愛おしい
「…リリーナちゃんが…?」
結奈はベッドに座ったまま呆然とする。
「はい、軍団長様がリリーナ嬢の部屋を訪れた時に発見されたようで、軍団長様は何度もリリーナ嬢に声をかけたそうですが、全く目を覚まさなかったようで…」
ロセの代わりに新しく来た専属メイドは気まずそうに起きたばかりのメルーナに事の事情を話す。
「……嘘…リリーナちゃん…」
結奈は目の前がぐるくると回った。
「…すみません、ちょっと一人にならせて下さい…」
「…かしこまりました」
新たな専属メイドは少しぎこちなく頭を下げると、メルーナの部屋から出ていった。
「…リリーナちゃん…」
結奈は監禁されたとき同様、どうしようも出来ないという絶望に打ちひしがれていた。
すると部屋の窓が強く揺れ、ガタガタと音を出し始めた。
「え?何…?」
結奈は怯えた態度を見せる。
しかし音はどんどん激しくなっていき、ついにパーティーの時同様、窓はパリン!と綺麗に割れた。
結奈は驚き目を伏せるが、特に何も起こらず
目を開けてもガラスの破片以外に見当たるものはなかった。
「………」
結奈は恐る恐るベッドから降り、ガラスを踏まぬよう気を付けてながら窓の近くへと向かう。
「…何もない…?」
しかし周りを見渡しても誰も何もなかった。
結奈がふぅ、と安堵のため息を漏らした瞬間、腹部がじんわりと熱を持ち出した。
「…ゴフッ…ゲホッ…え…?」
結奈は派手に口から血を吐く。
何事かと結奈が腹部を見ると、背後から誰かの手が結奈の腰に巻き付いており、その手には自身の腹部に突き刺さる鋭いナイフが握られていた。
「…あ…ぇ」
「んふふ、ホラー映画、ゲームあるある!
怪しいとこには何もなく、安心した瞬間に背後から驚かされる!」
結奈の背後から場に合わない陽気な声が聞こえる。
「…ごめんねぇ、結奈ちゃん…試したいことがあってさ、大丈夫、すぐに蘇らせるから!」
背後から聞こえる声は訳の分からない事を言い続け、突き刺しているナイフを切り裂くように下へと滑らせる。
「あ"、があ"あ"あ"あ"ぁぁ!!」
結奈はあまりの痛みに図太い悲鳴を上げる。
「ヒュッ…があ”………」
結奈は走馬灯すら見えぬまま、初めての死を迎えた。
「ごめんねぇ、痛いよねぇ、でもこれもアタシ達が永遠に愛し合う為だから、ね?
だからちょっとだけ我慢してね?」
陽気な声は子供を慰めるような声へと変わり、ただのメルーナとなった結奈に話し続ける。
「よし!じゃあアタシ達のお家に帰ろっか!」
陽気な声の持ち主は優しく結奈をお姫様抱っこする。
しかしその瞬間、少し遠くからメイド達の声が聞こえる。
結奈の悲鳴に駆けつけたのだろう。
「やべ」
陽気な声はそれだけ言うと、不思議な魔力が漂う森を思い浮かべ、転移魔法を使い移動した。
………
「ん……えぇ………………
………ヒュッ!…あ"あ"あ"ぁ!!」
結奈は痛々しい声を上げ飛び起きる。
「ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ…ゴプ…
オ"エ"ェェ…あ"ぐ、う"え"ぇ…?」
結奈は混乱したまま、嫌でもはっきりと覚えてしまった死の感覚に襲われ嘔吐し、過呼吸を繰り返す。
「結奈ちゃん!?起きた?大丈夫?」
「…アヒュ…ぁぇ」
結奈が吐いていると扉が強く開き、メルーナに負けないほどの麗しい女性が驚いた様子で結奈に近寄った。
「ごめんね、本当にごめんね、こうするしかなかったの…でも安心して?ちゃんと上手くいったよ」
女性は結奈の背中を優しく擦りながら優しい声色でよくわからない報告をする。
「…誰…」
結奈がやっとのことで絞り出した言葉に女性は嬉しそうに微笑む。
「…嬉しい、やっとアタシを見てくれるんだね。
アタシは奏、こっちではどうやら
バルツ?って名前らしい、どーでもいいけど。
アタシは、可哀想な結奈ちゃんを唯一愛し続けた女だよ♡」
「かな…で…?バルツって…」
「そうだよ、奏だよ♡覚えてるかな?こっちに来る前にも会ったよね♡?」
「…来る前…?」
結奈は首を傾げる。
そんな様子の結奈に奏は少し悲しそうな顔をし、結奈の頭に手を置いた。
すると結奈の脳内に電気のようなものが走ると、すぐにしまっていた記憶を思い出した。
………
(どうして…どうしてよ…!)
………
「つぅ~かぁ~まえた!」
「きゃあっ!!」
………
「ずっと会いたかった…」
「いや……」
「ずっと見てた…」
「やめて……!」
「ずっと、アタシだけのものにしたかった…」
………
「…あ、あぁ…う、嘘…」
結奈は目を虚ろにし涙を流す。
「結奈ちゃん、泣かないで…?
アタシコーフンしちゃうから♡」
奏は目を細め頬を薔薇のように赤く染める。
「…い、嫌、助けっ…」
結奈は酷く怯える。
「どーしてそんな事言うの?アタシなら結奈ちゃんが欲しい愛をいっぱいあげるよ?お願いならなんでも聞くし、結奈ちゃんに酷いことしないよ?
…それに、結奈ちゃんとアタシの邪魔をしそうなやつは全員消したから、だぁれもアタシ達の邪魔をしないよ♡だから安心して?」
奏は幼い笑顔を結奈に向ける。
「…ルイゼンとリリーナちゃんは、貴女が…?」
「もう~やだなぁ~アタシの名前は貴女じゃなくて、奏だよ?」
「…奏…さん…いったいどうやって…だってリリーナちゃんは強くて―」
「そんな事なかったよ?あのピンク女、警戒のけの字もなかったんだから。だぁ~し、あの王子様は敵でもなかったね」
奏は平然と言ってのける。
「…嘘、でも…」
「うーん、まぁこの身体じゃなかったら少しは手間取ったかも?この身体、凄いんだよ。
この家、森の中にあるんだけどさ、誰にも入られたくなかったから森全体に魔法をかけたの、とりあえず、アタシに、いや、バルツ?ちゃんに悪意を持ってる人にだけ加害する魔法。
最初は生き物という生き物全体を対象にする予定だったけどそれもそれで変に疑われても嫌だったからねぇ。
まぁとにかく、そしたら難なく出来ちゃってさ、難しい魔法もお茶の子さいさい、流石聖女?なだけあるね、お陰でこの身体の兄貴から身を隠すのもよゆーだったし」
身体の兄貴、ヴィリデルーネの事だろう。
「…バルツちゃん?はあの兄貴に虐められてたっぽいね。
何でだろ?こんなに強いのに、もしかして自分の力に気付いてなかったのかな?それともあの兄貴の顔を立ててた?まぁ、どーでもいいけど。
とりあえず、これでアタシ達は邪魔なく愛し合う事が出来るよ♡
神様とやらも大丈夫、だって今の結奈ちゃんに聖女の力は宿ってないからね」
「…へ?」
「アタシちゃんと聞いてたよ、聖女が死んだら聖女の力だけを回収するして新しい聖女を産み出すって、だからアタシ考えたんだよね、一回死んで生き返らせたら聖女の力だけ失って帰って来るんじゃないかって。
ほら!ゲームのバグみたいな感じで!
実際それで上手くいったしね、神様も案外チョロいね」
奏はそう言うと自身の懐から一枚の記事を取り出した。
「ほら、あ、ちなみに、結奈ちゃんは二週ぐらい死んでたよ!」
奏はそう言葉を付け足し記事を渡した、記事には…
『不運続きのレミーラ王国、聖女であるメルーナ・チェルラーがまたもや失踪、それに加えレミーラ王国騎士団の副団長であるリリーナ・ルイルは意識不明、不安に飲み込まれるレミーラ王国、しかしレミーラ神様は我々を見放さなかった!
レミーラ王国にて新たな聖女が誕生!!』
そう綴られてある記事を見て結奈は全体の力が抜ける。
「…薄情だよね…あんなに聖女様聖女様って言ってたのに、この記事見るとまるで新しい聖女産まれたし探さなくていっか!っていってるようなもんだよね」
奏は吐瀉物まみれの結奈を優しく抱き締める。
「酷いやつらだね、でも私は結奈ちゃんを見捨てないよ、絶対、アタシは結奈ちゃんには嘘つかないから、だからこのままアタシと一緒にいよーね結奈ちゃん♡」
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