魔法使いに恋をした
兵たちは剣を構え、迫り来る異形の怪物へと立ち向かう。
腐敗したような姿をした怪物は、人の言葉とも獣の咆哮ともつかない不気味な声を上げながら、次々と飛び掛かってきた。
その背後ではフメル王国の兵も容赦なく剣を振るう。
敵も怪物も、一斉に押し寄せてくる。
「……っ、数が多すぎる……!」
リリーナは眉をひそめながら銃を撃ち続ける。
乾いた銃声が何度も荒れ地へと響き渡り、一体、また一体と怪物が倒れていく。
しかし倒れた怪物は霧となって崩れ去るだけで、血も肉も残さなかった。
「倒せば消えるだけ、まだ救いがありますよ!」
グイユが剣で怪物を受け流しながら叫ぶ。
「中には何度も蘇る個体もいると聞きます!油断は禁物です!」
「ならば、動きを止めるまで斬り伏せるだけだ!」
アルバンは低く言うと、身体強化魔法を自身へ重ね掛けした。
次の瞬間、その姿が風のように駆ける。
剣閃が幾重にも走り、怪物が次々と霧へと変わっていく。
「軍団長様だ!」
「続け!」
「道を開いてくださったぞ!」
兵たちの士気が一気に高まった。
アルバンを中心に隊列が前へ押し進み、怪物の群れを少しずつ切り崩していく。
その光景に敵兵たちの表情が変わる。
先ほどまでの余裕は消え、焦りと恐怖が滲み始めていた。
「押し返されるな!」
「国王陛下に顔向けできんぞ!」
自分たちが敗北すれば、待っているのは首を跳ねられる未来。
その恐怖だけが敵兵を無理やり前へ進ませていた。
「12時を過ぎたシンデレラでも少しは落ち着いてたんじゃない?慌てすぎると地面に敷かれた罠に気付けないよ!」
リリーナは挑発しつつ、冷静に敵を観察する。
「…だいぶ焦ってる」
銃を構え直しながら、リリーナは小さく呟く。
「父様の強さが予想外だった……いや、それだけじゃない」
敵兵の目には、敗北への恐怖ではなく…敗北の後を恐れているような色があった。
リリーナは思考を巡らせながらも、引き金を引く指だけは止まらない。
その時だった。
少し離れた場所で複数の敵兵に囲まれているロセの姿が目に入る。
「ロセさん!」
リリーナが叫ぶ。
「リリーナ嬢!」
ロセも必死に応戦していた。
しかし、その声を聞いた瞬間。
「ロセさんっ!」
グイユが表情を変えた。
普段の冷静さを失い、一目散に駆け出した。
「待っ―!」
リリーナがグイユ止めようとした、その瞬間だった。
怪物が死角から飛び出してくる。
「グイユ!!しゃがめぇ!!!」
バキッ!!グチャ…クチャ…ゴプッ… ブシャァァ!!!!
骨を噛み砕くような音、肉を噛み締めるような音、恐ろしい勢いで噴き出す血、それらはその場の時を止めた。
グイユは腕どころか右肩ごと化物に食いちぎられてしまったのだ。
否、むしろ右肩で済んで良かったと言うべきだろう。
グイユは最初何が起こったか理解出来ていなかったが、徐々に状況を理解するにつれ、声を出せないほどの痛みと強烈な吐き気に襲われた。
そして
「グイユ様!!!!!」
悲痛なロセの叫びが響いた。
「……」
リリーナは無言のままロセを囲んでいた敵達を一瞬でなぎ払い、グイユの腕をまだ口に入れている化物の頭銃で撃ち貫く。
「ロセさん!グイユを!」
ロセは罪悪感満載の表情で頷きグイユの元へと全速力で向かった。
一方、ルイゼンはその光景を見つめ、強く拳を握った。
「……グイユ」
小さく漏れた声は震えていた。
怒鳴ることも、激情をあらわにすることもない。
ただ、大切な乳兄弟が傷つく姿を見て胸が締めつけられていた。
「誰も……これ以上傷ついてほしくない」
ルイゼンはその願いだけを胸に、静かに剣を握り締める。
「グイユを、皆を守ろう」
優しい口調のまま、ルイゼンは魔法陣を展開し、仲間を援護するため前へ踏み出した。
戦場に立つ王太子の瞳には、憎しみではなく、大切な人を守りたいという静かな決意だけが宿っていた。
………
「グイユ様!今治療致しますので!」
しかし痛みで気絶したグイユには聞こえてはいなかったが。
ロセは強い血の匂いと生々しくしっかりとした歯形がついてある肉に倒れそうになったが何とか気を保ち、お得意の治療魔法で血を止め、肉に皮膚を張り巡らせる。
「はぁッ…ふぅ、ごめんなさい…足手まといにならぬはずだっあぅ…フッ」
ロセは上がってくる吐瀉物を飲み込み本人には聞こえぬ謝罪をしながら治療を続ける。
数十分ほど続いた医療が終わると、溢れ続けていた血も止まり、綺麗さすらもみいだせてしまうほどの赤もしっかりと皮膚に包まれていた。
ロセは医療が終わった途端に腰が抜け、動けなくなってしまった。
ロセが何を思うかも分からない表情でグイユを見つめ、グイユが目をゆっくりと目を開け、頭だけを動かし周りを見渡した。
「…グイユ…様…」
「ロセさん…?」
二人が数秒ほど見つめあった後、グイユは顔を熟した桃のような色にするが、すぐに自身の身に何が起こったかを思い出すと、次は青い薔薇のような色に変わる。
「グイユ様吐き気などはごさいませんか?」
「は、はい…大丈夫です」
嘘だ、物凄く吐きたい。しかし目の前には思い人ががいるため、グイユは少し強がった言葉を発した。
「…ロセのことは気にせず、吐き気があるのでしたら遠慮なく仰って下さいね」
「…はい」
強がったのがすぐにバレてしまったグイユは恥ずかしさで顔を隠したくなった。
それに比例しロセは物凄く苦しそうな表情を浮かべる。
「…あの、申し訳ございませんでした」
ロセはそう言い、グイユに頭を下げた。
「え?!なっ何がですか?!頭上げて下さい!」 「ロセが油断したから…それでグイユ様と…リリーナ様に迷惑を掛け…グイユ様に関しては… 本当に申し訳ございませんでした」
ロセは美しい桃色の瞳を涙で濡らす。
「…ロセさんはお優しいですね、僕が怪我をしたのは完全に僕自身の不注意です。 正直、気にするな、と言われても難しいでしょうが、本当にお気に為さらず、それにロセさんが無事ならそれだけで僕は嬉しいです」
グイユは泣きわめく子供をあやすような優しく暖かい瞳でロセを見つめた。
「………はい…」
グイユのその表情にロセの心臓が少しだけ跳ね上がったのは内緒の話し……
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