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【BL-完結確約】竜と子猫と秘密の花園 ——騎士は幼馴染の治癒士を誰にも抱かせないため最強を目指す  作者: 良音 夜代琴


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3/6

初めての友達とたったひとつの嘘(3/3)

 〈引き続きリュンドベルグ視点〉


 ミロスさんは俺の怪我の様子を確認すると、キトルマイヤのふわふわ頭をぐりぐり撫でて言う。


「おーおー、上手に治せてんじゃねーか」


 キトルマイヤはまだ小さいのに頭を大きく揺らされたせいで視線がゆらゆらと彷徨っている。

 治癒士だというのに乱暴な人だな。

 ……俺ならもっと優しく撫でるのに。


「しかし、あの怪我が一度で治るなんて思わなかったよ。キトルマイヤ君はすごいんだね」


 セラウリド様の言葉には、俺も素直にそう思う。

 これまで、治癒士といえば同じところを何度も何度も舐めて治すイメージだったのに、キトルマイヤは俺の酷い怪我をたったの一度で治して見せた。


 俺達の様子にキトルマイヤが首を傾げると、ミロスさんがその頭をぽんぽんと叩く。


「いや、キトルマイヤが特別なんじゃねーよ。俺でも体液が3、4種混ざりゃこーなる」


「へぇ、色々混ざる方が効くんだね」


 感心したようなセラウリド様に「困ったことにな」と答えたミロスさんの声は何故かとても冷たく聞こえた。


「……ああ……そうか、それで……。確かに、それは困った事だ」


 同意するセラウリド様の声までもがどんどん沈んでゆく。


 一体何が困るんだろうか。


 3、4種類の体液ということは、涙と鼻水と……汗と、涎か……?


 冷静に考えるとちょっと酷いものを塗られた気もするが、それでこんなに一瞬で綺麗に治してもらったなら、文句をつけるのはお門違いだろう。


「セラがそんな顔する必要ねーって。再来年からは俺もそっちの仕事になんだし、もうとっくに覚悟はできてるよ」


「ミロス……」


「セラなら、優しくしてくれんだろ?」


「それはもちろんだけど、……私にはミロスが大人しく騎士達に身を任せる姿は想像できないよ。君はどちらかというと逆の側なんじゃないのかい?」


「……うん? それもありなのか……?」


「もちろん相手次第だろうけど、前例はあるようだよ」


「へぇー、なるほどな……。俺もいっちょその方向で考えてみっか」


「ふふ、その方がミロスらしいよ」


「あんがとな、セラ」


「いや、こんなことしかできなくてすまない」


「そんな風に言うならさ、俺の為に頑張ってくれよ」


「え……?」


「セラが騎士団長になって、俺をもらってくれよ……」


「ミロス……」


 なるほど、ミロスさんはセラウリド様の専属治癒士になりたいのか。


 騎士団には各団にそれぞれ最低7名の治癒士が配属されるが、そのうち2名は騎士団長と副団長の専属治癒士とされる。


 もちろん仕える者の指示があれば他の団員の治癒も行うが、指示がない限りはたった1人を癒すだけでいいので仕事量が極端に少ないらしく、騎士棟勤めの治癒士であれば専属治癒士は誰もが憧れるポジションだと言われていた。


 しかし、今の俺とセラウリド様の所属する第2騎士団のトップは俺の父だ。

 あの人に敵う人は向こう10年は現れないだろうと言われるほどに、父の剣の腕は群を抜いていた。


 まだ15歳のセラウリド様があと2年で父を越えられるとはとても思えないし、現状は副騎士団長の足元にすら及ばないだろう。


 見つめ合う2人は、2人だけの世界に入っているようで、怪我はキトルマイヤに全て治してもらったものの、声をかけづらい。


 そんな俺の肩を、キトルマイヤの小さな手がトントンと叩いた。


 振り返った途端、水色の瞳が俺をじっと見つめていたことに気づく。


「あのね、僕キトルマイヤ」


「あ、ああ。挨拶が遅くなってすまない。俺はリュンドベルグ=ゼクストスだ。この度は時間外の労働を強いてしまい申し訳ない。怪我を治してくれた事、大変感謝する」


 この国では治癒士は1人残らず国に抱え上げられ、その生活は全て国が保障している。

 騎士もまた、国に仕える身分だ。

 そのため治癒士から受ける治癒に騎士が対価を払う必要はない。


 だが、それでも時間外労働分は、何か個人的に礼として埋め合わせるべきなんじゃないだろうか。


 キトルマイヤは俺の言葉に不思議そうに瞳を瞬かせる。

 ああ、まだ幼い平民の子には、言葉が分かりづらかっただろうか。


「リュー……ン、ド……? えっと、僕と、お友達になってくれる?」


 名前の半分しか覚えられていないじゃないか。


 そんなキトルマイヤにもう一度名前を教えるのも酷な気がして、俺は少し考えてから答える。


「俺の事はリューと呼んでくれたらいい。俺で良ければ、キトルマイヤの友となろう」


 承諾はしてみたが、俺にはこれまで友と呼ばれる者がいた試しがない。

 うまくできるかはわからないが、彼が望むならば精一杯応えたいと思う。


「とも……?」


「ああ、友達のことだ」


「わあっ、ありがとう、リューっ」


 水色の瞳をきらめかせて、キトルマイヤがぎゅっと俺に抱きついてくる。


 きょっ、距離が、近すぎやしないだろうか……?


