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Nice Fight!〜違う道が1つになって同じ夢を見ていた〜  作者: livingdead


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13/31

美術部

〜少し時を遡って、国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会に井口が合流して間もない頃の話です〜


「市長賞?」


なんとも唐突な報告を聞いて声を上げてしまいました。


銀山(かなやま)です。


俺たちは例によって休憩時間、ボクシング同好会の部室、つまり美術室に集まって思い思いに過ごしていました。そこで江波(えば)が俺に


「これ見て」


と差し出したのは


薙沢県薙沢市報(なぎさわけんなぎさわしほう)


なる表題の官報新聞で、その第一面を飾っているのは、どうやらうちの学校の校庭から視界に広がる自然豊かな風景を見事に表現したクロッキーでした。

そのクロッキーに


『市長賞』


と表題がついていて、作者の名前が


『国立国際教育大学付属国際高校"美術部"1年生・地御前栄代(じごぜんえいしろ)さん』


俺と江波の周りにも客野(きゃくの)、井口、宮内らがわらわらと集結し、官報の記事を覗き込み始めた。

井口は一瞥すると少しニンマリと笑っただけで離れて元いたソファーに横になっていたが、宮内は客野と一緒になって


「すごいね!」


「すげえな!」


・・・聞いていて悲しくなる語彙力のなさだが確かにすごい。


元々、地御前は美術部志望でここに入学し西木先生から美術を教わるはずだったんだが、どのような成り行きなのか同じ先生から、なぜかボクシングを習っている。

それでも時間があればスケッチブックを開いて題材を見つけては鉛筆を走らせている。

美術への思いや、こだわりは相当なものだというのが俺にだってわかる。だから地御前が自分のことを


『1人美術部員』


と名乗ることがあることに対して、むしろそれができるのはいいことだと思っている。


この同好会の他のメンバー江波、宮内、客野、井口そして俺たちが入学する前に学校都合で美術部を潰されていた西木先生に至っては地御前は思いを引き継いでくれる生徒なんだから・・・そこで俺の思考は中断させられた。その思考のもとになっていたやつが妙に冷めた目で部室に入ってきたからだ。


スタスタと小さい体で俺たちの前を通り過ぎると奥にあった椅子に座り込んで無表情にため息。これって絶対何かあったやつ?だよな。


〜20分ぐらい前〜


こんにちは、地御前栄代です。僕は今、1年生担任が集まる職員室にいます。そこで取り囲まれて複数の先生方から


『薙沢県薙沢市報』


という新聞を突きつけられて説明を求められています。市の方で募集されていた絵画のコンクールに僕が描いたクロッキーを提出したところ、それが市長賞を授与することになったのでした。問題はこの後、この作品の作者が


『国立国際教育大学付属国際高校美術部員』


と名乗っていることでした。以前に聞いた話ではかつてこの学校に確かにあった美術部は学校側の都合というよくわからない理由で廃部にされていました。


潰れたはずの実在しないはずの美術部を僕が名乗ったことは思った以上に先生方の神経を逆撫でしてしまったようで、複数の先生方から職員室に拉致されて詰められているという次第です。


また間の悪いことに今日は西木先生、他県に出張中。


「西木先生もやり方が姑息ですね。自分の生徒を使って我々に対してこんな皮肉を突きつけてきたんですから」


「大体学校に断りもなく、こんなコンクールに出品するのは非常識ではないんですかね?しかもボクシング同好会のくせに美術部を名乗ってるのは経歴詐称になるんじゃないですか?」


「恥知らずな学生はこの際放逐した方がいいんじゃないか?お絵かきは中学生までで高校は学問をする場所ですからね!」


僕が聞いても大人の論法には聞こえない幼稚で中身のないチクチク言葉を聞いて30分弱かな?やっと職員室から解放された時にはさすがにぐったりでした。


「・・・ということがあって・・・」


地御前から事の経緯を聞いて、俺(銀山)の腹が煮えていた次の瞬間、部室の扉を荒っぽく開けて飛び出していったやつがいた!


まずい!!


最初に客野が、続いて俺や宮内、江波が鬼の形相で職員室に向かおうとする井口に追いすがり冷静になるように声をかけて制止。


地御前も後から追いついてきて井口に声をかけていた。


「ごめん、ありがとう。僕は大丈夫」


「・・・・・・・・・・・」


鬼の形相のまま井口は声をかけてきた地御前を見返すと、大きく息を吐いて冷静な表情に戻り、


「そうだ・・・な・・・」


と、ポツリとつぶやき方向変えて部室に向かって行った。噂には聞いていたけどスイッチが入った井口のヤバさを目の当たりにして、そして相当きつかったはずなのに冷静に井口をなだめた地御前。


「お前は大丈夫なのか?」


声をかけた俺に向き直り少し困った笑顔を見せた。


「僕がやった事って、もう美術部がない以上、本当は筋じゃないんだよ。だけど一度だけでも

西木先生の美術部員だと名乗りたかったから、やっちゃった」


なんと声をかけていいかわからない。宮内が妙に優しい表情で地御前の肩を叩いて、部室に戻ろうと促し、客野は一足先に井口の様子を見に部室に戻っていた。


江波は多分相当怒っている。

拳を握りしめっぱなしだもんな。


ただ、俺はみんなとよく話し合って当面今日のことは西木先生には伝えないと決めた。いずれは話すことになるだろうけど、今はまだいいと思った。


今日のことで先生含めて俺たちの誰もこれ以上気持ちを重くしたくなかったから練習してさっさと忘れよう!

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