前進前進また前進!
沿岸ブロック5県合同強化練習!!
いや〜〜実に、実に!有意義であった!!
我が武領高校チームが練習試合とはいえ見せた勝利への飽くなき執念!
勝てど敗れど決して退かぬ、これぞ武領魂ここにあり!!
我が戦士たちよ、今宵は次に備え、しっかりと英気を養うが良い!
わしは我が師、ピストン堀口師匠にこの誇り高き成果を今こそ報告しておこう!!
なぬ?
「先生・・・我が師ピストン堀口師匠って・・・先生、今一体歳いくつなんですか?」
黙らっしゃ〜〜〜い!
確かにわしがボクシングを始めたのは昭和の終わり頃だが、それがどうした?
わしは祖父が持っていたピストン堀口師匠の8mmフィルムを見て、槍の笹崎をラッシュで仕留めた師匠の姿にわしが求める全てを感じとったのだ!
そこに世代の壁などしゃらくさいわ!
がはは!!
それはともかくだ、合同練習も明日でお開きだから、今日は仕上げにしっかりシャドーボクシングをして切り上げるように。
お前らが最近よく横文字で言っている前進スタイルの基本形とやら、確か・・・
クララちゃんスタイル?
「・・・先生、クララちゃんって・・・世界名作劇場じゃないんですから・・・クラウチングスタイルですよ!」
・・・だまらっしゃ〜〜い!!
お前こそ知ったかしおって!
ぬぁ〜〜〜にが世界名作劇場じゃい!!
クララちゃんが出てくるのはな、カルピスまんが劇場じゃい!
「先生、詳しいですな」
娘と孫娘がDVD全話持っておるからわしも全部見た!
・・・そうじゃなくて!
さっきからお前も、いちいちいちいちいちいちいちいちいちいち、しょうもないツッコミばっかりしてきよって!
少しは最強拳闘集団武領高校拳闘団員としての自覚と誇りを持って言動行動に気をつけんかい!
「あぁいや、あの・・・先生、俺、一応来年ボクシング部主将の内示を受けているんです。そういう立場なので、言動行動には十二分に気をつけています」
う~む、時代が変わったと言うべきなのか?
わしらの頃なんてボクシングに限らず、運動部で成績優秀なやつらなんて人格的には致命的なクズ人間が占めていたはずなのだが、今頃の子供たちは、しつけの仕方さえ間違わなければ、自分自身を自然に律することができている。
そういえば我が娘が言っとったわ。
情報過多のこの時代、正しい情報を取捨選択できる者が正しい道に育つものですと。
そう考えると我が団員には今のところ道を踏み外した腐れ外道は出現しておらん。
運が良いのか、それともこれから時代が変われば出てくるのかわからんよ。
わしには今できることを精一杯奴らに注ぎ続けることだけなのだからな!
長々と自分語りをしてしまって申し訳ないが、わし、名乗ってないよね?
佐竹剛!
武領高校拳闘団の監督だす!
武領の精神それこそ
「全身全身。また前進!」
あれ?
最近のスマホとやらは変換が難しいですな。
気を取り直して
「前進、前進、また前進!!」
こういうことです。
小技カウンターしゃらくさい!
武領前進前進拳闘団の通り過ぎた後にはセイタカアワダチソウも生えないと思い知るがいい・・・そう思っていたんですがなぁ・・・
前置きが長くて申し訳ないが、今回の合同練習では、ちょっとしたホームシックを受けることになったのでした。
「先生・・・ホームシックって、実家徒歩圏内じゃないですか。カルチャーショックって言いたかったんですよね?」
だまらっしゃ〜〜〜〜〜い!!!
はぁはぁ・・・
まったく・・・・なんで合同練習に来てまで教え子と漫才をせなならんのだ!
こんな姿、娘にも孫娘にも見せられんわ・・・などと片付けられている練習会場の様子など見ていたら、おや?
体育館の床に座り込んで何やらスケッチブックっていうのかな?
それに黙々と鉛筆を走らせている・・・
あ、彼は練習試合で高南工業の梶川相手に堂々渡り合っていた小学・・・・ではなくて・・・・えーっと、ちっちゃい子!
彼の隣には、そのちっちゃい子のスケッチブックを覗き込みながら小さく頷き続けている・・・えっと
『国凶刃だまらっしゃ』
「先生ストップ!スト〜〜〜ップ!!」
教え子が慌ててわしの手からスマホを取り上げ、あれやこれや軌道修正してくれたようですな。
そう、わしの目を引いたのは、あらかた片付けが済んだ練習会場でひたすらクロッキーノートに筆を滑らせる、その無害そうな姿の少年。
この子があの
『無冠の絶対王者』
とまで呼ばれておる梶川相手にあの様な激闘を繰り広げたとはな。
そのすぐ傍に座り込んでスケッチブックを覗き込んでおる年若い・・・わしの娘と同世代くらいに見える青年。
彼奴こそが、わしが感じておるカルチャーショックとやらの原因そのものなのだ。
薙沢県国教大附属国際高校を引率する西木匠先生。
今年の初め頃に突然連絡があり、そこからは拳闘に関する質問攻めで、たじたじさせられたものであった。
競技経験も何もない全くもってど素人が、学校の方針とはいえ、引き受けてしまった拳闘チーム。
しかも自分が熱意を持って取り組んでいた美術部の活動を学校側から一方的に潰された直後の話だったというではないか?
それでもこの青年はこんな理不尽に真正面から向き合って、わずか半年足らずで、見事な精鋭チームを育成してのけた!
わしらの常識では考えられん!
今回の練習試合で唯一薙沢県の選手とやり合ったうちの守下も、試合後に相手のあまりの完成度の高さに脱帽しておったわ!
・・・・それにしても、先ほどから熱心にスケッチを続けている小さい子、地御前とかいう名前だったな。
わしもちょっとスケッチを覗いてみたが、誰が見てもわかる。
めちゃくちゃ上手!
その鉛筆を走らせるいかにも小さな手で、あのまるで相手を射抜くかのような危険な拳撃が放たれてるというのがまた妙な気分だ。
なぁ、お前は何がきっかけで拳闘を始めようと思ったんだ?
「西木先生がいたからです」
・・・?・・・
拳闘を始めたきっかけが・・・美術教師であるはずの西木先生だった・・・と?
すると地御前はここに至るまでの経緯を何とも澄んだ瞳と優しい口調で淡々と語り始めた。
中学時代から西木先生に師事することを望み、今の学校に進学して美術部に入部しようとしてみれば肝心の美術部は廃部。
拳闘チームに化けており、西木先生が横滑りでそこの顧問になっていた、と・・・・
聞いていて何とも切ない話だが地御前に迷いや後悔の念は一切感じ取られなかったな。
・・・・・美術の師について行くために拳闘のグラブを握った少年か・・・・・・
ここまで拳闘をやってきてどうだったかね?
「まだ何もよくわかりません。でもやめようとは思いません」
静かに、しかし迷いなくそう答えた地御前にわしの手は自然に動いていた。
頭を撫でられてこやつ照れくさそうにしておるわ。
・・・・いや〜〜〜!
沿岸ブロック拳闘チームの未来は明るい!
今日もまたそこに向かって、
「前進、前進、また前進!!」
まっすぐ行こうぞ!!