 平民というのは幼い頃からこんなにフランクな付き合いをするのか?


 確かに、先ほどからミロスさんは度々キトルマイヤの髪に触れていた。

 それならば、友となった俺も触っていいのだろうか……?


「じゃあ、リューは僕のことキトンって呼んでもいいよっ」


「キトン……」


「うんっ」


 ああそうだな、君は確かに子猫のようだ。

 しなやかな体と、真っ白くふわふわした髪に、水色の瞳。


 今は私服を着ているようだが、治癒士の制服は見習いも含めて白が基調だ。

 白地に青と金で装飾された治癒士の服はきっとキトンによく似合うだろう。




 こうして、キトンの友となった俺は、毎日この『秘密の花園』で彼と会うようになった。


 この場所を教えてくれたのはセラウリド様だ。

 ここは元々セラウリド様とミロスさんの2人だけの秘密の場所だったらしい。


「私達も、先輩の騎士と治癒士にそれぞれ教えてもらったんだよ」


 そう言ったセラウリド様は「ミロスも去年から騎士棟に通うようになって、ここはあまり使わなくなっていたんだ。可愛い後輩達に譲るよ」と言って、少しだけ寂しげに微笑んだ。


 この場所は丁度騎士棟と教会から同じ程度の距離にあり、確かにどちらから来るにも都合が良い。


 キトンには宿舎の門限があり、俺もあまり遅いと叱られるので、そう長い時間ではなかったが、一日の終わりにキトンと少しの時間を共にするのは、俺にとって幸せなひとときだった。



「それでねぇ」


 キトンのまだ舌ったらずな声が、俺に懸命に話しかけている。

 ああ、可愛らしい声だ。


「騎士様の言う事は絶対なんだって、僕達治癒士は何でも言う事聞かないとダメだって教師様が言ってた……」


 キトンはそう言って、水色の美しい瞳を伏せた。


 ……どうして治癒士はそんな一方的な関係を強いられるんだろうか。


 俺達騎士は、任務をこなす上でどうしても怪我をする事がある。

 治癒士がいなければ困るだろうに。


 だが、騎士がいなくても治癒士は困らないだろう?


 ならば、我々騎士は治癒士に感謝こそすれ、不当に扱うべきではないはずだ。


「騎士様は、僕の腕をすごい力で掴んで、グイグイ引っ張って無理矢理ここに連れてきたんだ。痛いって言っても、嫌だって、離してって言っても離してくれなくて……、すごく怖かった……」


 いつも溌剌と話すキトンの声が、一瞬小さく震えた気がした。


 俺は騎士達にどれほど腕力があるのか知っている。

 そんな騎士達にガッチリ掴まれてしまえば、こんな細い体では逃れようがないだろう。


 キトンが恐怖を感じるのは当然だ。


 俺はキトンを励ましたくて、その白い髪に手を伸ばしてみる。

 あの時ミロスさんがしていたように、頭や背を撫でてやれば少しは慰めになるかもしれないと思って。


「僕……騎士様って嫌いだな。すごく怖いんだもん……」


 怯えに少しの憎しみがこもった声に、伸ばしかけていた手も息も止まった。


 そんな俺を見たキトンが「あ……」と気づく。


「リューは……騎士見習いなんだよね? 将来はリューも騎士になるの……?」


 俺を探るようなキトンの視線に、返事が喉に詰まった。


 ここで「そうだ」と答えたら、俺はキトンに嫌われてしまうんだろうか……。



 ……嫌だ。


 そんなのは絶対に嫌だ。




 キトンに嫌われたら、もうここに来てくれなくなったら……俺は、どうしたらいいのか分からない……。



「い、いや、俺は、その……騎士じゃなくて、衛兵だから……」


 咄嗟の嘘に、言った自分が驚く。


 どうしてこんな下手な嘘を……。

 キトンが騎士棟に来るようになれば、いずれ顔を合わせる事になるのに。


「えーへー?」


 キトンが、きょとんと瞳を瞬かせて首を傾げる。


「ほらその、扉の前とか、門の前とか、廊下に立ってる鎧の人だ」


「ああ、そうなんだ。じゃあ門番さんも、えーへーさんなんだね」


「衛兵な」


 キトンが両手を胸に当てて、大切そうに「えいへい、さん……」と俺の言葉を繰り返す。



「シスターが言ってたよ、門番さんがいるから僕達はここで安心して暮らせるんだって。リューは大きくなったら僕達を守ってくれる人になるんだね」


 嬉しそうなその様子に、ズキンと胸が痛んだ。

 キトンを騙してしまった。

 だけど、俺が衛兵になると思ったキトンは、こんなに喜んでいて……。


「衛兵さんも、こんなに傷だらけになって訓練をするんだね。僕知らなかったよ、いつもありがとう、リュー」


 水色の瞳が感謝を浮かべて微笑む。


 嬉しそうなキトンを前に、俺は、違うとも嘘だとも言えなくなってしまった。




 こうして、臆病な俺はキトンに衛兵見習いだと思われたまま、2人だけの時間を重ねる事になった。




読んでくださりありがとうございます!!


「イマイチ好みじゃなかったな、ここまでにするか」という場合も

足跡がわりに★1~3でご評価いただけると大変参考になります。


ひと手間おかけしてしまいますが、どうぞよろしくお願いします。

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