第33話 上洛(六)
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呂布が指定された商家に到着すると郭図の出迎えを受けた。戯志才は既に姿を消しており代わりに鍾繇の姿があった。
「呂布殿、如何でしたか?」
「何進から言質は取ったぞ。宮中でひと暴れしても罪には問われん」
「それでは羽林中郎将として近衛兵に喝を入れてもらいましょうか」
「幷州牧ではなく羽林中郎将か」
「宮中に乗り込むなら羽林中郎将で動くのが最適です」
「分かった。指図はお前に任せる」
「ありがとうございます。それでは明日の早朝に動く段取りで準備しておきます」
「任せたぞ」
呂布は郭図から宮中へ乗り込む段取りを聞いたので部屋から出ようとしたが、ある事を思い出して立ち止まった。
「二人に聞いてもらいたい事がある」
「何です?」
「何進から身内の保護を頼まれたのだ」
「身内の保護?」
何進との話し合いの中で娘の貂蝉を幷州で預かってほしいと頼まれて承知した事を二人に伝えた。
「何進に貸しを作れたのは大きい」
「呂布殿が後ろに付いていれば悪い虫は付きませんな」
「悪い虫?」
「良からぬ事を企む者の事です」
「幷州でやれば間違いなく終わりだな」
「それも見越して頼まれたのでしょう」
何進から側室に迎えても構わないと言われたが家族の事を理由にして断ったが、承諾していたら郭図や鍾繇から変な目で見られるのは明らかだったので呂布は冷や汗をかいた。
「袁紹を叩けば状況も落ち着くと思いますが、袁術にも警戒する必要があります。貂蝉様を幷州にお連れするなら袁術にも圧力を掛けてからの方が良いでしょう」
「どうすれば良いのだ?」
「袁紹を叩いた後で幷州牧として河南尹の役所に乗り込んで頂きます」
「今度は幷州牧としてか」
「袁家の内輪揉めで幷州にまで影響が及んだ責任を取れと脅します」
「大丈夫なのか?辞めますとか言わないだろうな」
「言いませんよ。袁紹が居なくなれば目の上の瘤が居なくなりますからね」
「逆に増長しそうだな」
「その時は変な真似をすれば一軍を率いて洛陽に向かうぞと脅して下さい」
「一戦交えるのか?」
「その覚悟があればやってみろという事です」
*****
宮中に設けられている執金吾の執務室で袁紹は配下の許攸から報告を受けていた。
「呂布が現れただと?」
「間違いごさいません。近衛の一隊が捕らえられたのを見た者が居ります」
「何進が呼び寄せたか…」
「恐らく主君と袁術を抑えきれないと判断しての事でしょう」
「袁術と和解されますか?」
「袁家の面汚しと和解など誰がするものか!」
本家の棟梁でありながら無能で使い物にならない袁術を一族の恥だと断じて極端に嫌っている。
「ならば呂布と一戦交えるか、何進を抱え込むしか道はありません」
「呂布相手に一戦交える事など自殺行為に等しい事くらいお前も分かっている筈だ」
十常侍の乱と董卓の暗躍を難なく潰した呂布に対して袁紹は恐怖心を抱いていた。
「では何進を抱え込む方向で動きましょう」
「出来るのか?」
「奴の身内を利用して呂布を退かせます」
「身内?」
「一人娘が居るので拐かします」
「名家がそのような事をすれば…」
誘拐など無法者のやる事だと袁紹の自尊心が許さず拒絶しようとした。
「何もしなければ何進と呂布に潰されるだけです」
「下賤の連中に潰されるなど末代までの恥晒しになってしまう」
「それでは」
「淳于瓊と何茂を呼べ」
*****
「拙いな」
「何進の屋敷には呂布様が」
「用が済めば我々の屋敷に来る事になっている」
「既に離れている可能性が…」
「高い」
物陰から袁紹と許攸のやり取りを聞いていた戯志才は予想外の展開に舌打ちをしそうになった。小心者の袁紹なら手を拱いたまま呂布の動きに巻き込まれると見ていたので失敗した感が強かった。
「お前は監視を続けろ」
「心得ました」
「俺は城外に出て郝萌を連れて来る」
「呂布様は?」
「おそらく宮中に入る準備を始めているはずだ。何進の方には人数を割けない」
「郝萌様なら大丈夫でしょう」
「後れを取る事は無いと思うが…」
淳于瓊か何茂だけなら郝萌でも御せる相手だが二人揃っているなら少々手こずる可能性があった。その隙に何進や娘御に被害が及ぶような事になれば計画が破綻する事態も考えられた。
「後は任せるぞ」
「承知致しました」
戯志才は宮中を抜け出すと郝萌が居る郊外の駐屯地を目指した。
*****
洛陽に向かっていた高順は駐屯地に到着すると郝萌に対面した。そこで呂布の行き先を尋ねたが逗留先の情報が届いておらず郝萌も困っている状況だった。
「お前も聞いていないのか」
「申し訳ございません」
「仕方ない。郭図や戯志才が策を講じての事だろう」
「言われてみれば…」
郭図と戯志才は郝萌に知らせるのをうっかり忘れていただけだが、高順と郝萌は二人が極秘で動きたいが故に隠していると勘違いしていた。
「どうされますか?」
「待つのは苦手だ。知り合いも居るから何とかなるだろう」
「分かりました」
何進が助けを求める必要がある時の事を考えて滞在する場所くらい伝えていると高順は判断した。郝萌にその場で留まるようにと指示を出した後、手勢を率いて洛陽に向かった。




