表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

祈り

応援したい!と思ったらブックマークやリアクション、下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等をよろしくお願いします!

教会へと続く森は、不気味なほど静かだった。

鳥のさえずりすら聞こえない、風が木々を揺らす音だけが流れていく。


そんな静寂の中を、一台の白い馬車がゆっくりと進んでいた。


車内には純白の祈りの装束を纏った結奈が窓の外を眺めていた。そして、その隣にはメイドのロセが静かに座っていた。


純白のベールは陽の光を受け、結奈をまるで花嫁のように映した。

けれど、そのベールの下にある表情は青白いものだった。


「……お嬢様」


ロセが結奈に優しく声を掛ける。


「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

「……はい」


結奈は短い返事をする。それだけで精一杯だった。

結奈は膝の上でぎゅっと拳を握る。


(怖い、失敗したらどうしよう、もし、本物のメルーナさんじゃないってバレたら)


胸の奥で、嫌な鼓動だけが大きくなる。


………


やがて馬車は止まった。


「到着いたしました。」


ロセに促され結奈は外へと降りる。

目の前には、森に溶け込むように建つ白い教会、人の気配はほとんどない。


まるで世界から切り離されたような場所だった。

そして、教会の入口には、一人の騎士が立っていた。

巨大な鎧、鋭い眼光、まるで教会を守る熊のようだった。


「ごきげんよう、グランドマスター」


ロセは熊のような男に対し、深く頭を下げる。結奈も慌てて同じように礼をする。


「ごきげんよう、メルーナ様、ロセ」


男は低く響く声で礼儀正しく手を胸に当てる。


「メルーナ様、きっと、今のメルーナ様は私が誰だか分からないでしょう?」


結奈は申し訳なさそうにゆっくりと頷く。


「はっはっは、では改めまして、私はアルバン・ルイル、毎年、メルーナ様が祈りをする際ね護衛を務めております」

「そう、だったんですね…よろしくお願いします……」


結奈は先ほどのロセのように深々と頭を下げた。


「はい、メルーナ様の事は命に代えても、お守りいたします」


その一言に、結奈は表情を歪めた。


(命に代えても...か)


………


結奈とロセは教会へて足を踏み入れる。

外とは違う空気感、静かで、息を吸うだけでも心まで洗われそうな空間だった。


「メルーナ」


結奈は肩を揺らし、下に向けていた視線を前に向ける。そこには壁にもたれてメルーナを待っていたルイゼンが居た。


相変わらずの優しい笑顔、しかし、その笑顔は結奈を見るなりまたもや曇った。


「……今日も顔色が悪そうだね」

「大丈夫です」

「本当に?」

「はい」


また嘘。

しかし最近は嘘をつくことにも慣れてしまった。


………


三人は長い廊下を歩く。

するとルイゼンが自然に結奈の隣へと近づく。


「毎年言ってるけど…」


ルイゼンは照れくさそうに笑う。


「その衣装、とても似合ってるよ」


結奈は目線を逸らした。


「……ありがとうございます」


結奈が下を向くと、耳にかけていたメルーナの美しい髪はさらりと落ちていき、顔を隠した。


(見ないでそんな優しい目で、見ないで)


そんなことを考えているうちに、三人の目の前には大きな扉があった。


ロセがよいしょ~と言い、扉を開ける。


その瞬間、結奈は思わず息を呑んだ。

白い大理石、澄み切った噴水、天井から降り注ぐ光。


そして祭壇には、女神を象った巨大な石像。


まるで作られた舞台のようだった。


(……綺麗)


結奈は立ち尽くす、そして、すぐに思い出す。

ここに立てるのは聖女だけ。


そう、本物の聖女だけ。


私は、舞台を盗んだ偽物。


プリマドンナが怪人の手により舞台上へと押し上げられたように。


少女が迷い込んだ夢の国のように。


海のお姫様が王子の隣へと立てなかったように。


ここは私が居ていい場所ではない。


「お嬢様、お姫様!」


結奈はロセの声で我に返る。

そして手を引かれ、祭壇の前へと連れられる。


「ここへ」


そして結奈はロセされるがまま、正座になり胸の前で手を組んだ。


「……あとは祈るだけです」


そう言い、ロセは少し離れた場所へと行ってしまった。


(いや、その祈り方が分からないんだけど!?)


結奈の頭の中は真っ白だった。

どうする、魔法を使う?使い方が分からない…詠唱?何て言えばいいの?神様の名前?知らない!多分レミーラ?


どうしよう、何も分からない。


(お願いだから誰か教えて……)


沈黙だけが流れる、その時だった。

深呼吸をし、結奈は静かに目を閉じる。


(……私は本物じゃない、だから全てが私に向けられたものではない…でもこの国の人達が優しくしてくれたのは事実)


ロセさん、ルイゼンさん、リリーナちゃん、皆が楽しそうに笑っていた。


だから。


(どうか、この人達が今日も明日も笑えますように)


その瞬間だった、眩い光が祭壇から溢れ出した。


教会全体が白銀に染まる。


「……!」


ルイゼンが息を呑む。


「やっぱり……」


ロセは目を潤ませた。


「お嬢様……」


しかし結奈だけが理解できていなかった。


(え、成功したの!?)


その時、人間とは思えない不思議な声が結奈の頭の奥で囁いた。


《……新たな聖女よ》


ぞくり、と結奈の背筋が震える。


《まだ迷っているのか》


(……誰?)


《偽物も、本物も関係ない、祈りとは、願いだ。その願いが我に届く限り、お前もまた聖女である》


それだけ言い終わると、声は風に溶けるように消えていった。

同時に光も静かに収まる。教会に再び静寂が戻る。


そして、ルイゼンは安心したように笑った。


「流石だよ、メルーナ、記憶を失っていても、この国を想って祈れるなんて。やっぱり君こそが、本物の聖女だ」


その言葉に結奈は胸が締め付けられる。


(違う、違うよ。私は……)


しかし、結奈は誰にも真実を言わない。


結奈は小さく笑って…


「……ありがとう」


そう答えることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