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Nice Fight!〜違う道が1つになって同じ夢を見ていた〜  作者: livingdead


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平城山体育大学

沿岸ブロック5県合同強化練習も一段落ついた2日目の夜、引率の監督・指導者陣は例によって集団で夜の街に繰り出して、居酒屋の大広間で大宴会。


総勢30名前後の集団ですから、それはもう大盛り上がりです。


スポーツ推進県とは、こういうところにも予算を出し惜しみしないものなんですねぇ・・・


薙沢県とは随分と違いますね。


この大宴会にちゃっかり便乗させて頂いてます、薙沢県ボクシング連盟医事委員長の外薗峰允です。


今夜はいい機会ですので、各チームの安全管理体制について酒の力も借りながら色々とディスカッションしてみようと思っています。


広々としたテーブル席に種々雑多な酒肴が並び、沿岸地区ブロックのボクシングチーム監督や顧問の皆さんが楽しそうに上戸は飲み、下戸は喰らい実に賑やか。


僕の隣では薙沢県国教大附属国際高校ボクシング同好会顧問の

西木先生が唐河中央高校ボクシング部監督の黒木先生と飲みながら、練習体系や沿岸ブロックのこれまでの競技実績、競技の周辺環境などについて、色々とお話をされているようです。


西木先生、先ほどから何やら無色透明のお酒をちびちびと舐めておられますな。


黒木先生は見た目からすれば意外にもアタリメを肴にコップで冷や酒。


僕は飲む時はスコッチを薄めの水割りと決めています。


「ところで西木先生、これはボクシングをしている生徒を守るための注意喚起ですが、情報共有と思って聞いてください」


不意に、黒木先生が真剣な表情で口を開きました。


「注意喚起ですか?」


「そうです。これは西木先生、先生ご自身のこともそうですが、何よりも大切なボクシング同好会の生徒たち、そして、ボクシング同好会そのものの将来についても影響しかねないことなんです」


何やら穏やかではない話の様子ですね。


まだ短い付き合いではありますが、西木先生が国教大附属国際高校ボクシング同好会にどれだけの心血を注いでいるか、僕にはものすごく伝わっています。


だからこそ、黒木先生の言葉を聞いて、普段温厚な西木先生の表情が一気に険しく変化したのも理解できるつもりです。


「・・・・お話いただけますか?」


平城山体育大学(ならやまたいいくだいがく)、ご存知ですか?」


西木先生は頭を横に振り、


「ボクシング競技絡みの学校だとは察しがつきますが、なにぶんほんの数ヶ月前までは門外漢でしたので・・・」


そうして僕の方に目を向けてきました。


まあ名前ぐらいなら知っています。


西日本地区の方の大学でしたね。


ただ、ボクシング競技のある大学としてはどの程度なのか・・・黒木先生の口から名前が出るくらいですから強豪校ではあるんでしょう?


「西日本大学1部リーグの強豪チームです。まあ問題なのはそのチームというよりもチームの監督なんですよ」



どういうことですか?


素行が悪いとかですか?


「素行・・・そうですね、少なくともあれを素行がいいとは言えませんね。多満井穐比子(たまいときひこ)、平城山体育大学ボクシング部総監督です」


西木先生は黒木先生の話を無言で聞いていますが、やはりその先が気になってはいるようです。


「選手の指導力や育成能力は確かに高いと思います。ただし、それはあの人に忠実な選手だけに限られます」


そう聞くと確かにアクの強そうな人物像が浮かんできます。


「そして何よりも、今回のような強化練習や高校生の大会を逐一チェックして、気に入った有望な選手がいれば自分のチームに引き込むため、堂々と青田買いを繰り返して相当な顰蹙を買っています」


「青田買いで戦力補強ですか?」


「そうです。しかも、もし本人がいまいち乗り気ではないとしても、どうしても欲しい選手がいれば学校、親族などに無差別にアプローチをかけて、また、ありもしない好条件を提示して、詐欺まがいのような方法で戦力補強を行うような人間です」


ここまで聞いて西木先生の表情は、さらに険しいものに変わっていってます。


「その人、そんなことしてよく告発とかされていませんね」


僕も感じていた当然の疑問を西木先生が口にすると黒木先生は俯いて、ため息を吐きながら答えました。


「偶然なのか狙ってるのか分かりかねますが、多満井を告発して裁判沙汰にするような生活に余裕のある家庭の選手は今まで狙っていません。それに学校によっては立場というものを勘違いしていて、大学側の監督からすごまれるとそれだけでことを穏便に済ませようと日和る高校の関係者もいるようで・・・情けないとしか・・・」


西木先生はそこまで黒木先生の話を聞いた後、それまで舐めるように飲んでいた無職透明の酒が入ったショットグラスに口をつけて、また少し唇を濡らす程度に含んで、それからつぶやきました。


「育てるという実が上がらないやり方なんですね。結局その人は何がやりたいんでしょうか?」


「究極の自己満足でしょうね。自分の子飼いの選手を増やして、それが学生を卒業して各都道府県連盟などに入り込み自分のコミュニティを形成する・・・口さがないものは『多満井チルドレン』などと呼んでいるようですが・・・要はお山の大将になりたいんですよ」


いますよね、確かに医療の世界にもこういうのはいます。


本当に自分たちの職責を何だと思ってるのか迷惑極まりない存在なんですよ。


でも、いまふと気がついたんですけど、ちょっと妙ですね?


「何がですか、外薗先生?」


いえ、それほど青田買いが好きな人物なら、当然この強化練習も嗅ぎつけて姿を見せるんじゃないでしょうか?


