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着いたところは異世界でした.  作者: 千野恵
 第一章  異世界にこんにちは
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7.長い一日

 一頻ひとしきり働いて、今日の分の葡萄畑での収穫を終え、倉庫へ収穫物を収めてからそれぞれ村人達は家に帰っていった。

 俺は考えていたほど重労働という感じではなかったので、爽やかな汗をかけたので気分良く仕事を終える事が出来た。

 はじめは恐々と俺の方をちらちら見ていた村人も、俺が真面目に働いているのを見て慣れてきたらしく、時々ファンに声をかけて俺の様子を聞いていたみたいだ。ただ、ファンは俺の頭の上で居眠りしていたから、やり取りがちぐはぐになったりしている様子が微笑ましかった。

 かごの扱いで皆は俺のことを力持ちだと認識したみたいで、ファンを通してこれを持ってもらってくれとか、あれを持ち上げてもらえ、とか言ってきたので、都合よく使われている感じではあったが、怖がられるよりはいいから、俺も快く引き受けた。

 それぞれが帰る時は、俺に笑顔を向けてくれたので、俺も日本人スマイルで手を振ったり会釈して挨拶を返した。なので、終わるころには多少打ち解けていたように思えた。


 畑から神殿に戻る時に、あのイケメン君のカイトリルが俺の傍に来て、何やら話しかけてきた。

 例によってファンに通訳してもらって、内容を聞くと先ほどの飴の販売についてだった。

 出来たら優先的に売って欲しいということだった。貨幣価値が分からないし、こちらでの売買の組合への届けとか出してないから、今はまだ売れないのではないかと言うと、一袋とは言わないから三個ほど売ってくれないか、と言ってきた。

 よほどさっきの飴が気に入ったのかと聞くと、妻と娘に食べさせてやりたい、と言うのだ。

 俺としては、これからも世話になるかもしれない村のことだし、売っても良いかなという気になっていたので、戻って飴を三個売ることにした。まあこれくらいなら、組合も目くじら立てないだろう、と思って一緒に神殿に戻った。カイトリルはみんなを出し抜いた形になったから、俺が儲けるように少し色を付けるとは言ってくれた。ま、抜け駆けはよくないけど、ちょっとだからいっか。


 神殿の扉を開いたら、さっき俺を尋問した村人がほぼ全員いた。一応村の取り決めをする時に話し合うメンバーで、村会議員みたいなものらしいけれど。そんな人たちがまた集まっていたのだ。

 神殿にいるのは、司祭と村長とだけだと思っていたけれど、何かあったのだろうかと不安に思ったら、飴のことだった。

 要件はカイトリルと同じ。飴を売って欲しいとの事。


 よほど甘いものに飢えてるのかと思ったら、こういった珍しい飴は明日領主のところに行くと没収されるかもしれないので、その前に手に入れたいと言うのだ。

 俺は律儀だなと思う反面、ずるい人達だなとも思った。

 律儀っていうのは、この人たちは俺が気を失っている間に鞄を開けて、中身を無理やり没収していてもおかしくなかったなと言う事。けれど、村人全員出来たのではなく、あの場にいた人だけっていうのが、ちょっと小狡こずるいと思ったのだ。

 人間はみんな聖人君子ではないから、そういった事もあって可笑おかしくはないけれど、まあ、そんなもんだよな、と人間の本質の一部をまた垣間見てしまった。


 いかん。また人間不信に拍車をかけるところだった。

 いいじゃないか。ここは長いものに巻かれろの信条通り、ここの村人達の心証を良くすることにしよう。カイトリルのお言葉通り、ちょっと儲けさせてもらおう。


 貨幣価値は飴一個で小銅貨2枚(日本円にすると大体100円くらいか)でどうかと言われたので、それで応じることにした。

 ちなみに貨幣価値としては、

 クズ銅貨1枚が2円くらい、

 1/4小銅貨1枚が13円、

 小銅貨1枚が50円、

 中銅貨1枚が小銅貨4枚分、

 大銅貨1枚は小銅貨8枚分、

 小銀貨1枚が大銅貨4枚分

 中銀貨1枚が大銅貨8枚分

 大銀貨1枚が大銅貨16枚分

 小金貨1枚が大銀貨4枚分

 中金貨1枚が大銀貨8枚分

 大金貨1枚が大金貨16枚分


 大体そんなところらしい。

 村人の平均月収は中銀貨10枚分くらいらしい。

 おおっと。じゃあ、飴玉一個で100円ってのは高すぎじゃないか。

 でも、村人から言い出したんだからそれでいいか。

 しめしめ、銭が稼げるな。

 他のサンプル品は売れないかもしれないし、領主のところで没収されるくらいならここで売れるだけ売ったほうがいいのか。

 あとで、商業組合の人から文句言われたら、異世界から来たばかりで知りませんでしたって、白を切ってもいいかな~。ま、何を売ったかなんてこちらから言わなきゃばれないよな。

 ちょっと腹黒いけど、元の世界に戻れる確率は無いに等しいから、ここで何とか生きていけるように最初はこんなもんで許してもらおう。


 そんなことを思っていたら、明日領主の兵士が来るまでに、他の村人にも売って欲しいと村長から言われた。飴だけはフライングだけれど、自分たちだけで買いめるってことはしないみたいだ。

 それと村人の中での物の売買や物々交換は、特に商人組合を通さなくてもいいので、よく青空フリーマーケットみたいのをするという。そこで、明日は急遽きゅうきょの青空市をすることにしたという。

 村長、仕事速いな~。商人組合から文句が言われないような、裏技をとったんだ。

 じゃあ、俺も堂々と売れるってわけだ。

 っていうことで、今日はこの人たちに飴を売ることにした。

 結果、飴は二袋分売れた。36個分だぜ。小銅貨32枚と中銅貨8枚分で3600円ほどだ。結構小金もちになったな。

 町のそこそこの宿屋で、夕と朝の食事つきで一泊泊れるくらいらしい。

 明日はここにあるものを売れるだけ売って、俺も必要なものを買える分だけ買おう。あとは貯めておこっと。

 ファンの通訳で助かるから、お駄賃代わりに飴を好きな時に好きなだけ舐めさせるとファンに言うと、ものすごく喜んだ。

 個包装の小さな袋に飴を戻して、食べる時だけ小さなかけらにすることにしようと言ったら

 『 わ~い。ありがとう。スシロー。りょうしゅさまのとこでもあたしがツーヤクするね。』

 と張り切ってくれた。


 は~、長い一日が終わった。

 俺は、パンみたいなものとスープの夕食を司祭とともに食べて、今日泊まる部屋へと入った。

 そして、明日からのことに、不安と期待を持ちながら、俺はベッドに沈んで夢も見ずに朝まで眠った。

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