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始めての友達

「うーん…どれにしようかなぁ〜!」


ビュッフェ形式の食堂を見渡しながら、リリーナは目をきらきらと輝かせる。


「聖女様はどれにする?」

「えっ、わ、私?」


急に話を振られた結奈(ゆいな)は慌てて料理へと目を向けた。

長いテーブルいっぱいに並ぶ料理、焼き立てのパン、湯気の立つスープに宝石のような果物、こんがり焼けた肉料理。


どれも高級レストランのような見た目だった。


(すごい……学食だよね……?)


日本で通っていた高校の購買とは比べ物にならない。


「…よしっ!」


結奈は意を決して皿を取る。


「これと……これにする!」

「あっ!じゃあわたしも!」


リリーナも慌てて同じ料理を取り始める。


「ほ、本当に同じでいいの?」

「うん!だって聖女様が選んだの美味しそうだったもん!」


リリーナは悪びれる様子もなく笑う。

そんなリリーナに結奈は思わず吹き出した。


「ふふっ」

「笑った!」

「え?」

「聖女様今笑った!」


まるで珍しいものでも見つけたようにリリーナが嬉しそうに言う。

そんな反応をされてしまうと、結奈なんだか恥ずかしくなり照れてしまった。


二人は空いてる席へと座る。


「よし!食べよう!」

「うん、いただきます」


結奈は手を合わせる。


「何それ?」

「へ?」

「今の何~?」


リリーナは興味津々に訪ねる。


「えっと…人が頑張って作った野菜や動物の命を頂くから、ありがとうって意味の言葉?だよ」

「へ~!!聖女様は詳しいね!じゃあ!いただきます!」


リリーナは結奈の真似をし、手を合わせる。

結奈はそんなリリーナを見つめつつ、まずはスープに手を伸ばす。

そして一口…


「……!」


濃厚な旨味が結奈の口いっぱいに広がる。

野菜の甘みに優しい香辛料。


身体の奥まで温まる。


「お、美味しい……!」


思わず声が漏れた。

続いて結奈はパンを持ち、ちぎる。

ふわふわとした感触が結奈の手に伝わる。


「…何も付けてないのにおいしい…」


今度は肉。

ナイフで刺すと、じゅわっと肉汁が溢れる。


「……幸せ」


結奈は夢中で食べ続ける。


「んふふ」


そんな結奈をリリーナは頬杖をついて眺めていた。


「聖女様って本当に美味しそうに食べるね!」

「へ?」


結奈は我に返る。


「あ……ご、ごめん!」


結奈は慌てて姿勢を正した。


「はしたなかったよね……」


するとリリーナは首をぶんぶんと横に振り言った。


「なんで謝るの?」

「え?」

「美味しそうに食べる人って見てるだけで幸せになるんだよ?父様が言ってた!だからわたし、聖女様が食べてるの見るの好き!」


リリーナはにぱっと笑う。

その笑顔を見た瞬間、結奈の胸が少しだけ温かくなった。


(……友達みたい)


その言葉が浮かんだ瞬間、結奈の心が少しだけ痛んだ。


友達。


その言葉は結奈にとって、とても遠い存在だった。幼稚園でも、小学校でも、中学校でも、高校でも。


最初は皆、優しかった。


「遊ぼ!」

「一緒に帰ろ!」

「友達になろ!」


皆はそう言ってくれる。


でも。


三日も経たないうちに、誰も結奈に近寄らなくなる。目が合えば逸らされる、陰でひそひそ話される。


まるで、自分だけが別の生き物になったみたいだった。

何が悪かったのか分からない。だから結奈は聞いたことがある。


………


「……私、何かした?」


結奈は勇気を出して尋ねた。

しかし相手は少し黙る、それから冷たく言った。


「自分で考えたら?」


そのまま結奈に背中を見せ去っていく。他の人も同じだった。

理由は誰も教えてくれない。


だから。


今でも分からない。私は何をしたんだろう。何が悪かったんだろう。


………


(……きっと今回も同じ)


この子も最初だけ。どうせまた。


…嫌われる。


そう思うと結奈の胸は重くなった。


「聖女様?」


リリーナが結奈の顔を覗き込む。


「……大丈夫?」

「う、うん」


結奈は反射的に笑う。


「何でもない」

「うそだ」


しかし即答だった。


「え?」

「聖女様、今すっごく寂しそうな顔してた」


図星だった。胸がぎゅっと痛くなる。


「……」


言葉が出ない。するとリリーナは突然胸を張った。


「ダメ!」

「え?」

「友達に嘘つくの禁止!」


その言葉に結奈は目を丸くした。


「……友達?」

「そう!」

「わたしたち友達じゃん!」


あまりにも当たり前みたいにリリーナ言う。

まるで最初から決まっていたことみたいに。


「……私で、いいの?」


気付けばそんな言葉が口から漏れていた。


「え?」

「私なんかが……友達になっても…そのうち嫌になるかもしれないよ?」


言ってしまった、ごめんなさい、重いよね、こんなこと言われても困るだけなのに。


リリーナは少しだけ首を傾げる。


「嫌にならないよ?」

「でも……」

「ならない!」


リリーナはきっぱりと言った。


「だって聖女様優しいもん!わたし聖女様のこと好きだよ!」


その一言だけで、結奈の目が少し潤んだ。


(……好き)


そんなこと言われたの…いつ以来だろう。


いや。


言われたこと、あったっけ…思い出せない。


「そうだ!」


リリーナは突然立ち上がり、視線の的になる。


「わたし聖女様って呼ぶのやめる!」

「え?」

「メルーナちゃんだから~ルーちゃん!」


リリーナは期待でいっぱいの笑顔を結奈に向ける。


「……いいの?」

「もちろん!じゃあこれからわたしはルーちゃんのお友達のリリーナ!友達だから隠し事も禁止!」


結奈は思わず笑ってしまった。


「……ふふ」

「笑った!」

「もう!」


結奈は自然に笑えた。この世界へ来て初めてだった。


「……じゃあ」


結奈は右手を差し出す。


「これからよろしくね」


結奈は少しだけ勇気を出して続ける。


「……できれば、末永く」


その言葉には。


()()()()()()()()()()


という願いが隠れていた。しかしリリーナは気付かない。気付くわけがない。


「もちろん!」


リリーナは勢いよく手を握る。


「ずーっと友達!」


その無邪気な笑顔に、結奈は胸の奥が熱くなる。


(……信じたい、でも、信じたらまた傷ついちゃう…)


それでも繋がれた手だけはどうしても離したくなかった。


「じゃあ、はい!」


リリーナは席に座ると突然スープをすくったスプーンを結奈に差し出す。


「あーん!」

「へっ!?」

「ほらほら!お友達なんだから!」

「え、えぇ!?」


周囲の視線も気にせず、リリーナは満面の笑みで結奈を見つめる。


結奈は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、小さく口を開けた。


「あ、あーん……」

「あはは!かわいい!」


温かなスープが口に広がる。

結奈は照れながらも、どこか嬉しそうに笑った。


その日、結奈はまだ知らなかった。


リリーナの距離感がただただ近すぎるだけだということを。


だから結奈は…


(これが友達なんだ…!)


そう、勘違いしたまま、嬉しそうに笑うのだった。

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