「確かに、外薗先生のおっしゃる通りですね」


西木先生も不思議そうに言われました。


「それなんですけどね・・・・」


黒木先生が口を開きかけたところで、不意に別テーブルからやってきた人たちに声をかけられました。


しこたま飲んですっかりご機嫌の、


高南工業高校・岩倉監督、

信徳学院高校・相良監督、

武領高校・佐竹監督


と言った沿岸ブロック武闘派監督三人衆が僕たちの座っているテーブルに合流してきたのでした。


「飲んでるかね?若人たちよ!今回の強化練習は色々と愉快なことが多くて酒も進むわい!」


テーブルをバシバシ叩いて豪快に笑う佐竹監督。


西木先生からお話は聞いてましたが、本当に豪傑という感じですね。


でも申し訳ないんですけれど、愉快な話ばかりでもないんです。


ねぇ、黒木先生。


「何かありましたか?強化練習は客観的に見て成功裏に進んでおりますが?」


相良監督もご機嫌に、あれ、多分ウーロンハイですね?


ガバガバ飲みながら上機嫌に黒木先生に笑いかけています。


「・・・平城山体育大学、多満井穐比子・・・」


黒木先生がコップに残っていた冷や酒を一気に煽ってから呟いた瞬間、場の空気が一変しました。


「黒木先生、上機嫌な酒の席でその名前出すとかないわ〜〜」


岩倉監督がそう言うと相楽監督、佐竹監督も同意を示すように


「うんうん」


と2人揃って頷いています。


て、言いますか・・・相当な嫌われ者ですね!


「わしの不徳の致すところなんだがな、うちの卒業生も何人か、あの外道に騙されて競技者生活を棒に振ったやつがいるんだ」


悔しそうに拳を握りしめる。佐竹監督。


もし目の前に、その多満井氏とやらが立っていれば殴り殺しかねない殺気を放っていました。


「今後の注意喚起を西木先生に伝えていたんです。全国区で見て最強クラスの沿岸ブロックにさらに新しい風が吹こうとしているんですよ!」


「その通りです!それは俺も見ていてわかった!」


黒木先生の熱い語りに相良監督が大きく頷いて、コップの中の酒を煽りつつ答えています!


「そこですみません!先ほどの答え合わせ!!」


黒木先生が何杯目かわからない冷や酒を一気に煽ると、爆弾発言!


それによりますと・・・・


「・・・来てたんですよ、多満井・・・どの面下げて!」


黒木先生が尋常ではなくこれまでにない険しい表情で吐き捨てました。


「高南学院の護山が、アリーナの入り口から中を伺っている多満井を見かけた・・・と」


それを聞いて岩倉監督が


「ふん!!」


と、不快そうに鼻を鳴らし


多満井(あいつ)だけなら見かけたら直ぐにでも叩き出してくれるのだが、この沿岸ブロックにもあいつの取り巻きが複数名いるから実に始末が悪いのだ」


なるほど・・・・それなりに勢力を持っている厄介者というわけなんですね。


西木先生は口元に手をやって、何か思案顔。


そんな中、黒木先生が


「護山から、もう一つ妙な報告がありましてね」


と、続けます。


「入り口からアリーナの中を伺っている人がもう1人いたそうなんです」


へえ?


「ものすごくお嬢様オーラがあって、超美人だったそうで、およそボクシングとは関わりがなさそうな感じだったと」


ん?


「アリーナの中を妙にうっとりと頬を赤らめて凝視していたとか、まるで恋する乙女のようで可憐だったと護山が言ってましたよ」


え、え?


「まぁそこまで言われるくらいの美人だから近くにいた多満井も気になったのでしょう。そちらをちょっと見た時にその女性と目が合ったようです」


・・・・・・・・・・


「そうしたらどうしたことか、多満井の顔面が蒼白になりまして、逃げるようにその場から去っていったとか・・・おや、どうかしたんですか外薗先生?」


・・・はっ!?・・・


いや、失礼しました。


少し飲み過ぎたかも?


あはは・・・・・・


先刻から続いていた要注意人物の話しで重くなりかけていた場の空気を解すかのように相良監督が西木先生にはなしかけます。


「先生、先ほどから飲まれているそれは?冷酒ですか?」


すると西木先生は微笑まれて答えています。


「いえ、実は日本酒は苦手で、僕はお酒はこれしか飲めないんですよ」


「ほほぅ・・・では私も試してみますかな?珍しい類の酒のようですし、いかがですか?黒木先生、佐竹先生、岩倉先生も頼まれますか?拳闘芸術家の先生が嗜まれるお酒ですぞ」


「よろしいですな!」


佐竹監督が真っ先に賛成し、黒木監督も岩倉監督も笑いながら同意しています。


西木先生は困ったような笑顔を浮かべながら、店員さんに彼が飲んでいるのと同じ酒を4人分オーダーしていました。


そして僕も交えて6人で改めて乾杯!


10分後・・・・・・


岩倉監督、相良監督、佐竹監督、黒木監督の4人がそれぞれ、テーブルに突っ伏したり、椅子にもたれかかったり、思い思いの姿で伸びておりました・・・・


西木先生も酔いが回って顔は真っ赤なのですが、何事もなかったかのように無色透明のお酒を舐めています。


店員さんに件のお酒のボトルをこっそり見せてもらったのですが・・・・・アルコール度数60度・・・・・


僕はいつもの水割りにしといて正解でした・・・・


それにしても、思いがけない要注意人物の出現が今後、国教大附属チームのみんなにどんな影響を与えるのか、懸念されます。


願わくば彼らの道に厄災が降り注がぬようにと祈らずにはおられません。


・・・・願わくば・・・・

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