第29話 上洛(二)
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「見たところ治安は乱れていないようですが」
「表向きは平穏と思ってよさそうだな」
「対立が洛陽内部で留まっているのでしょう」
河内に入った呂布一行は道中の治安が保たれている事から袁紹と袁術の対立は宮中における主導権争いだけで民に影響していないように見えた。
「呂布殿!」
「戯志才、どうした?確か洛陽で合流する予定だったよな?」
「洛陽が拙い事になっている」
「詳しく聞かせてくれ」
洛陽の警護は河南尹袁術の役目で自軍の兵士を充当していた。しかし執金吾の袁紹が宮中警護を強化する名目で私兵を洛陽に集めた事から状況が一変した。何進が袁紹に自重を促すが聞く耳を持たず子飼いの将を無断で羽林中郎将に任命して周囲を固めた。その事を知った袁術も対抗して洛陽の治安強化を名目に将兵を呼び寄せた。その結果、洛陽は両軍の兵士で溢れかえっており日常的に喧嘩から乱闘に至る小競り合いが起きている。また民へ高圧的な態度を取る者や因縁を付けて金銭を巻き上げる者も居て兵士の規律が崩壊しつつある状況だった。
「戯志才には手間を掛けるが袁紹と袁術の動向を探ってくれるか?」
「心得た」
「呂布殿、宜しいでしょうか?その様子では我々が洛陽に入るのは困難だと思われます」
「言われてみればそうだな。それを打開出来る策を聞かせてくれ」
郭図の言う通りで城門の警備は厳しくなっており旅人ですら入れない事もある。しかし丞相である何進が許可を出していれば話は別で袁紹と袁術は従うしかない。従わなければ処罰されて失脚する事になる。
「上策だと思うが中に入れなければどうにもならんぞ」
「それについては私に任せてくれ」
「私は商人として洛陽に出入りしている。門番の連中とも顔見知りだ。商売仲間か従者と言えば通してもらえる」
戯志才は幷州軍に加入してから情報収集能力がある者を配下に加えて周辺地域に潜入させて諜報活動をさせている。表向きは商人として生活しているので役人や兵士と顔馴染みになって情報収集に役立てている。それを利用して洛陽城内に入って何進に接触するという。
「鍾繇、大丈夫か?」
「戯志才殿が居れば何とかなるでしょう」
「それなら直ぐに向かってくれ」
「承知致しました」
「此処からなら七日もあれば洛陽に辿り着く。五日以内には段取りを付けてほしい」
「それについては問題ない。必ず用意しておく」
戯志才と鍾繇は準備を整えると洛陽に向った。呂布は郭図の提案に合わせる為に進軍速度を緩めつつ後を追いかけた。
*****
洛陽近郊に到着した呂布は郭図の意見を取り入れて軍を郝萌に任せると少数の騎兵を率いて城に向った。郭図と張遼の姿もその一団の中にあった。
「呂布様、この様子ではかなり時間が掛かりそうです」
「仕方ない。割り込めば民の反感を買うだけだ」
「確かに」
戯志才の情報通り入城が厳しく制限されており審査を待つ者が長蛇の列を作っていた。門まで足を運んだ張遼の見立てでは日暮れまでに入れるか微妙な状況だった。
「邪魔だ、どけ!」
袁と書かれた旗を掲げる一団が列を無視するように駆け抜けて門の方へ走り去った。
「何だあれは?」
「見たところ急を告げる一隊のようですが」
「近隣で何か起きたかもしれんな。誰か」
「何でしょうか?」
「郝萌にこの事を伝えて周辺を探らせろ」
「分かりました」
「張遼、もう一度門の様子を確認してくれ」
「承知致しました」
呂布は近隣地域で異変が起きたと考えて後方で待機している郝萌に確認をさせ状況次第で介入する方向で動こうと考えた。
「呂布殿、身体を動かせる準備は出来ていますか?」
「どういう意味だ?」
「一隊が通り過ぎてからある程度時間が経っています。周辺地域で異変があれば洛陽
から部隊が動き出しているはず。それが無いという事は…」
「呂布様!」
門の様子を見に行かせた張遼が戻ってくるのが視界に入ったが憮然とした表情になっている事から何らかの問題が起きているのは明らかだった。
「張遼、何があった?」
「結論から申し上げると先程の一隊は袁紹の私兵でした。列に割り込み門をすり抜けようとしたらしく咎められましたが、連中は勅命を盾に詳細を明らかにしないので門兵と揉めております」
「郭図、どう思う?」
「勅命であっても目的なり事情を伝えるのが筋というもの。言わないのではなく言えないのが真実でしょう」
「まさかとは思うが私的な用件で?」
「そう思われても仕方ありません」
呂布は呆れたが揉め事が続けば列を成している民に迷惑がかかるので介入する事を決めた。袁紹が文句を言ってきたら改めて対応方法を考えれば良いとした。
「呂布殿、お耳を拝借」
「何だ?」
「〜を利用するのです」
「あれは返上したはずだが」
「まだ残っています」
郭図は呂布に耳打ちをして或る事を伝えた。それを聞いた呂布は驚いたが今回の件において間違いなく利用出来るのでその時が来たら遠慮せず使う事にした。




