沸き立つ心
土曜の夕暮れ時。荒道健人(剣崎)が日課となっているmillionwarsへとログインをすると、九条からの全体メールが届いていることに気づいた。
「大事な連絡があるため、時間に余裕があるものは十九時に天守閣前に来てください」
剣崎は九条の連絡に従い、時間に間に合うよう早足で天鷹城の天守閣前へと向かった。
ガヤガヤ ガヤガヤ
天守閣前には既に集まっていた天鷹城に所属するプレイヤーが大勢集まっており、ちょっとした祭り騒ぎになっていた。
大抵の事は九条が一人で決めてしまうため、普段の九条ならプレイヤーを一箇所に集めるようなことはしない。ここにいるプレイヤーたちはそれを分かっていて、それ故に九条の発言を一喜一憂しながら待機している。
十九時ちょうど、天守閣の最上階に九条と勇が姿を表した。
「みんな!今日は集まってくれてありがとう!」
先程まで九条の連絡を待つプレイヤーたちの憶測で賑わっていた天守閣前が九条が姿を表すと同時に静まり返った。
「今から話す大事な連絡は他でもない、次の予定についてだ。一昨日、小鴉城の城主 潤色さんからメールが届きました。メールの内容はお互いの全ての城とプレイヤーをかけた対抗戦のお誘いでした。」
集まった天鷹城のプレイヤーの顔に動揺の色が浮かぶ。
「「みんなで築いた城を渡したくない」「対抗戦なんてしなくても自分たちの得意を活かして城を奪えばいいんじゃ」きっと皆はそんなことを考えてくれてると思う。けど、俺はこの話を受けようと思う。」
九条が自分の決断を口にした瞬間、集まったプレイヤーたちの表情から動揺の色が消えた。
「理由は三つ。一つ目は所有する城の数とプレイヤーの人数。現状は潤沢な資源を有する我々だが、いずれ資源は枯渇するだろう。それを支えるためには所有する城とプレイヤーが圧倒的に足りない。」
城内の畑から取れる作物や武器や防具に一度の生成に上限のあるNPC兵士、それら全は当然、所有する城の数が多くなれば生産量も増える。
「二つ目は、対抗戦という場で実力を示した方が、潤色さんに仕えているプレイヤーも納得して仲間になってくれる可能性が高いこと。」
実際のところ、落とされた城の城主に仕えていたプレイヤーの多くは、城が落とされた後も城主に着いていくケースが多く目撃されている。それ故に対抗戦や模擬戦闘で双方同意の元、決着をつけることは少なくない。
「そして三つ目は……俺たちの方が強いからだ。」
三つ目の理由を聞いた途端、真剣な顔で九条の言葉を聞いていたプレイヤーたちの顔に笑顔が浮かんだ。
「長々と話はしたけど、結局のところ勝てばいいだけの話。巷では天鷹城はNPC兵士の性能が高い城と有名みたいだけど、NPC兵士が強いだけじゃ勝ち続けることはできない……断言するよ、俺たちは強い!」
集まった天鷹城のプレイヤー、百二十五名の雄叫びが天鷹城中に響いた。
「時は一週間後の二十一時、一騎打ちイベントの翌日だ。お互いに五名の代表者を選出して対抗戦を行う。よって、天鷹城の代表者は一騎打ちイベントの様子を見て決めることとする。」
その場の全員が両隣のプレイヤーの顔を見た。ステータスという概念がフルダイブゲームから消えた今、魔法やスキルの介入しないゲームを遊んでいるのだ、自分の腕に自信の無いものなどいない。
今日まで共に戦ってきた頼りになる仲間と五つの席を奪いあうという事実に、その場の全員が武者震いを覚えた。
「今日から六日後の午前九時から午後二十一時まで、場所は天鷹城の天守閣前、集まったプレイヤーで一騎打ちイベントを行うこととする。参加する者は自分の実力を磨き、六日後に備えるように!以上、解散!」
九条の大事な連絡は終わった。終わった今だから言える、全体メールという便利な機能がある中、口頭で伝えた九条の判断は正しかった。九条の報告を聞いたプレイヤーの目つき……いや、顔つきが変わった。
そして、それは剣崎も同様だった。
「九条さん!俺に剣を教えてください!!」
いてもたってもいられなくなった剣崎は九条にメールを送り、訓練場で指導を懇願していた。
「えっと……どうして僕なのかな?」
大勢のプレイヤーの前に立っていた時とは違い、気の抜けた九条からは先程までの城主としての迫力のようなものは消えていた。
「……猪ケ倉城での城主 円満さんとの一騎打ち。狭い室内という限定的な空間ではあったものの、九条さんの敵の攻撃を捌く技術と適切なタイミングで打ち込む技術は確かなものでした。」
九条は複雑な顔を浮かべた。
「褒めてくれるのは嬉しいけど……僕の技術は身長や身体能力差を埋めるための技術。君のような身体能力の高い人には必要のない技術だよ。」
「だったら、何をすれば俺は強くなれると思いますか!」
食い気味に質問する剣崎に驚きながらも九条は自分なりのアドバイスを授けた。
「……これは僕なりの考え方なんだけどね。人から教えられた技術では、オリジナルを編み出した人間の成長に劣ると思ってる。」
「……オリジナルに劣る?」
「まぁ、絶対ではないけどね。個人的には人から教えられた技術はスタートセットで、そこから発展させて自己流に至るものだと思うんだ。」
「自己流に至る……何となく分かった気がします!ありがとうございました!」
剣崎は九条にアドバイスのお礼を伝えると、その足で訓練場へと向かった。
(まずは改めて自分のスタイルを見つめ直す……)
剣崎は木刀を手に取り、天鷹城の訓練場で戦うことのできる屈強なNPC兵士と向かい合った。
(まずは剣道の基本、中段の構え……これじゃダメだ!剣道の目的はあくまで打ち込むこと!中段に構えているお陰で相手との距離を測れ、防御こそ楽なものの、これじゃmillionwarsでは勝てない!)
木刀を持ったNPC兵士が踏み込み、木刀を横に振り抜くものの、中段に構えた木刀で軌道を逸らし剣崎は後ろへと退いた。
(だったら上段……上段なら頭上や肩へ向けて切り下ろすことができる……だけど!)
剣崎が上段に剣を構えると、先程までの中段に構えていた木刀が消えたからか、NPC兵士は全速力で剣崎の懐に入り込み腹部に一撃を入れた。
(上段だとタイミングがシビアすぎる!!それに、今は木刀が相手だけど、多いのは槍や薙刀のような長物……上段に構えてたんじゃダメだ!)
中段に構えると攻撃が疎かになり、上段に構えると防御が疎かになる。剣道のように使い分けていたのでは、その一瞬を狙われ、致命傷を与えられかねない。そんな、息詰まっていた剣崎に九条からの頼まれごとを終えた、男が声をかけた。
「随分と苦戦してるみたいだな!」
「鳴海さん!」




