな。
先陣を切るのは俺だ」
大尉は他の車両を置いていくように我先にと発進を指示した。
その後を遅れまいと他の車両も多数の歩兵を抱えながら随伴していく。
「頼んだぞ、君が始めた戦争なんだなんからな」
その場に残り、佇んでいるアーデルハイトは通り過ぎていった戦車と軍用車の群れを見下しながら背を向けて野営地へと足を進めた。
戦車隊は2列に縦並びの状態で進んでいく、その後ろを大尉たちの軍用車が追う。
その周りには銃器を持った歩兵たちが歩いてついていっている。
森の上空では爆弾を投下し終えたシュトゥーカたちが不規則に飛び交っていた。
「シュトゥーカたちが上空で敵の注意を空へと引き付けてくれています。
でも長くはいられないでしょう、じきに紅旗軍空軍の迎撃隊か高射砲陣地が迎撃し始めます」
「わかってるさ、だから俺たち地上部隊の活躍にかかってるってわけだ、俺たちに残された時間は少ない。
さぁ急げッ!!爆撃隊が敵兵を撹乱している隙に走破するんだ!遮蔽物のない草原じゃ対戦車弾の餌食だぞ!」
大尉は付近の戦友たちに声をかけ戦意を鼓舞する。
順調に走破していた部隊だったが、車両のエンジン音に混じって大きな発砲音が耳に飛び込んできた。
そして戦車隊列のうち1輌が何かを弾くような金属音を鳴らして揺れた。
「何だッ!何が起こっているッ!?」
大尉のみならず、他の歩兵たちも一瞬身をかがめてからすぐに銃器を構え戦闘状態へと入る。
「大尉!!跳弾ですッ!!対戦車ライフル弾が戦車装甲に当たって跳ね返った音ですッ!11時の方向から!」
バウムガルトナーが言った方向へ目を向けると、森の茂みの中から伸びる黒光りする長い銃身の口から白い硝煙らしき煙が立ち上っている。
幸い貫通せず、被弾した戦車は爆発せずに済んだようだ。
「気をつけろッ!!11時の方に敵兵ッ!!」
戦車の側にいた歩兵が叫ぶと戦車たちは回転砲塔をゆっくりと動かし長い砲身を言われた方向へと向けた。
そして一斉に砲弾を発射させた。
一気に視界は砲身が生み出した白い硝煙が舞う。
放たれた砲弾は白い尾を引きながら森へと吸い込まれ着弾した。
土壌ごとめくるような威力の砲弾は着弾地点の針葉樹を根こそぎなぎ倒す。
宙を舞う土の塊が降り注いでいくのが見えた。
「撃破したか…だが一門だけなはずがないッ!対戦車兵に注意しろッ!!」
その間、役目を終えたシュトゥーカたちは空を悠々と去っていき、もと来た方へ帰っていく。
「爆撃隊もここまでか…急いで森に侵入して敵の背後をとるぞ!」
機甲部隊はついに敵の潜む森へと侵攻する。
兵士たちは案外簡単に侵攻できたことに安堵の表情を浮かべていた。
「想像以上にあっけなかったな」
「あぁ、航空隊のおかげだな」
そんな歩兵たちの声が聞こえる。
「やりましたね!それにしても攻撃眼下対戦車ライフル1発とは思いませんでしたけど…もしかして敵は爆撃で全滅したんですかね?なんて、あははっ」
余裕そうな笑みを浮かべる少尉とは異なり、大尉は少し相手の攻撃の不自然さに違和感を抱いていた。
(本格的な攻撃はなかった…敵の指揮系統が混乱しているからだと願いたいが…何か…何か嫌な予感がする…)
誘われるように森の不覚へと入り込んでいく大尉たち。
果たしてそれは敵の罠か、それとも単に作戦がうまくいっているからなのか。
そんな複雑な心境を抱えたままキューベルワーゲンに乗って揺られていた。
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




