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Nice Fight!〜違う道が1つになって同じ夢を見ていた〜  作者: livingdead


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国体を観よう!〜その3〜

ここは信徳県。


信徳国体2日目の早朝、午前4:40ごろ、学校関係者用宿舎の一室。


宿泊している高校生たちが思い思いの寝相でまだ夢の中だが、その中でひときわ小さい影が身を起こした。


小さい影、地御前栄代(じごぜんえいしろ)である。


他の国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会の面々が未だ熟睡中の中、1人寝間着の浴衣を脱ぎ捨てると手早くハーフパンツとT シャツに着替え、ウエストポーチにスマホとスポーツドリンクを収納すると、部屋を出て宿舎の玄関からまだ薄暗い外へと走り出て行った。


地御前栄代のルーティン、朝のトレーニングは信徳県でも欠かすことはなかった。


〜午前5:20頃・宿舎にて〜


なんだか騒がしい・・・


玄関の方からだな・・・


警察がどうとか聞こえるんだが・・・?


俺、この辺ではまだ何もしてないぞ?


アレをやったのは唐河県だし、アレをやったのは、確か高南県・・・・


などと自分のやらかしの記憶を辿るのは心が痛い。


変なタイミングで目が覚めたので、いささか思考が混乱している。


「井口くん、起きてたの?」


あくび混じりに江波の声がした。


玄関の辺りが妙に騒がしい。


警察も来てるみたいだし、ちょっと様子見に行ってくるわ。


「警察!?井口くん、姿見せて大丈夫なの?」


・・・江波、お前・・・


警察と聞いてスラッと俺案件だと今、決めつけたな?


全く無害そうな顔してひどいやつだ。


信徳県(こっち)では、まだ何もやらかしてないはずだから心配するなって。


大丈夫だよな・・・?


ともかく心配だから、と江波。


俺と一緒に宿舎の玄関に向かうことになった。


そこで俺たちが見たのは・・・・実に表現し難い光景だった。


パッと見て身長が2m 近くあるだろうかなりごつい警察官が2人。


機動隊から転属にでもなったのかな?


よく見たらお2人とも顔面やら首筋やら腕が引っかき傷だらけになっていて実に痛々しい。


そのうち1人の警察官が首根っこを捕まえてぶら下げてたのはブチ切れた子猫でもなければ小動物でもなく、だが、見ようによってはそれらと大差ない生き物ではある。


顔面がピキッとマークで埋め尽くされている地御前だった・・・


あ〜〜こりゃ相当怒ってるわ・・・


シャーッ!


とか


フーッ!


とか低い威嚇の声を漏らしている。


ガチギレした子猫が全身の毛を逆立てて思いっきり威嚇してるようなイメージが一番近いかな?


何だってあいつをここまでキれさせたんだ?


というわけでおまわりさん、状況説明をお願いします。


何かどうしてこうなっているんですか?


まだ暗い中、体育館の近くで1人で何かやっている地御前(こいつ)が居て・・・


早起きして朝練してたんだね。


職質したらなんだか不審な点があったので・・・


見た目ちょっと小さいからお話ぐらいは聞きますよね?


国体警備の警察官詰所まで連れて行こうとしたら引っかかれた、と・・・


・・・・つかぬことを伺いますが、その時地御前にどんな声かけをしたんですか?


ごく普通の身元確認?


・・・・・ごく普通の会話で地御前(こいつ)がここまで切れる訳があるかぁ!!


やば、つい大声が出てしまった!


