国体を観よう!〜その5〜
成る程、客野くんが言う通り確かに妙ですね。
引き続き、名門唐河中央高校ボクシング部名監督(自慢)の黒木です。
今、我々の目の前のリング上では信徳国体ボクシング競技少年の部ライトフライ級2回戦が行われてまして、我が校や薙沢県国教大附属国際高校ボクシング同好会の面々たちと観戦中です。
今、試合をしているのは客野くんが違和感を感じた選手。
高南県大咲南高校の山田信一くん。
リング内狭しとフットワークを使ってサークリング。
私はあいにく見ていなかったのですが、昨日の試合もこのような感じで、サークリングをしながら時々踏み込んで鋭いジャブ、ワン・ツーを決めてまたサークリングの繰り返しだったそうです。
山田くんの滑るように早いフットワークに対戦相手は全く対応できておらず、思い出したように半ステップインしては左ジャブ、右のストレートを的確に決めてはまた離れる山田くんに翻弄されております。
その様子を鋭い視線で見つめる客野くんと、その 隣 で恐ろしく光のない瞳でリング上の両選手の動きを
『観察・解析』
している(と、銀山くんが説明)地御前くん。
・・・・・・怖・・・・・・
「やっぱ変だよな、そう思わね?」
そうつぶやく客野くんに地御前くんは無言で頷き、さらにその傍らで動画撮影をしていた宮内くんが言います。
「山田さん、フットワークやステップは確かに早くて多用するけど、あそこまでエスケープ気味に使わないよね」
「そうそう、必要最小限のポジショニングで、結構地に足がついたスタイルだよな。前の試合で俺が倒されたパンチも足がしっかりキャンバスを掴んでいたからあの距離で安定した強打が打てて俺は脳を揺らされたんだ」
静かですが客野くん、声に悔しさが出ていますよ。
「あの動きは、本当に相手がとんでもないハードパンチャーとかだったらわかるんだけどな」
腕を組んで試合を見ていた井口くんがそう言った時、
「・・・誰を想像してるんだろう?・・・」
地御前くんが本当に小声でポツリとつぶやいたのが耳に届きました。
誰かを想像?
あの動きには、特定の選手を相手にした対策のようなものということでしょうか?
よもやそれをこの国体という全国大会の舞台で試しているとでも?
地御前くんのつぶやきは宮内くんの耳にも届いていたようで、彼は何か思い出したのか
「あぁっ!!」
と、声をあげました。
「ちょっとみんな思い出して!9月の合同強化練習の帰り、車の中で・・・・」
私が知らない話のようですね?
興味があります。
一緒に聞いてていいですか?
遠慮して欲しいなら席を外しますが・・・大丈夫?
ありがとう、聞かせてもらいましょう。
「護山さんから地御前くんへの挑戦表明!」
宮内くんが興奮した様子でそう話すと
「あぁ、しかるべき選手を鍛えて対地御前対策を叩き込んでぶつけるって言ってた、アレだよな」
銀山くんが地御前くんに目をやって言いました。
「公式デビューもまだの地御前くんにあんなハイレベルの選手が挑戦するということ?」
唖然とした声音で江波くんが言います。
すると、
「ご名答〜〜〜大正解!!」
と、私たちの後ろから手を叩く音と声が。
目をやると今日フェザー級の2回戦を控えている高南学院高校の護山蒼次郎くんが、妙に軽い様子の雰囲気で立っていました。
「西木先生からも聞いてただろうし、山田がこの大会にライトフライでエントリーしてた時点で気づくと思ってたんだがな?」
「いやぁ~確かに。しかしまさか地御前への刺客が山田さんとは・・・」
井口くん、ため息混じりですな。
私も驚いてます。
ついさっきの江波くんと同じ気持ちです、が、合同強化練習で見せた地御前くんの謎の実力を見れば納得もしています。
さて、肝心の当事者である地御前くんは?
真実を知り呆然と・・・・してませんね・・・・
夢中になってリング上の試合を
『観察・解析』
しておりました。
さて、試合の方ですが山田くんの断続的な攻撃を浴び続けた相手の選手が心が折れたのか2ラウンド終了後に棄権。
山田くん準々決勝進出です。




