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12月初旬、国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会のメンバー6人は先頃のキューバジュニアチームとの対戦以降も連日密度の濃い練習に取り組み、強化に努めていた。
そんなある日の練習後、キャプテンの江波一成、サブキャプテンの銀山御幸と宮内白塔、その他、井口崇通、客野太郎、地御前栄代たちが連れ立って薙沢県名物、23時で閉まるコンビニのイートインコーナーで、いわば高校生だけのだべりを始めるのが常だった。
ただ、ここ最近の話題はもっぱら客野太郎とキューバの美少女通訳ティアナに関するものだった。
交換した LINE アカウントにティアナからのメッセージが連日、画像や動画付きで凄まじい勢いで届いているのだった。
それにティアナだけからのメッセージならまだしも、ティアナのご両親からも
「こんな感じで、後先考えずに突っ走る娘だったのですが日本でこんな素敵なお婿様を見つけてきてくれて嬉しく思います」
(注・地御前栄代・訳)
と言ったティアナの母親からのメッセージだの
「タロちゃんくん、父親としてティアナが選んだ男ならきっと幸せになれるだろう!娘を末永く頼みますぞ!」
(注・地御前栄代・訳)
みたいな父親からのメッセージが届き、それが客野以外のメンバーの大爆笑を誘っていた。
「笑い事じゃねぇ!」
今日も今日とて騒々しい客野だが、それでいてLINE にはきっちり返信しているところが実に律儀である。
そして最近ティアナから送ってもらった動画でわかった驚きの事実だが、
「これティアナ、ガチでレベル高いな。宮内だったらやられちゃうレベル」
「ちょっと!僕を基準にしないで!でも、正直勝てる気がしないなぁ」
井口と宮内がそんな会話をしながら見ているのがティアナから送られてきた試合動画。
キューバへの帰国後、ちょっとしたUJ の大会に参加したティアナの試合だった。
「手数すげ〜〜〜。どんだけスタミナあるんだよ?」
「ステップが全然止まってねえな。普段走り込みや足腰の鍛錬をがっつりやってるって感じだわ」
今度は井口と客野がそれぞれの感想を漏らす。
すると傍でそれを聞いていた銀山が
「嫁に相応しいんじゃないか?タロちゃん?」
と、ニヤリ。
「黙らっしゃ〜〜〜〜い!」
客野が叫ぶと
「チューしちゃったんだから責任は取らないとね」
と、にっこりしながら言う宮内の追撃に客野は撃沈。
「・・・なに?・・・今回の件は俺のせいなのか?目を切って試合で負けて、不適切な表現だが、淫行疑惑までかけられて・・・・」
誰もそこまでは言ってないのだが。
ここまで来て、それまでみんなの会話を楽しそうに聞いていた江波が口を開いた。
「こないだのキューバとの試合で、僕たちの今の立ち位置がみんなにもわかったと思うんだ。今後どこと試合するにしても下手な試合は見せられないと僕は思ってる」
いつになく締まりのある表情で言葉を紡いでいる江波に他のメンバーもキャプテンとしての江波からの威厳を受け止めている。
「西木先生は誰一人見捨てない!徹底的に向き合ってくれる先生!だから僕たちも先生に本気で向き合う!ここに何か間違いがある!?」
江波の割と唐突な言葉に井口が答える。
「解かってるつもり・・・つ〜か、返せない借りが膨らんでいってる感じ?」
「僕たちの関係は貸し借りじゃない!!」
井口に対して声を荒げたのは地御前たった。
一瞬驚いた表情をした井口が、1つ息をついて地御前の頭を撫でた。
「悪かった。ちょっと言葉を選ぶべきだった。お前と西木先生に俺の主観を当てはめるべきではなかったな」
井口の言葉に対して、一つ息を突いて矛を収めた感のある地御前。
以前の井口を知る者からすれば、これだけでも十分に異様な光景だった。
地御前の言い分は他のメンバー達にしても同様の想いだった。
ただ、ここ最近の地御前は妙に雰囲気がピリピリしており、それが他のメンバー達に違和感を抱かせていた。
その理由に薄々勘づいているのが井口崇通と宮内白塔の2人。
ただ、現時点でそれは臆測の域を出ていないため、軽々しく口にする事はためらわれた。
「そういえばこの前だけど」
銀山が口を開く。
「信徳県から山田ジムが出稽古に来てくれたよな。その時に堂園さんから言われたこと覚えてるよな?」
信徳国体ミドル級で優勝した堂園晴貴が信徳山田ジムの出稽古に付き添って国教大附属を訪れた際に、ボクシング同好会のメンバーたちに注意喚起を行っていた。
「普段の生活も含めて周囲のことに、くれぐれも気を配っていて欲しい。少しでも何か違和感を感じたら西木先生にすぐ報告するように」
些か穏やかではない内容で、この話に前のキューバ戦での地御前の試合結果が紐付いているであろうことに思いが至ったのが井口と宮内だった。
他の4人は、そこまで具体性のある内容は想定できておらず、ただ、自分たちの周辺が少しきな臭くなっている、という認識だった。
その点では地御前も同様だったが、彼は本能的に自分たちの居場所が悪意にさらされていると感じ取ったのだろう。
それがここ最近のピリピリとした雰囲気に現れていた。
「ともかく、だ。俺たちができるのは次の試合に向けての強化あるのみ。ただ、おかしなことがあればすぐ報告!くらいだな」
ティアナへのLINE 返信を終えた
客野の言葉に他の5人も頷く。
出る杭は打たれる。
国教大附属国際高校ボクシング同好会はまさしく
『出る杭』
になってきたと思わずにはいられない同好会メンバーたちだった。




