【第16話】二人の想いと、選び取る覚悟(その2)
澪は自室に戻り、窓の外の二つの月を見つめた。
カイは、天文台で自分の想いを言葉にした。レオンは、手紙で自分の望みを書き送ってきた。二人とも、それぞれのやり方で、澪に自分の生き方を差し出していた。
澪は机の上の手紙に目を落とした。
――次は、私が会いに行く。
一方、レオンからの手紙は定期的に届くようになっていた。
『お前がいれば、俺は初めて「誰かと生きる」ことを考えられる。次の月の抱擁の夜、俺は待つ。いや――お前が自ら来るといったな。ならば、俺は迎えに行く必要もない』
その手紙を、澪はうっかり机の上に置いたまま、水を汲みに部屋を出た。戻ってきたとき、カイが手紙を手にしたまま、窓辺に立っていた。
「カイ......」
カイは何も言わなかった。
いつもの、少し早口で軽口を叩く彼ではなかった。声を荒げるでもなく、手紙を握りつぶすでもなく、ただ、静かに手紙を机に戻し、まっすぐに澪を見た。表情はほとんど動いていない。まるで、石地蔵のように。
その静けさが、怒鳴られるよりもずっと怖かった。澪は思わず、後ずさりそうになった。
「......カイ?」
「別に」
短く、それだけ言うと、カイは一瞬だけ目を伏せ、それから部屋を出ていった。ドアの閉まる音さえ、静かだった。
その夜、カイの部屋の灯りは、いつまでも消えなかった。澪は謝りに行こうとして、扉の前で何度も手を止めた。
扉の隙間から、カイの独り言が漏れ聞こえた。
「......俺は、何を守ってきたんやろうな」
怒っているのではなかった。澪には、少しずつ分かってきていた。カイが本当に黙り込むのは、誰かを責めたいときではなく、自分自身を責めているときだ。レオンの手紙を見た瞬間、カイの中で何かが崩れたのだ。守ることしか知らない男にとって、それは何よりも重い無力感だった。
翌朝、カイはいつも通りに接してきた。だが、その「いつも通り」の奥に、まだ何かが凍りついたまま残っているのを、澪は肌で感じ取っていた。彼が本気で傷ついたとき、声を荒げるのではなく、ただ静かに自分を責めて黙る人なのだと、澪はこのとき初めて知った。
澪は手紙を握りしめた。
二つの月は、確実に近づいていた。




