第30話 上洛(三)
ご覧頂きましてありがとうございます。
ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。
呂布一行が門の前に行くと袁紹配下の兵士と袁術配下の兵士が押し問答をしており城内に入る許可を求める者が長蛇の列を成していた。
「何時まで言い争いを続けるつもりだ?」
「何だお前は?」
「俺は幷州の呂布だ。城内に入ろうと並んでいたら兵士が喧嘩をしているから中には入れないと耳にしたのでな」
「幷州?北方の田舎者か」
「田舎者とは酷い言い草だな」
田舎者呼ばわりに腹を立てた張遼が暴言を吐いた兵士に近づこうとしたのを呂布は笑みを浮かべながら制した。
「田舎者は事実だ。我々は御上直属の近衛兵だ。たかが州兵とは格が違う。格がな」
「物分りの悪い連中に何を言っても無駄か」
「何か言ったか?」
近衛兵を名乗る一団は門兵とは異なり派手な武具を身に着けているが似合っていない上に傲慢不遜な態度を取り続けた。もう一方の門兵は呂布の名前を聞いた途端顔色を変えて慎ましい態度を取り幷州軍を必要以上に刺激しないように努めていた。
「ならば尋ねる。お前たちの中で羽林中郎将に相当する地位の者は居るか?」
「居るわけ無いだろう」
「そうか。貴様らは格下のようだな」
「格下?我々近衛兵にそんな口を聞くとは」
呂布は懐から羽林中郎将の印綬を取り出して近衛兵に見せつけた。
「そ、それは!」
「近衛兵を指揮する羽林中郎将の印綬だ。貴様らは俺の指示に従わなければならない」
「出鱈目を言うな!」
「こんな所で出鱈目を言って誰が得をする?」
「偽物に違いない。偽物だ」
「仕方ない。力付くで分からせてやる」
呂布が合図すると後方に居た騎馬兵の一人が方天戟を持ってきた。呂布は方天戟を受け取ると周囲に見せつけるように軽々と扱った。
「何をする気だ?」
「上官の指示に従わない悪兵を躾けてやるだけだ」
「意味の分からない事を」
「馬鹿共が!」
呂布が一喝するとその迫力に近衛兵は恐れ慄いた。それは付き合いの長い張遼ですら一歩引く程のものである。全く知らない者からすれば恐れおののくのも無理はなかった。
「連中も呂布殿が羽林中郎将である事を理解した様子。この辺りで矛を収めるべきでは?」
「こういう連中は痛みを知る事で初めて理解すると思うが」
「それは重々理解していますが、近衛兵は御上直属の兵士です」
郭図が呂布を宥めるように仲裁を始めたが近衛兵の無様な姿に笑いを堪えているのは明らかだった。
「ならばどうするのだ?」
「ここは某にお任せ下さい」
「好きにしろ。連中が俺の癇に障るような真似をすれば容赦はせんぞ」
「ありがとうございます」
郭図は呂布に一礼すると近衛兵に歩み寄った。近衛兵は命拾いしたと思ったが郭図の顔が一転して険しいものになった事からそれは単なる思い過ごしだったのを一瞬にして理解させられた。
「貴殿らは上官に対する反逆罪で裁かれる事になる。上官というのはこちらに居られる羽林中郎将の呂布様だ」
「反逆罪だと!?」
「呂布様への暴言、羽林中郎将の権威を貶めるなど挙げだしたらきりが無い」
「…」
「ちなみに反逆罪に対する刑罰は死罪のみ」
「死罪?」
「近衛兵は一般兵とは別格の存在。厳しい基準をくぐり抜けた者だけが選ばれる。貴殿らはその基準には当て嵌まらないようだ」
最初は怖い物知らずだった近衛兵は郭図の話を聞いて愕然とした。中には取り乱す者や卒倒する者が居て門兵に介抱されていた。
「俺たちは袁紹様に命じられてこの役目に就いただけで何の説明も聞いていない」
「そういう事なら袁紹殿を問い質すしかない。まあ袁紹殿も監督不行き届きで罰せられるだろう」
「待ってくれ!袁紹様の耳に入れば俺たちは殺される」
「そんな事は知らぬ。身から出た錆だとおもって諦めよ」
郭図は縋り付く近衛兵を無視して呂布に近づいた。
「決定的な一手にはなりませんが、袁紹を抑える事が出来るでしょう」
「袁術はどうする?」
「門兵の態度を見れば少しはマシなようです」
「確かにな」
門兵が近衛兵と同類であれば呂布の後ろで近衛兵の無様な姿を笑っている筈だが、近衛兵の介抱をしている者や入城の手続きを続けている者も居て規律は守られており近衛兵に原因があるのは明らかだった。
「この連中はどうする?」
「拘束して丞相に差し出すのが上策です」
「張遼、連中を縛り上げてくれ」
「承知致しました」
近衛兵は張遼らの手で拘束されたが抵抗する者は一人も居らず半ば諦めている様子だった。抵抗された時の為に見張っていると城内から別の一隊がこちらに向かってきた。
「幷州牧の呂布様は居られますか?」
「俺が呂布だ」
「某は徐晃と申します。何進丞相の命で呂布様をお迎えに上がりました」
「役目ご苦労だな」
「ありがとうございます。丞相が首を長くしてお待ちになられておりますのでご案内致します」
「徐晃殿、丞相に引き渡したい連中が居てな。連れて行って構わないか?」
徐晃が呂布の背後を見ると近衛兵の一隊が縛られた上で地面に座らされていた。
「大丈夫です」
「それなら案内してくれ」




