9.異世界から落ちてきた物
サラジェン伯の屋敷に着いた俺は、まずサラジェン伯とその家臣たちから事情聴取を受けた。
尋問と言うほどでもなく、ここの世界に来た経緯とか、元の世界はどんなところかとか、どんな能力があり職業は何だったか、といったものだ。
『だからね、いかいではスシローはしょうにんだったの。
とくべつなのうりょくはもってなかったって。
ここにおちてくるときはだいちがわれて、まわりのひともみんないっしょにおちたって。
きがついたらここにいたって。
あのね、あのね、でもね、オウラがまぶしいくらいいぱいなのに、まほうはつかえないの。』
ファンは、ここの領主一家と親しいらしく、俺たちを出迎えてくれた跡取り息子のクレスチンという青年にじゃれていた。
そして、通訳してもらう前に、肩の周りを羽ばたいてじゃれながらも領主のイカルス・サラジェン伯爵にファンが捲し立てていた。
クレスチン青年はそんなファンの相手をしながら、俺をじっと見つめてきた。
カイトリルもイケメン君だったけど、クレスチン青年も負けず劣らずイケメン君だ。
背も高いし、金髪碧眼だし、なんだか男としてって言うより人間として負けた気がする。
ちぇ~っ、モテ面のリア充なんかはみんな滅びればいいのに。
ちょっとやさぐれた気分で恨めしく思ていたけれど、サラリーマンの悲しい性でにこやかに笑うと、爽やかにニコリと笑顔を返されてしまった。
変な感じになりそうなところで、執事さんみたいな人が来て、大広間みたいなところに案内された。
会社の会議室を思わせるような、テーブルといすが置いてあったが、重厚さでは比べられないほど立派なものだった。
そこで俺は、村人達と情報交換した内容とほぼ同じことを話した。
そして、俺は気になっていたことを聞いてみた。
すなわち、俺のほかに誰かいなかったか、である。
この世界の人間は西洋人的な人たちばかりで、俺のように黒目黒髪の東洋人的な容姿の人間はいないみたいだ。だから、俺の様な容姿をした異世界人がいたら、大体領主に報告が行くというので、村人の知らない情報もあるかもしれないと思って聞いてみたのだ。
村では魔物のようなモノが黒い色を持っていると言っていたけれど、もしも、俺の周りの人が俺のように、この世界に落ちてきていたとしたら、他の村や町では運が悪ければ問答無用で牢屋とかに入れられたり、殺されているかもしれない。
昨日俺を見つけた村人は、俺一人で他にはその周辺に誰もいなかった言ったけれど、領主ならば他に情報を持っているだろうから、聞いてみたら良いと言ってくれた。もしかしたら海とか川とか山の上とか落ちていた人がいたら、見つけられにくいからすぐには分らないとも言っていたけれど。
俺は、昨日葡萄を摘む時にそんなことをちらっと考えたけれど、夜は精神的に疲れていたからすぐに眠ってしまったし、朝には深く考えても仕方がないから自分はラッキーだったと思おうとした。
しかし、サラジェン伯に聞いても、俺のような異世界から落ちて来た人間がいたと報告はないと言われ、気落ちしてしまった。もしかしたら、という思いも挫かれてしまったのだから。
「では、俺以外には誰もこの世界には来ていないと言う事ですか?」
『 魔物のようなモノや用途の解らない物はかなりの数が落ちて来たが、残念ながら直近五年間での人間は君だけだ。』
「用途の解らない物というのはどんなものがあるんですか。見てみたいんですけど。」
『 そういった物はほとんど王都へ輸送されるので、今この地には異界から落ちてきたものはない。王都で魔道具ではないと解ったらただちに処分されるか、研究施設で研究されるそうだ。』
「何も?一つもここに残ってないんですか?」
『 何もない。』
異世界からのものが何も残っていない?
何か残っていたら、異世界から落ちてきたのが俺一人だけがじゃ無いのかも知れないと、希望を持てたのに。残念だ。
がっくりと肩を落としてしまった俺を見て、気の毒そうにしていたサラジェン伯が
『 というのは建前で、実は書籍が一冊ある』
と言った。
何もないとガッカリしていた所に朗報だ。日本語でなくてもいいから是非見てみたい。
「できたら見せてもらえませんでしょうか。もしかしたら、私の世界の物かもしれない。もしそうなら見てみたいんです。どうかお願いします。見せて下さい!」
俺がそう言うと領主は考えていたが、クレスチンと話し合ってくれ、
『 父上、見せてやっても良いのでは。我々もあれが何かわかります。』
というクレスチンの一言で見せてもらえることになった。
ありがとうイケメン君。モテていそうなア充は滅びろなんて思って悪かったよ。
そして、書庫に隠してあったという本をクレスチンが持ってきてくれた。
見てびっくり。
異世界から落ちてきた物、それは。
なんと、かの有名な漫画雑誌「 週刊少年ジャンプ 」だった。




