第31話 上洛(四)
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徐晃に先導された呂布は丞相府ではなく邸宅に到着した。どういう事だと首を傾げる間も無く客間に通された。
「呂布、待っていたぞ」
「元気そうで何よりです。丞相閣下」
「他人行儀は止めてくれ。以前と同じで構わん」
「ならばそうさせてもらう。堅苦しいのは苦手だ」
前回滞在時は砕けた口調で何進と会話をしていたので周囲から白い目で見られる事もあったが何進自身からお墨付きを得ていた。今回は立場があるので流石に拙いだろうと丁寧な口調で話そうとしたが、再びお墨付きを得たので直ぐに止めた。
「儂も同じだ。ところで丁原の様子は?」
「大将なら健康を回復して時折狩りに出ているぞ」
「丁原には悪い事をしたと今も悔やんでいる」
「大丈夫だ。大将は思いもよらぬ経験をさせてもらったと丞相に感謝していた」
丁原は結果的に体調を崩して州牧から降りる事になったが執金吾という役職について劉弁の近くに仕える事が出来たので時折思い出しては何進には恩義があると周囲に語っていた。
「それなら良いのだが」
「気になるなら幷州に来れば済む話だ」
「確かにな。しかし立場的に無理な話でもある」
「丞相を辞めた後なら幾らでも時間はある」
「言われてみればその通りだ。生きて辞める事が出来ればだが」
「それが本題だ。丞相が危ない立場にあると最近耳にした。その様子を見るのが上洛の真の目的でな。州牧就任の挨拶回りは単なる名目に過ぎん」
「そうだったのか」
「河内に入った時はそのように思わなかったが、洛陽に近づくと案の定だった」
呂布は城門での一件を何進に伝えると共に近衛兵の一隊を捕らえて丞相府で確保させている事を付け加えた。
「ある程度は聞いていたがそこまで酷くなっているとは」
「河南尹の袁術は職務に忠実のようだが、執金吾の袁紹は話にならんな」
「両者の対立が御上の耳に入ってな。個別に呼び出されて叱責されたのだ」
数日前、両者の対立を憂いた高官が劉弁に報告した。劉弁は何進を呼び出すと詳細の説明を求めると共に改善を命じようとした。何進は仲裁を試みた記録を見せると共に改善出来る状況でない事を報告した。その際に呂布の名前を出して近々召集する事を考えていると付け加えた。劉弁も呂布の事は理解しているので召集についてはすぐに同意した。しかし何らかの手を打たなければ民が迷惑を被ると考えて袁紹と袁術を個別に呼び出して叱責すると共に対立の解消を指示した。
「袁術は拙いと考えて態度を改めたわけか」
「上辺だけかもしれんが改めるだけマシだと思っている」
「袁紹の方は近衛兵の態度からして改める気はなさそうだな。早急に手を打った方が良いぞ。御上の耳に入ったのは丞相の差し金だと思われても仕方ない状況だ」
ある意味単純な袁術は叱責された事で考えを改めて何進の言葉に耳を傾けるようになり、袁紹の挑発に対しては無視を決め込んで将兵にも規律順守を厳命した。先の一件では門兵も任務に忠実で原因は横暴な態度を取る近衛兵側にあった。袁紹は深読みして権威が脅かされている何進が自分の栄達を邪魔する為に袁術と手を組んで劉弁に密告したと考えた。自身が叱責された後に何進が劉弁に呼び出されて長時間話し込んでいた事を腹心から聞いたのでその思いを強くした。
「確かにその通りだ。しかし奴が抱えている私兵は手強くてな躊躇している」
「それなら俺の出番だな」
「どうする気だ?」
「あいつに直談判してやろう。歯向かうようなら痛い目に遭ってもらうだけだ」
「ちょっと待て、奴の私兵には段違いの強さを誇る者が居るのだぞ」
呂布は前世で袁紹の庇護下に在った事を思い出していた。袁紹麾下の猛将といえば顔良・文醜・張郃の三人である。三人とも武勇に優れており張郃は頭も切れるので厄介な存在になってくる。
「今回同行している張遼と郝萌は優秀な奴だ。特に張遼は高順の爺さんが後継者として考えている程の逸材だ」
「高順…。あの時に焔陣営を率いていた将だな。その高順が自身の後継者に推しているなら」
「爺さんに匹敵する力を持っているという事だ」
幽州出兵に丁原・高順・呂布・侯成・郭図の五人で歓談する機会があり、その際に高順本人が語ったものである。高順は年齢的な問題が出てくるから十年以内に将軍位を返納して丁原のように隠居するという考えを披露した。その際は焔陣営を任せるつもりだと付け加えた。張遼は出仕直後から高順に目を付けられていて一時期は焔陣営で部隊長を任されていた事から話を聞いた四人は納得していた。
「張遼なら袁紹麾下の猛将が相手でも後れを取る事はない」
「お前と高順が認めているなら間違いないだろう」
「当たり前だ。力不足なら俺も近くに置かん」
「分かった。近衛兵の身柄についてはお前に預けるから思うようにやってくれ」
「出来るだけ穏便に済ませるつもりだが、一悶着あるかもしれん。それと執金吾の後釜を考えておけよ」




