第七話 文通と取り柄
それから三年間、アルソナ王国本土は平和だった。
東西の大陸で何かしら戦争の兆しは見え、何度となく危機はあったものの、少なくとも我が国が巻き込まれることはなかった。
それは私が王妃の側仕えとして、国王夫妻の会話に耳を傾ける機会が多いからこそ分かる国際情勢であり、王宮の宰相や大臣、官僚とはあまり話すことがない女官だからこそそれ以上のことは分からなかった。
第一、私は政治に口出しできる立場にはない。王宮に仕える人々の中には、そうした情報収集を行いたがる貴婦人や官吏もいるが、よく間諜として捕らえられている。その正体がどうであれ、疑われるようなことはすべきではない。
ただ、一度だけ、私が王妃の周辺を探っているのではないかと疑念を持たれたことがあった。
外交官見習いとして海を渡ったアルバートから寄せられた手紙を、郵便物の仕分けをしていた下級官吏が『何度も外国との手紙をやり取りをし、しかも外交官を通じている。王妃の側仕えとして得られた情報を流しているのではないか』と邪推したのだ。
結果、私はアルバートとの文通を認め、国王や王妃、第一王女、第二王女、宰相にまでやり取りした手紙のすべてを披露することになった。
「あらあら、まあまあ! 婚約は無事続いているのねぇ」
「何よ、放蕩アルバートのくせに字が上手くなっているじゃない」
「しかもこの紙、香り付けされているしよく見たら花びらも漉き込まれているわ!」
「何それ、大陸ではそんな素敵なものが手に入るの!? 私も欲しい!」
「こらこら、トリッシュ宛ての手紙を奪い合ってはいかん」
「こほん。さて、これは……トリッシュ・イヴェルタリーとアルバート公子の、婚約者という関係上——それに文章を読んでも、恋文と見て間違いありませんな。両王女殿下、持っていってはなりません。疑いが晴れた以上、トリッシュへ返却を」
このように疑惑はすっかり晴れ、王家公認の恋人同士の文通として扱われることになったため、専門の配達人を雇ってもらえることになった。その場にいた職務熱心な下級官吏は己の不明をひどく恥じ、深く謝罪してくれたので、お咎めはなしだ。
そして私は両王女の要求に従い、アルバートへ、大陸で手に入る女性の喜びそうなものを片っ端から送るように、という一文を添えた手紙を送った。
これは賄賂ではない、あくまで個人の収集趣味の範疇である旨、きっとアルバートも理解したのだろう。すぐさま大陸にあるウーリゼン帝国の絹リボンや手編みレース、ルーヴァ連邦同盟のバラ水や香油といった特産品を、手紙と一緒に送ってくるようになった。
同時に、こんな恨み言も書いていた。
『女王様におかれましては着々と地歩を固め、私との関係を王家公認の婚約というお墨付きさえ手に入れられた以上、どのような野望をお持ちかと日々戦々恐々としております。さらに言えば、我が祖父にからかわれる話題を惜しみなく提供してくださったこと、まことに恨めしく思っておりますがそれはさておき……——』
要するに、私のせいで祖父にからかわれたぞどうしてくれる、ということだったが、私は無視することにした。それよりも、イヴェルタリー領内で使う騎兵用のいい馬を探してくるように、と厳命しておいた。
その後、いくらか大陸産の良血馬が海を渡ってきたので、アルバートはお使いの才能があるようだった。




