逸脱者の論理
薙沢県の小規模な繁華街。
場末感漂うスナックのボックス席に彼らは屯していた。
「くだらん!」
忌々しげに吐き捨てて水割りを煽る、40がらみの男。
その取り巻きとおぼしき、比較的若い男たち数名も追従するように口を開く。
「多満井先生を会場から閉め出して、『信徳国体ボクシング競技は成功裏に終わりました』って、ふざけているとしか言いようがありませんよ!」
「やつら俺の顔写真付きで通達まで出していたって言うじゃないか!?」
「これがそうですよ」
取り巻きの1人がそう言って差し出した書面には男の顔写真と共に、こう記されていた。
『この人物、多満井穐比子氏は、過去に試合会場等にて強引かつ悪質なスカウト活動を繰り返し、競技者またはその家族に対して多大なる迷惑行為を行っています。従って多満井氏のボクシング競技会場への立ち入りを厳禁とし、もしも会場またはその付近にて本人を確認した際には速やかに競技会場警備担当への通報をお願いいたします』
書面に目を通し終えた男、多満井穐比子は舌打ちをし
「ふざけんな!」
そう、吐き捨てた。
「全くです!一方的な個人攻撃で先生を競技の場から排除するとか、国体開催県が聞いて呆れます!」
取り巻きの1人が憤懣やる方ない様子で息巻く。
彼らはこのような結果を招いていることが、これまでの自分たちの行いに原因があることだとは全く思っていない。
ただひたすらに国体開催県である信徳県、そして、沿岸ブロックの関係者たちへの恨み事を垂れ流し続けるばかりであった。
「この調子だと今後沿岸ブロック関係では戦力補強は厳しくなるだろうな。どこの県の関係者も俺に関しては一致団結して一切関わりを拒否されている」
陰鬱な目つきで酒気混じりにつぶやく多満井が、さらに不快そうな声音で
「9月の時もそうだ。唐河くんだりまで行ってみたら、あの、黒木の小僧、日連に俺のことをチクリやがって・・・妙な女に殺気を飛ばされて帰ってみれば大学の方に精査が入っていた。挙句日連の強化委員から外されてしまった・・・」
妙な女、のくだりで軽く身震いした後、多満井は薄く笑う。
「まあ、このまま済ますつもりはない」
「先生、我々も協力しますよ。我々は先生から指導を受け、今こうして沿岸ブロックの各県でそれなりに良い立場にならせてもらってますからね」
すると別の取り巻きも口を開く。
「最近は薙沢(この県)からもボクシング競技に参加する学校が出てきたんですけど、どうも気に食わん。先生、前に動画送ったの見られましたか?」
「あぁ、絵描き崩れの素人顧問がやっているチームだろうが。2人いいのがいたからな、平城山体育大に誘いをかけてみようと思う」
「客野と銀山ですよね?絶賛してましたから」
取り巻きが出した2人の名前を聞き多満井は口角を上げ頷く。
「あの絵描き崩れから引き離して平城山体育大でもっと強くしてやると粉をかければあの年頃の小僧ならすぐに乗ってくるだろうな」
「じゃあ薙沢の顧問には?」
そう聞かれて多満井は、
『ふん!』
と、鼻を鳴らし
「国教大附属だったか?あそこの校長に話をして、そういう方向に誘導すればたかが絵描き崩れの教師だ。校長の言いなりになるだろうよ」
そう言って何杯目かわからない水割りを煽って取り巻き達と笑い声をあげた。
「まあ先生、近いうちに外国チームとの交流大会もあるんですよ。その時には客野や銀山以外のやつらも動画撮っときますんで、楽しみにしていてください」
「頼りにしてるぞ。まずは薙沢県のド素人どもを取り込んで、沿岸ブロックにたっぷり礼をさせてもらう。このままで済むと思うなよ」




