8.七つの子
異世界に着いて二日目。
夜が明けてすぐに始まった村のフリーマーケットで、俺はサンプル品を売りまくった。
売れ行きはほぼ完売。
飴を一袋と黒酢一パック(大)だけ残してすべて売り払った。
黒酢は単に自分の好みだったから残しておいたのだが、飴はこれから先ファンに色々と世話になるから、彼女用に残しておこうと思ったのだ。
売れたものの合計はなんと、小銅貨330枚、中銅貨215枚、大銅貨94枚で、日本円に換算したら10万円近くになる計算だ。
ジャラジャラと嵩張るけれど、村人も大きいお金は持っていないから、必然的に小銭での取引が主になってしまうので、小銭が一杯になるわけだ。
この辺りの村人のひと月の平均月収は大銀貨10枚分(約6万円くらい)もないというから、一月半近くあるくらいの収入だ。こんなことになるなら、サンプル品をもっと詰めておけばよかった、なんて捕らぬ狸の皮算用ってところだな。
それは置いておいて、俺もせっかくだから、串刺しの肉を焼いたものや蒸かしたイモのようなもの、他にトウモロコシに似たものを買って食べた。それらは、1/4小銅貨(13円くらい)で安いのに、凄く美味かった。
取りあえず懐も温かくなったし、腹も一杯になったし、村人たちとファンの通訳を通してではあったが話が出来て打ち解けられたので、皆で店じまいをしながら和やかな雰囲気になった時だった。
領主から派遣された兵士たちがやってきた。
兵士たちの隊長のウラシルさんと言う人は村長から、俺が黒目黒髪をしていても聖水で何ともなかった事、言葉はファンが通訳して通じる事、昨日は神殿の葡萄畑で奉仕をして、収穫を手伝った事などを説明されていた。
しばらくして説明を受けた隊長さんから、俺は丁寧な挨拶をされたので俺も自己紹介をした。
はじめは俺の目と髪を見て、<魔物のようなモノ>を見るような目で険しい表情だったが、ファンが怖がりもせずに俺の頭の上で寛いでいるのを見て、何の変哲もない人間だと分かってくれたみたいだった。
ほんと、ファンさまさまだ。けれど、
『 それでね、スシローはあめをくれてね、おいしかったけどきけんだったの。 』
話の終わりにそんな爆弾発言をしてくれたおかげで、すわっ毒かって隊長のウラシルさんが詰め寄って俺を慌てさせたのはご愛嬌だ。
必死で誤解を解いて納得してもらってから、早速馬に乗って領主の住む町に行くことになった。
といっても馬と言うのは地球のような馬ではなく、角が二本あって河馬と牛の間のような、高さはないけれど頑丈で足の速い性格は大人しいという獣だった。
俺はもちろん一人で乗れないから、副隊長の乗る馬で鞍の前の方に乗せてもらった。
二人乗っても、難なく乗れたのだからかなりの力持ちみたいだ。
俺の荷物はキャリー鞄一つで、中身は電子辞書と、タブレット端末、スマートフォン、飴一袋と黒酢一パック、それから旅に必要だと言われて村人から買ったコップとお椀とスプーン、お箸に似たもの、小さなナイフ、野宿で夜寝るときに使うマントなどだが、他の兵士が持ってくれた。
ファンを頭に乗せて、俺と兵士10人は村を出発した。
乗ってみると、自転車よりスピードが出ていたが、騎乗面が安定しているので振り落とされる心配もなく、また酔うこともなかった。
一時間くらい経った頃、無言で進む俺たちに退屈したのか、
『 スシローはうたをうたえる? 』
と、突然ファンがそう聞いてきたので、俺も気詰まりだったし気晴らしに童謡を一曲唄ってみた。
日本人では知らない人はいないというあの名曲、「犬のお巡りさん」だ。
すると、ファンだけでなく、兵士たちにも受けが良かったので、調子に乗って「夕やけ小やけ」「七つの子」など童謡メドレーをしてしまった。
アニソンも十曲くらい唄って、締めで「カリオストロの城」を唄ったら、大拍手だった。
この曲は歌詞がいいんだがと思っていたら、ファンが簡単に訳してくれたおかげで、良い内容だと分かってくれたみたいだった。
俺を乗せてくれている兵士さんは、感激の面持ちで俺が歌い手だったのか聞いてきた。ただの商人だというと驚いていた。そんなに歌を知っていて唄えるのは、普通は吟遊詩人しかいないというのだ。村祭りや酒場で唄える者もいるが、せいぜい2~3曲だという。そして、その曲を何度も繰り返し唄うという。俺が飽きないのか聞くと、それが普通だから何とも思っていなかったが、俺の歌を聴いて、吟遊詩人並みに唄えるので羨ましいと言った。
俺が言葉を覚えて、きちんとした訳が出来るようになったら、歌詞を教えようかというと他の兵士も寄って来て、ぜひそうして欲しいと言ってきた。
こんなことが役立つのならお安い御用だ、と言うと兵士たちだけでなく隊長さんも微笑んで歓迎してくれているようだった。
ファンは「七つの子」が気に入ったみたいで、何度もせがむので、何度も唄うと兵士たちも曲を覚えて口ずさめるようになった。
そうこうしているうちに、領主の住むクラコに着いた。
さて、ここでこれからの俺の行く末が決まる。
俺は気合を入れて、領主との会見に臨むことにした。




