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Nice Fight!〜違う道が1つになって同じ夢を見ていた〜  作者: livingdead


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県対抗団体戦バンタム級

【 地御前栄代(じごぜんえいしろ)(国教大附属国際1年)ー梶川元貴(かじかわもとき)(高南工業2年·1年時選抜·インターハイ3位·国体2位) 2年時選抜2位、インターハイ2

位 】


両選手がリングに登場した瞬間、会場は大きくざわめいた。


元々わかっていた両選手の格と実績の違いもさることながら、両者が醸し出す空気感の違い、何よりも身長差が18cm、ナチュラルなバンタム級で絞り込まれ鍛え上げられた肉体の梶川元貴175cmに対し、対角のコーナーにて向かい合っているのは、本来の階級が2階級下のライトフライ級で、むしろそれでも小柄な体型157cmであり、しっかりとした練習の賜物かそれなりに筋肉こそついているが、梶川のそれと比べれば見るからに華奢である。


第1試合目の山田信一と客野太郎とのフレームの差どころの話ではなかった。


ただ、絶対強者と思われる梶川を前にして対戦相手である地御前栄代は妙に落ち着き払った静かな瞳を梶川に向けている。


試合開始前にレフェリーから簡単な注意を受けて、それぞれのコーナーに分かれた時、梶川は目を閉じて両腕を天井に突き、出しぐっと背伸びをするとセコンドについている岩倉健司監督とグータッチ。


対する地御前はセコンドについている西木匠教諭と何やら二言三言言葉を交わすとお互い柔らかい笑みを浮かべて頷き合い、そして1ラウンド開始のゴングが鳴った次の瞬間、会場はさらにどよめきに包まれる。


小柄な地御前が見せた異様な構え、少なくともアマチュアボクシングという競技の範疇でこういう構えを持って試合に臨んだ選手は例を見ないものと言えるだろう。


サウスポースタイルのセミクラウチングスタイルでしっかりとガードを固めてリングをサークリングする梶川に対して、地御前は全くフットワークと言うかリズムを刻む気配すら見せず、小動物が前足でひまわりの種を持って突っ立っているような姿で梶川の動きを妙に静かな視線で追っている状態。


ただ、さらに異様だったのは梶川がものすごく慎重に対処していること。


梶川元貴という選手は、相手がどのようなレベルの選手であれ、絶対に気を抜いた試合はしない選手であり、秒殺できる相手なら、すでに現時点で地御前に猛攻を仕掛けRSC に追い込むか、または得意の右フックから派生した。右ボディフックから右フックへつなげる通称


『梶川返し』


によって決着がついてるはずである。


しかし梶川は、右ジャブをサークリングしながら慎重に突いて、地御前を誘い込もうとしている様子で、逆に地御前は、両手を胸元において突っ立っているだけ・・・に見えたが、足がリズムを刻んでない代わりに、何やら上半身がゆらゆらと揺れて、それがどうも地御前のリズムを構築している様子。


開始から30秒程度が経過して、場内がざわめき始めた頃、先にアクションを起こしたのは地御前だった。


右ジャブを突きながら慎重に右回りにリングをサークリングしていた梶川に対し、地御前はスタスタと無造作に一直線に歩いて近寄る。


対して梶川が、小さく左サイドにステップバックして、それと同時に右フックを地御前の出端に引っ掛けようとした瞬間、地御前はその右フックの軌道に逆らわずに上半身を右横倒しにしたかと思うと、そのまま異様な体勢からのスウェーバックで梶川の右フックを空転させ、次の瞬間ショートの左アッパーを縦拳で突き上げ、かろうじてバックステップでかわした梶川だが、お互いが向き直った時、梶川の鼻から出血が見られていた!


このごく一瞬の攻防で、会場内はさらにざわめく。


アマチュアボクシングの常識で考えたら何が起こってるのか、誰にも理解できない展開には違いない。


梶川は表情を引き締めて地御前に向かい合い、地御前は何かを見透かそうとする、光のない瞳で梶川の全身を観察しているような雰囲気。


第1試合目とは違う意味で、一体何を見せられているのか?と、リングサイドのざわめきの中、1ラウンドが終了。


インターバル中、青コーナーの梶川はセコンドの岩倉監督と言葉を交わしているが、1ラウンドの異様な内容とは裏腹に、梶川はどこか楽しげな笑みを浮かべて、岩倉監督のアドバイスに返事をしている。


赤コーナーの地御前は全く表情を変えることなく、落ち着き払った様子で、ゆっくりと呼吸を整え、セコンドの西木匠教諭も何やら必要最低限の声かけだけをした様子。


あとは呼吸を整えることとセコンドのマニュアルを普通に遂行していた。


2ラウンド目開始!


