(閑話)職員会議
時間を少し遡りまして、これは対キューバジュニアチーム対抗戦より前、国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会の保護者会が発足した直後の話です。
校長です。
ちょうど今、職員会議中です。
大変紛糾しております。
その大紛糾の原因の1つである我が校のボクシング同好会顧問であり、美術教師の西木匠くん。
悠々とコーヒーなどすすって、他の先生方の追求をはぐらかしておりますな。
「体育館にボクシング競技用のリングをなぜ設置しないといけない!」
「練習で必要だからです」
「体育館をボクシング同好会だけで占有するおつもりですか!」
「放課後の練習時間帯だけですよ」
「リングなどを設置したら、体育の授業に影響が・・・」
「出ませんよね?国教大附属の体育、ラジオ体操と創作ダンスしかしないじゃないですか」
「公式戦と同じ企画のリングなんて大会でも開くおつもりですか!」
「何を当たり前のことを?当然じゃないですか。将来的には県内大会や沿岸地方のブロック大会なんかを開催することを視野に入れてますよ。国体の招致もいいですね」
「学校側としてはリング購入の予算など・・・」
「計上しなくて大丈夫です。市や県の公的扶助を利用させていただきます。金額としては大したものじゃないですから確実に申請は通りますよ。薙沢県体育協会からの申請という形にしますので」
「そもそも誰が最初にそんなことを言い出した!」
「以前から同行会員の家族さん達から練習環境を整えたいという話は出ていました。今回保護者会の発足によって、最初の問題提起となったわけです。まあ至極当然の声ですよね」
しかし、この様子を見て学校長として改めて思うのだが、我が校の教員たちはここまで周囲が見えていなかったのか?
以前にこの学校の方針をSNS にさらされて、Web 上で日本中から集中砲火を受け、文科省まで口を挟んでくる事態になったことをもう忘れたのかな?
目先をごまかすためにボクシング同好会をこしらえて後はどうなと思っていれば、ほんの数ヶ月で西木先生によって本格的なもはや部活動と言ってもいいだろう。
強力な課外活動として成立してしまっているのだ。
ちょっと前に、いかにも品性劣悪な大学の監督とやらがまだ1年生の生徒を青田買いに来たのがいい証拠だ。
「とにかくだ、西木先生!学校としてボクシング同好会の活動を認めているにせよ、我が校の方針として、課外活動に比重をかけるわけにはいかない、ということは理解してもらいたい!」
「そこにつきましては、今後の実績を見てからお考えください。現時点で僕たちはやれることをしっかりと全力でやるのみです」
このやり取りの後、矛先がこちらに向かってきよったわい。
「校長先生!ここ最近は随分とボクシング同好会に便宜を図っておられますな!」
まぁ運営側としては必要な投資だと思っておりますからな。
一度は地に落ちかけた我が校のブランドを再び上げるには、ちょっとした劇薬も必要という考えに至りましてな。
「校長、ボクシング同好会は劇薬ですか?」
西木先生が苦笑いで返してくる。
全く!
学校内では校長である私の方が立場が上のはずなのに、薙沢県の教育界全体で見たら、西木先生は薙沢県体育協会のトップ、つまり体育科教育に関しては県の最高責任者ともいえる。
前にも言ったと思うが、スポーツ経験など何一つない美術教師が県内の体育科教育を握っているのだから全くもって、なんたらことだ!
とにかく他の先生方?
ボクシング同好会の今後の活動如何では学校の評価が一気に変わることになる。
そのための投資と考えたら良いのではないですか?
そもそも公的扶助を使ってのリング購入というのであれば、学校予算の方に影響はないわけですし、先ほど西木先生が言われていたように、本来の授業や学校生活に重大な影響が出るような事案でもない。
リングの設置購入、私は認めてもいいと思う。
「そこでなんですがね校長、他の先生方の言い分と言いますか、懸念も理解できないわけではないんです」
なんだと?
それはどういうことかね?
「まあどうしても体育館全体を使わないといけないような。行事やイベントがあるとしましたらそこにボクシングのリングが鎮座していては、確かに邪魔にはなるでしょう」
うちの学校でそんなイベントがあるかな?
文化祭はあるにはあるが、ごく小規模だし、教室を使えばこと足りるレベルだよ?
「まあまあ、そんな時のためを考えて購入するのはサイズ的には公式戦用と同じ5m四方ですが、折りたたみ収納可能なタイプを予定しています。これならばいざという時に折り畳んで体育館の隅にしまっておくこともも可能です」
なるほど、西木先生が前に言っていた
『落としどころ』
とやらはこれだったか。
これならば体育館を占有していることにはならんわな。
ほらほら案の定、他の先生方も納得し始めて
「まあまあそれなら」
みたいな空気になっておるわ。
この後はといえば、ちゃっちゃと決議され、ボクシング同好会は首尾よくリングを購入することができたのでした。
そしてリングが届いた当日、体育館に堂々と設置されたリングの前に並んだボクシング同好会の生徒たち6人と西木先生、私に向かって一礼!
「どうもありがとうございましたあ!!」
・・・・はあああああ・・・・
とほほ。




