17.天界にて(2)
『 異世界からの漂流者は過去にも何度かありましたが、ここ百年のうち大陸全土では百十二人にのぼっています。これは過去の漂流者のことを考えると異常です。しかも、同じ世界からの人間ばかりでした。漂流物も同様です。ですから、私と闇の神スキアーが調べてみたのです。』
「この者以外の漂流者の世界が同一だったと言う事は、その世界でなにかが起こったのでしょうか。ノバ様方はどんなことがお分りになったのですか。」
『 漂流者がいたところは、こことは違う次元の違う地球でした。つまり全く違う進化をした文明の違う地球からだったのですよ。その世界で起こったことは、その世界が極地転移したことによるものだったようですね。おそらくそれにより、普段は重なるはずのないこちらとあちらが一時的に重なり、その世界の物や人間や生き物たちが流れ込んできたのです。幸いなことに、生き物やその生き物が持っているものだけがこちらに来て、施設や建物や土地そのものというのはこちらに来なかったようですが、もし来ていたとすると、争奪のための戦が起こり大変なことになっていたでしょう。』
次元の違う地球。
違う進化をした文明の違う地球。
パラレルワールドだ。
ではこの世界は、同じ地球でもある基点から違う文明や進化が起こった世界か。
驚いた。
女神と言われるだけあって、俺がどんなところから来たのかわかるのか。
極地転移だって?あれは何億年かに一回起こる現象だろう。
確か地軸が変わるとか。
そんなことが起こったら、南極や北極が砂漠になったり、溶けた氷で大洪水が起こったりとかすると聞いたことがある。
あれはSFの話だと思ってた。
本当にそんなことが起こったのか。
関東地震とかのスケールじゃなかったんだな。
地球規模の災害だったのか。
「鈴木一郎と申します。女神にお聞きします。ここは私が住んでいた地球とは全く違う地球というわけですか。人間や犬や猫などの生物は同じだし、空に見える月や星は同じだし、けれど見慣れない動物や植物はあるし、妖精がいるし魔法は使えるしでどうなっているんだろうと思いました。進化はある程度同じだったけれど、どこかで進化が変わったと言う事ですか?」
『 いいえ。ここには初めから魔法が満ちていました。オウラです。これがあなたがいた世界では極端に少なく、こちらでは十分にあった、そう言う事です。ただ、こちらでも人間も他の生物も恩恵を受けられるのはそれほどいません。皆少しずつ持ってはいますが、自由には使いこなせない事もあります。オウラを多く持っており、自由に使いこなせるものが人間では魔法使いとなり、さらに魔法使いの枠を超えて使いこなせるものは、様々な修業を経て私達のように神と呼ばれるものに昇格することもあります。』
ひぇ~。魔法使いから神に昇格?
「で、では、女神さまももとは人間だったのですか?」
『 いいえ。私は妖精から昇格したものですよ。先代の闇の神スキアーがもとは人間でしたが、今のスキアーは竜種からの昇格です。』
「え、えっ!!!先代?神様の交代ってあるんですか?!神様の名前は引き継ぎ?」
『 そうですよ。元の名前は使いません。六~八千年位経つと交代するようになるでしょうか。私はあと千年ほどは大丈夫でしょう。今のスキアーは交代してまだ千年経ちませんけれど。』
なんともびっくり。神様交代とは。その交代する条件とかあるんだろうか。
何だかいろいろ突っ込みどころはあるけれど、オウラのある無しでこうも違ったのか。
神も妖精も魔法が使える動物も、人間の魔法使いもいる世界。
俺の住む地球が極地転移しなければ、俺がここに来ることもなかった。
けれど。
「私の住んでいた地球は、その後どうなったのか分かりますか。」
『 地球自体は壊滅ではありませんよ。生物は減少したとはいえ、たくましく生きています。ただ、時間軸もずれてしまったようで、極地転移が起こってから現時点まではすでに三百年経っています。少しずつ時間軸もずれてしまっているようで、今までは百年に数人ほどの流入だったのに、この百年で百人以上ですから、困ったことになりそうです。』
「というと?どう言うことですか?」
『 つまり科学の力がこの世界にも発達してしまうと言う事ですよ。科学的な知識やいらない文明を知った知識のある人間が、大勢いたとしたら争いが起こります。下手をすると戦争の道具を作り出してしまう。そこが、困ったことなのです。』
「つまり、異世界からの人間が、いらない知識でもって戦争の道具を作り出してしまい、この世界が争いに巻きもまれてしまうかもしれない、という心配ですか?」
『 そうです。今のところ、そういった人々がいなかったのは幸いですが、万一そうならないためにも何か手を打たねばならないと思っていました。この世界が、汚染されることも避けたいのです。』
そうか。科学知識は確かにまだこの世界にいらないだろう。
自然豊かな、妖精のいる、魔法に満ちた世界に科学の力が必要だとは思えない。
俺のいた世界では、地球の環境汚染が問題になっていた。
科学が発達すると、どうしても避けては通れないだろう。
俺達に何か出来ることはないだろうか。
「私に出来ることはあるでしょうか。」
『 そうですね。手伝っていただけますか。』
「私も微力ながら何かしたく思いますが。」
思わず俺は女神にそう言ったが、この時は俺もまだ義侠心にあふれて言っただけにすぎなかった。
俺の世界のことは俺の責任でもある、っていう思いで言ったのだけれど。
これがきっかけで、女神の頼まれごとを果たす羽目になろうとは思いもしなかった。