1ラウンドと変わらず梶川は、右にサークリングしながら右ジャブを差し、一定の間合からは絶対に自分から踏み込まない。


そういう枷を自分に課しているかのようにである。


対して地御前は身長、リーチで劣る分、本来ならば、このラウンドから距離を詰めにかかるのがセオリーなのだが、全くその気配がなく、例の構えで不気味に上半身をゆらゆらと動かしているのみ。


両者の間にある空間で何かしら激しいせめぎ合いが展開されてるような空気を場内では感じているが、それにしてもミックスアップが少ないためレフェリーが痺れを切らして


「Box!」


と、両選手に警告を与えようとする絶妙のタイミングで、梶川、地御前は距離を詰めてパンチを繰り出し合う・・・


が、お互いに相当警戒し合ってる様子で、なかなかクリーンヒットが生まれない。


妙なところで呼吸がぴったりである。


それにしても梶川の地御前に対する警戒心は傍から見ても過剰としか思えないレベル。


少なくともここに至るまでは徹底的に直接的な打ち合いを避けて、最終ラウンドで何かしらの決着をつけるつもりに見える。


翻って、地御前にとってもこの展開は想定外だった様子で、まさかここまで相手が慎重過ぎるぐらい慎重に守りを十重二十重に仕込んでくるとは予想もしていなかったらしい。


ほとんどアクションらしいアクションのなかった2ラウンドが終わりいよいよ最終ラウンド。


会場内は、ただただざわめいている。


最終ラウンドスタート同時に試合が動く!


仕掛けたのは梶川。


それまでのサークリング中心の動きを捨て去ったかのように地御前に対して一直線にステップイン。


リードを突かずいきなりの左ストレートを出すと見せかけて右フック!


すんでのところでダッキングした地御前だが、頭部をかすめた梶川渾身の右フックは想像以上の威力であり、地御前は後方にふらつき、キャンバスにグローブをタッチしそうになるが、さらに嵩にかかって、もう一撃右フックを強振してきた梶川に対して、低い姿勢のままサウスポーにスイッチして前の手になった右拳を縦拳のまま梶川に向かって突き出す。


それは梶川の顔面ではなく、ちょうど胸板あたりをジャストミートしたのだが、その瞬間思わず梶川は表情を歪めて後退。


ここで地御前は絞り込んだ両肘から、ひっきりなしにステップをオーソドックス、サウスポーに切り返しながらショートのストレート左右フック、左右アッパーを1箇所に留まることなく、さらにガードの上からでもお構いなしに連打を仕掛ける。


対する梶川は地御前の攻撃を真っ向から受けて立つつもりなのか、真正面で自分の持っている攻撃、重くて強くて速い、それこそ全国区でも最強クラスと言われるコンビネーションを出し惜しみせずに繰り出して最終ラウンドのラスト大体45秒間程度はリング上で試合している両選手も観戦していた観客も呼吸をすることすら忘れていたのではないだろうか?


最終ラウンド終了後、両選手レフェリーに呼ばれてリング中央へ。


どうも判定が割れた様子で集計にだいぶ時間がかかっている。


ようやく試合結果が告げられた。


「ただいまの競技の結果をお伝えいたします。3−2のスプリットディシジョンによりまして、青コーナー高南県、高南工業高校、梶川選手のポイント勝ちです」


梶川は、手をあげられ、ほっとした表情。


地御前は特に表情を変えず、息を1つつくと、一礼してリングから降りていた。


――――――――――――――――――


危なかったぁ〜〜〜〜〜・・・・・!


何なの?


あのチビくん!


護山さんからあらかじめ話を聞いてなかったらとんでもない目に遭うところだった


梶川です!


ついさっき試合終わりましてん!


なんとかギリチョンのポイント勝ちですわ。


まあ、あらかじめ護山さんから


「間違っても倒そうなんて思うな。打ち合いたければ最後の最後!」


なんてアドバイスされてましてな、まああの護山さんがそこまで言わはるんですから、そらも間違いないんでしょうな。


実際そうでしたし。


1ラウンド目の最終盤の攻防で思い知りましてん。


このチビくん・・・地御前がやりよるのはボクシングちゃう!


言うなれば人間の解体や!


人間をパズルに見立てていっぺん解体して、そのピースを自分の都合のいいように埋め直す!


ガチでやばい!


形を変えたサイコパス!


まあそんな風に言ってはみましたけど、だからと言って俺だって全国区の強豪ボクサー!


地御前がチート級のやばいやつだからと言って芋引くわけには行きませんのやな!


きっちり絵図を引き直して最終ラウンドの秒単位で勝負をかけさしてもらいましてん!


あーもうね、秒単位の短時間とはいえ、凄まじい濃密な時間でしたわ!


お互いのパンチが届く距離でドツキあってみて分かったんですけど、地御前って別にパンチ力があるわけじゃありませんねん。


体だって本当、子供子供した骨格だし。


でも、実際に彼のパンチ食らったらわかりますけどね、本当、人体の急所ってやつを確実に突いてくる感じなんです!


「なんじゃこんなもん!」


みたいに思って調子に乗って打ち合ってたら絶対後悔しますけんな!


ナイフとかアイスピックを急所に向かって的確に投げつけられてると考えてみなはれ?


でもまあ、ほんま今日の試合で腹くくれましたわ!


次、国体出るんですけどね、もう絶対妥協せえへん!


全試合ストップ勝ちでぶっちぎりの優勝したる!


薙沢のみんなにも声かけとくわい!


信徳県で国体じゃけ、絶対俺の勇姿見に来いよ!と


特に地御前!


お前のせいで、俺はこれから無敵にならんといかんのじゃ!


絶対、俺から目を離すなよ!


・・・・そう思とったら、すぐ近くを地御前が通りかかったので、ちょっと声かけとくかな?


・・・あっ!?こら逃げるな!


俺は別に怖くねえ!


それにおじさんでもねぇ!!

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