「まあまあ井口くん、とりあえず後の説明は、僕が聞いておくからね、とりあえず地御前くん連れて行って」


『失敗した!』


と心中で頭を抱えていたら江波がなだめてくれ、とりあえず改めて警官2人から詳しく事情を聞かせてもらうことに。


宿舎の従業員や他校の先生方や生徒たちも地御前の身元を保証するために話に加わってくれた。


警官に首根っこを掴まれてぶら下げられたまま威嚇を繰り返していた地御前の身柄を引き取り

頭を撫でて落ち着かせながら部屋に連れ戻す。


俺と部屋に戻るなり、地御前は部屋の片隅に座り込み布団を頭からすっぽりかぶって動かなくなった。


額のピキッとマークは残ったまま。


声をかけると帰ってくるのは


「シャーッ!」


という威嚇だけ。


これは人間に戻るのにかなり時間がかかるだろうな・・・・


あの、警官たちとのやり取りで相当に地雷を踏みまくられたに違いない。


しばらくして江波が部屋に戻ってきた時には客野、宮内、銀山も起きていたので、みんなで詳しい話を聞いた。


つまりは、あの警官たちは体育館の近くで朝練をしていた地御前を小学生と勘違いして声をかけ、学年や保護者の連絡先をしつこく聞いてきたらしい。


それ自体は警官の職責として当然なんだろうが、悪気がなかったとはいえ、地御前が何度自分は高校生だと説明して挙げ句学生手帳まで提示しても信用せず、


「子供が背伸びをして学生手帳まで偽造したのかね?そもそもだね、君みたいな小さな子がこんな時間にこんなところをうろうろするものではない」


などと軽く説教じみたことを言われて、地御前のリミッターが振り切れてしまったらしい。


目から光が消えて無言でその場から離れようとした地御前を不審に思った警官が腕を掴んで引き止めようとした。


目から光が消えた時の地御前に対して絶対にやってはいけない行動の1つだ。


念のためにと詰め所に連行して身元照会だけして宿舎に送るつもりだったらしいのだが、あまりにもやり方が唐突でまずかった。


地御前が感じた恐怖心というものを全く理解できていない。


本能的に身の危険を察知した地御前は凄まじい勢いで警官2人の顔面やら腕を引っ掻いて、その時すぐ近くにいた別の警官まで巻き込んで、都合5人の警官が地御前に引っかかれて負傷したとか・・・・


これって本来ならば公務執行妨害と傷害罪に該当しかねない。


警官の説明を聞き終えて江波が事情と状況をしっかりと理解した上で頭を下げて謝罪。


警官の方も事実確認をろくにせず、決めつけた対応をしたことはこちらの落ち度なので・・・


ということで、お互いが謝罪を受け入れて話を終わらせたとのことだった。


何でも地御前は引っ掻きの攻撃力も去ることながら、とにかく敏捷でそれこそ猫科の動物のように警官の手をすり抜けまくり、最終的に地御前を確保する際には魚の漁で使用される投網が使用されたとのこと。



まあなんだ、地雷を踏みまくられた地御前も引っ掻かれて負傷した警官も、どちらも気の毒としか言いようがねえわ。


とりあえずこのまま地御前がピキッたままだと身動きが取れないので、全員で協力して宿舎の食堂まで誘導。


くるまっていた布団をひっぺがして立たせたところへ銀山が地御前をおんぶして食堂まで。


椅子に座らせた時に宿舎の従業員さんや食堂のおばちゃん達から声をかけられていた。


「災難だったわね。この辺りの警官って本当にあんな感じなのよ!」


「こんな時は美味しいものを食べて、さっさと忘れるのが一番よ!好きなものがあったら作ってあげるから言ってちょうだいな」


う~む、おばちゃん達の心遣いが心に染みる。


地御前、しょんぼりした表情になって小声で


「・・・ごめん・・・なさい・・・」


いや、これ地御前、警官引っ掻いた以外は悪くないじゃんね?


西木先生からも言われると思うけど、そんなにしょんぼりすることじゃないぞ。


あら?


こんな時に LINE の通知音。


それがまさかの西木先生からだった。


『ついさっき事情聞いた。地御前くんの様子は?』


しょんぼりしています。


『だろうねぇ』


先生が来るまでは俺らでもフォロー入れときますんで。


『この LINE 画面、地御前くんに見せてやって。僕からの課題。全部の試合をしっかり見て特に気になった選手を3人、全階級を通じて選びその動きや体の使い方の特徴を僕に報告すること。僕が到着するまでの課題だと思って取り組んでください』


どういう意味があって、こういう指示を出したのか?


俺にはさっぱり理解できなかったが、この LINE 画面を見せると地御前の目に光が戻り、すっくと立ち上がると言うのだった。


「井口くん、すぐ会場に行こう!」


そのままスタスタと歩いて食堂を出て行く地御前の姿に俺はもちろんのこと、他のみんなもポカンとして見送ることしかできなかったんだなぁ・・・・


ともかく西木先生、感謝です。

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