第24話 五郡割譲
公孫瓚率いる白馬義従を敗走させた并州軍は州境を越えて幽州に侵入、西部五郡を瞬く間に落として右北平郡に迫りつつあった。幽州牧を自称している公孫越は叔父公孫瓚と白馬義従が敗北した一報を受けて弟公孫範と協議を行った。
「瓚叔父上(公孫瓚)は無事なのですか?」
「遼西の臨渝で体制を立て直しているが、趙雲に加えて客将の劉備と関羽を失った上に張飛が行方不明になっている」
「趙雲を失ったのですか!」
「行方不明だ。瓚叔父の報告では生存している可能性は低いとあった」
「拙い事になりましたね。周囲の評価は低いですが趙雲は実力者です。このままでは瓚叔父上一人に負担を強いる事に…」
「山賊を利用して并州を侵略するという劉備の甘言に惑わされた私の落ち度だ」
公孫越と公孫康は北方民族に対する備えを重視していたので他州侵略に懐疑的な考えを持っていた。しかし劉備から州境で暴れている山賊を并州軍の協力者だと捏造して侵略の理由にすれば良いと吹き込まれて同意した。公孫範は疑問を呈していたが公孫越と公孫瓚に押し切られていた。
「并州軍は洛陽で十常侍の反乱と董卓の暗躍を防いだ猛者の集まりと聞いています。速やかに和睦する方向で動くべきでしょう」
「瓚叔父が行けば揉めるだけだ。度叔父(公孫度)にお願いしよう」
「その方が良いでしょう」
公孫範から依頼された公孫度は幽州を危機に陥らせた劉備兄弟に対して文句を言いたかったが死んでいるのでどうする事も出来ず怒りが込み上げてきた。しかし并州軍の誤解を解く事が先決だと冷静になり直ぐに襄平を出発して右北平郡に向かった。
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漁陽郡の平谷県で侵攻を止めた并州軍は今後の動きについて協議を行っていた。
「軍師殿、幽州軍恐れるに足らずと思うのだが」
「確かにその通りだと思いますが、やりすぎるのも良くないと思っています。冀州が援軍に同意すれば我々は背後を突かれる事になり、結果的に東西から挟撃される形になります。そうなれば大敗を覚悟しなければなりません」
「ただ負けるだけなら良いが、歴戦の将兵を多数失えば体制に影響するぞ」
「そこまで言われたら言い返す言葉が見当たらん」
侯成は劉備と関羽を討ち取って趙雲を配下に加えた勢いを以て侵攻を続ける考えを持っていたが、軍師郭図と呂布に反対されたので直ぐに意見を引っ込めた。他の者も好戦派と見られていた呂布が郭図と歩調を合わせていた事から動かない方が良いと考えて進言するのを止めた。
「しばらく平谷県で様子見だな?」
「はい、幽州からの使者を待ちます」
「来なければどうする?」
「こちらから使者を出して西部五郡は貰い受けたと伝えるだけです」
「それなら冀州と幽州に備えるべく軍を分けるか?」
「申し上げます。幽州から使者が到着しました」
「言った矢先に現れるとはな」
「誰が対応するのだ?」
「爺さんと郭図に決まっているだろうが」
「儂は苦手だ。呂布、お前に任せた」
高順は前回と同じように口下手を理由にして交渉事から逃げた。呂布はまた逃げたと思いつつ仕方ないと諦めて郭図に同行した。
「幽州刺史の公孫度と申します」
「并州軍軍師郭図と申します」
二人は挨拶を交わして交渉に入った。公孫度は今回開戦に至ったのは劉備一派の口車に乗せられての事なので非を認めるが厳しい条件を課さないでほしいと頭を下げた。郭図は原因を作った劉備一派が客将といえども初手の交渉時点から関与していたなら暴走を止める機会は何度かあった筈だとして遼西郡までの西部七郡の割譲を要求した。
「それは厳し過ぎる」
「拒むというなら軍を動かして強制的に接収するまで」
「ちょっと待て」
「時間の猶予はありません。この場で承諾するか拒否するか二つに一つです」
「郭図、それでは使者殿の面子を潰す事にならんか?」
「呂布殿、こちらは喧嘩を仕掛けられた方ですよ」
「それは百も承知しているが、現状を考えてみろ。幽州は西部五郡に加えて将兵を少なからず失っている。それ以上に要求すれば窮地に追い込む事になるぞ」
公孫度は呂布が助け舟を出してくれたので縋るような思いで二人のやり取りを見ていた。呂布の言うように遼西郡まで割譲する事になれば自身を含めて公孫一族全員が死を覚悟して一戦交える事になると考えていた。
「確かに将軍の言われる事は尤もです。某も感情に任せて厳しい態度を取ってしまいました」
「使者殿、ここは西部五郡割譲で手打ち出来ないか?了承するなら強硬派は俺が責任を以て抑える」
「分かりました。西部五郡割譲で了承致します。こちらこそ口添え頂きまして感謝致します」
突然強硬意見を言い出した郭図に面を食らったが、当初からの考えに沿って動いた方が良いと考えた呂布の口添えで交渉は妥結した。西部五郡割譲に加えて楽浪郡における薬草買い付けの条件緩和(購買量)を認めさせた。
*****
二人は公孫度を見送った後、幕舎に戻る道すがら呂布は疑問に思っていた事を郭図にぶつけた。
「急に七郡割譲を言い出したから驚いたぞ。どこで考えを変えたのだ?」
「申し訳ございません。私は五郡割譲の考えは変えていませんでした」
「どういう事だ?」
「最初から五郡割譲を条件に出せば交渉の流れ次第で漁陽か広陽を諦める事になりかねませんので」
「だから規模を大きくしたのか?」
「最初から厳しい条件を出しておけば相手もこちらの思いに合わせる形で折れてくれ
ます」
「折れない場合は実力行使に出る」
「それもちらつかせたから相手も動揺して呂布殿の提案に乗ったわけです」
「なるほど」
言われてみれば郭図は交渉に際して表情を一切崩しておらず、感情的になる事もなかった。怒っている割には顔色が変わっていないのでどういう事だと疑問に思っていた。郭図の説明を聞いて疑問が解消すると共に交渉事は駆け引きに長けていなければならないと実感した。




