表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/34

軍の前に立つのは

レミーラ王国の訓練場。


朝靄の残る広場には、数百を超える兵士たちが静かに整列していた。

誰一人として私語はない。


ただ張り詰めた空気だけが辺りを包み込んでいる。


そして、その最前列に立っていたのは、リリーナ・ルイルだった。

腰には普段愛用している大きな銃。

その小さな身体から漂う空気は、いつもの明るく人懐っこい少女のものではなかった。


リリーナは深く息を吸い、兵士たちを見渡す。

そして静かに口を開いた。


「……レミーラ王国の聖女、メルーナ・ヌ・ティアラー様が行方不明となって、一か月が経過しました」


その落ち着いた声に、兵士たちは自然と姿勢を正す。


「皆さんは、聖女様が失踪された理由をご存じでしょうか」


静寂が流れ、誰も答えない。知らされていないのだから当然だった。

リリーナは小さく頷いた。


「……聖女様は、自ら姿を消したわけではありません」


リリーナは拳をぎゅっと握る。


「姉妹国であるフメル王国のヴィリデルーネ・クーイ陛下によって連れ去られたのです」


その瞬間、兵士たちの間にざわめきが広がった。


「そんな…」

「まさか」


信じられないという声があちこちから漏れる。

リリーナは感情を抑えるように、一度目を閉じた。


「以前から、ヴィリデルーネ陛下は聖女様へ異常な執着を見せていました。そんなヴィリデルーネ陛下にわたしたちも警戒を続けていましたが……ほんの僅かな隙を突かれ、聖女様を守り切ることができませんでした」


その言葉には、自分自身を責める色が滲んでいた。


「……申し訳ありません」


リリーナが頭を下げる。その姿に兵士たちは誰も責めなかった。

むしろ、その姿を見て胸を痛める者もいた。


リリーナは再び顔を上げる。


「王太子殿下、ルイゼン様のご命令により、一か月ほど前、捜索隊がフメル王国へ向かいました。ですが、レミーラ王国とフメル王国を繋ぐワープゲートは壊れていました」


兵士たちの表情が変わる。


「そのため、捜索隊は海路を選ばざるを得ず、大幅に到着が遅れました……果たして、ワープゲート壊れていたのは偶然でしょうか」


リリーナは首を横へ振る。


「わたしはそうは思いません。我々の救助を妨害するために破壊された可能性が極めて高いと判断されています」


再び静かなざわめきがよぎった。怒りではなく、現実を受け止める空気だった。


「わたしたちは戦いたいわけではありません」


リリーナは真っ直ぐ兵士たちを見つめる。


「ですが、姉妹国との信頼は裏切られ、聖女様は今も囚われたままです。このまま見過ごすことはできません」


リリーナゆっくりと言葉を区切る。


「王太子殿下は、聖女様を救出するため、そして王国を守るために軍の出動を決定されました。しかし!これは侵略ではありません!大切な人を取り戻すための戦いです!」


兵士たちは互いに顔を見合わせる。

そして、一人が剣を掲げた。


「聖女様をお救いする!」


その声に続くように。


「「「おおっ!!」」」


と声が響く。今度は怒号ではない。

覚悟を決めた兵士たちの声だった。


リリーナはその光景を静かに見つめる。


(……ルーちゃん)


リリーナは本当に戦いなんてしたくなかった。血も見たくない、誰かに傷ついてほしくない。


(…それに…ルーちゃんも、こんな未来は望んでいない)


それでも。


「必ず迎えに行く」


リリーナは小さく呟く。


「だから……待ってて」


その声は誰にも届かなかった。

だが、その瞳には揺るぎない決意だけが宿っていた。


………


一方その頃。


王城の作戦室では、大臣や将軍たちが巨大な地図を囲んでいた。


「こちらから進軍すれば—」

「いや、この街道は狭すぎます」


議論が絶え間なく続く。


その様子を少し離れた場所から眺めていたのは、ルイゼンの専属護衛であるグイユだった。


(……本当に戦争するんだ…)


グイユはまだ実感が湧いていなかった。

幼い頃から仕えてきたルイゼンは、争いを好まない優しい人だった。


だからこそ、戦争を決断した時の表情が忘れられない。


迷い、苦しみ、それでも覚悟を決めた顔。


(ルイゼンも苦しかったはずだ)


だから自分が支えなければならない。

そう頭では理解している。

それでも胸のどこかでは別のことを考えてしまう。


(……もし、この戦で帰れなかったら)


思い浮かぶのは、たった一人の女性。

グイユはまだその女性に想いを伝えていない状態だった。


グイユは考える、想いを伝えるべきなのか、それとも、このまま胸にしまって戦場へ向かうべきなのか。

グイユがぐるぐると思考していると、一人の大臣に名を呼ばれた。


「グイユ殿」

「……はい?」


グイユは我に返る。

大臣は真剣な表情を向けていた。


「この進軍路について、ご意見をいただけますか」

「あ……申し訳ありません」


グイユは深呼吸し、地図へ視線を落とす。


(今は考えるな、まずはルイゼンを守る)


そう自分へ言い聞かせ、静かに作戦会議へ意識を戻した。

応援したい!と思ったらブックマークやリアクション、下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