はじめまして?〜その2〜
国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会メンバー、保護者による懇親会の会場にて、思いを寄せる顧問である西木匠教諭に初遭遇した薙沢県ボクシング連盟医事委員長、外薗峰允Drの妹である弥能礼文。
念願叶った嬉しさのあまりか、それとも暴走した気持ちの持って行き場を見失ったのか、頬を真っ赤に染めて腰を抜かすという、所作が完璧で上品な和風美女が見せた、ある意味なかなかに微笑ましい姿とも言えた。
今は離れたテーブルに1人頬を赤面させたまま俯いている。
兄である外薗峰允が
「5分ほど待ってて」
と告げて西木匠を連れて懇親会場外に出たからであった。
ほぼ5分ほどして礼文が待つテーブルに戻ってきたのは西木1人で、手にしたトレーにはボクシング同好会キャプテンである江波一成こだわりの水炊きが入った取り皿が2つ乗っている。
「ボクシング同好会のメンバーが作ったものですが、食べてみてください。気持ちが落ち着くと思いますので」
穏やかな声で西木はそう言って礼文の前に温かな湯気を上げる取り皿を置いた。
対面に座った西木は、特にためらう様子もなく早速箸を持って取り皿に入った水炊きの具を具を食べ始めた。
そして礼文にも
「温かいうちにどうぞ。いけますよ」
そう勧められて頬を赤らめたままの礼文は実に上品な箸の使い方で取り皿に入った水炊きの具を口に運ぶ。
そして思わず目を見開き
「本当・・・ものすごく美味しいですわ」
と感嘆の声を上げる。
その様子を見て微笑みながら西木は礼文に言う。
「あらかたの話はお兄さん、外薗先生から伺いました。何ともすごい偶然というのがあるものですが、僕が原因で大変なご迷惑をかけたこと、まずはお詫びさせていただきます」
「・・・ご迷惑ですか?私には何のことだか分かりかねるのですが・・・」
心底意外そうな様子でそう答えた礼文に西木は続ける。
「あなたとのお見合いが決まっていたにも関わらず、そのことに向き合おうともせず自分の目の前のことのために・・・と言いますか、どうせ使うこともないと勝手に決めつけて結婚資金である貯金を使い込んでしまいました。そのせいであなたのご両親も大変お怒りになりましたし、あなた自身大変な思いをしたことでしょう。改めて謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした」
それを聞いた礼文は軽く目を閉じて静かに頭を振った。
そして言う。
「西木先生、それは違いますわ。先生は目の前に示された難しい問題に対して本気で向き合われた結果、今こうして周りの皆様が、私の兄も含めまして、先生のために様々なご協力を申し出ているのでです。先生のされたことが全て間違いだというのであれば、このようなことは起こりえませんわ」
この言葉に西木は穏やかにそして少し嬉しそうに微笑んで礼文を見つめ返す。
そして2人の視線が合った。
途端に礼文は
「ハッ!」
として、頬を赤らめ再び俯いた。
「外薗先生から聞いたことですが」
西木はそこで一旦言葉を切り、頭を掻いて、やや照れくさそうに続ける。
「あのようなことがあったにも関わらず、僕に対して想いを寄せていただいたこと、嬉しく思います」
優しげな表情で礼文にそう言うと更にこう告げた。
「礼文さんの事ですから、もうご理解いただいていると思うのですが・・・いま僕は目の前にあるボクシング同好会とその生徒たちに対し、果たすべき責任に取り組んでいます。正直な話、あなたのお気持ちにどこまで誠実に向き合えるか、僕にとっても正直未知数なんですよ」
「分かっているつもりですわ」
礼文もまた、西木を見て言う。
「ほんの数ヶ月前まで何の知識も経験も持ち合わせていなかった、そんな状態でありながら先生は真剣に向き合って、今ここまでの実績を積み上げておられます。脇見をするような人にできることではございません。そういう先生だからこそ・・・・」
礼文はここまで言うと、更に頬を赤く染めて、勇気を振り絞るかのように続けた。
「先生に対して想いを抱き続けたのです」
ここまで言うと礼文は息を1つゆっくりと吐いて、そして静かな声で言った。
「先生、今すぐ私の想いに対するお返事をいただこうと思いません。ただ、このまま先生を想う気持ちを持ち続けること、そして時々でも私とこうして向き合ってくださること、お願いしてもよろしいでしょうか?」
礼文の願いに対して西木は言葉にはしなかったが、微笑みながらゆっくりと頷くことで返事を返していた。
感極まったのか礼文は俯きそっと出したハンカチでその美貌の目元をゆっくりと拭ったのだった。
画面が切り替わって、そんな2人、西木と礼文の様子を彼らのテーブルにほど近い入口の隙間から覗き込んでいたのは・・・・
江波一成
地御前栄代
銀山御幸
客野太郎
宮内白塔
井口崇通
と言ったボクシング同好会の面々と、礼文の兄である外薗峰允Dr。
ボクシング同好会のメンバーは西木と礼文のテーブルで繰り広げられていた様子を見て満足そうに笑顔を見せて頷き合っている。
礼文の兄、外薗はといえば
「・・・とりあえずは一安心かな・・・」
と、心の底からほっとしたつぶやきをして、改めて妹、礼文のこれからに幸多からん事を願うかのようにテーブル席の2人を見つめるのだった。




