最後の戦い
「剣崎くんが……俺と?」
御影は信じられないといった様子で九条に問いかけた。
「あまり舐めない方がいいですよ。なんせ朱羅さんを倒したのは剣崎くんなんだから」
「……噂には聞いてたけど、九条くんの様子からして、噂は本当みたいだね」
御影が槍を構え、答えるように剣崎も槍を構えた。
「こいつらが戦うのはいいが……お前はどうするつもりだ?」
「……なにもしませんよ。鬼塚さんからしても、その方が助かるのでは?」
「………………」
圧倒的に不利な状況に陥っている鬼塚、御影の陣営にとって一騎打ちは、戦況を覆す絶好の機会。それに加え、御影は朱羅と打ちあえるほどの戦闘能力の持ち主。朱羅を倒したという噂は耳にしていたが、所詮は噂。鬼塚は少しも信用していなかった。
(御影さんの槍は十文字槍か……普通の攻撃はともかくとして、絡め取られないように注意して戦わないと)
御影の槍は十文字槍。『突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌 とにもかくにも外れあらまし』と言われるほどの槍で、どのように使っても攻撃を繰り出すことのできる万能な槍。
対する剣崎の槍は笹穂槍。笹の葉のような形状をしている、この槍は切ることに特化しており、槍を叩きつけると同時に切りつけることが可能。
同じ槍だが、その性質は異なり。片や万能、もう一方は切れ味に特化した槍。槍の技量で勝った方が勝つ。
「ダッ!」
両者が同時に動き、槍をぶつける。お互い、突きとなぎ払い、どちらが来ても防げるように、近づきすぎず様子見の一撃。
(素のパワーは朱羅さんほどじゃないけど、槍に体の力を上手く伝えてくる……)
実力者が集まるmillionwarsの中でも、戦闘をしながら攻撃に体重を載せることができるのは少数。それに加え、重心や適切な体の動きができる者は、さらに限られる。
「……疑念が確信に変わったよ。どうやら噂は本当のようだね」
御影は距離をとり、目を瞑った。
「悔しいな……俺が勝ちたかった……」
そう一言つぶやくと、剣崎の視界から一瞬、御影の姿が消えた。
「……ッ!」
脱力と体幹。体から力を抜き、御影はつま先のみで低い姿勢を保ち、一気に解放した。その速さは戦闘に慣れた剣崎が一瞬、見失う程のもので、本来であれば必中の一撃だった。
「……よく避けられたね」
「……九条さんから予め教えていただいていたので。聞いてなかったら今の一撃で終わっていました」
御影の最大の武器は瞬発力。瞬発力と重心移動を得意とする御影は、一騎打ちで朱羅以外のプレイヤーへの敗北の経験はない。
「知っていたからといって、避けられるほど遅くないと思うんだけどね……」
御影は再び同じ構えをとり、剣崎に向けて最速の突きを放った。
「な……っ!」
二度目の攻撃。一度目は攻撃のタイミングに合わせて避けるのがやっとだった剣崎だが、二度目は完壁にタイミングを合わせたなぎ払いでカウンターを行った。
剣崎のなぎ払いは、咄嗟に避けた御影の甲冑を深く抉り、薄皮を傷つけることに成功した。
(こりゃ……ダメかもな……)
御影は自身の最速、最強の一撃を避けるだけに飽き足らず、カウンターで返されたことで、勝利のイメージを既に失っていた。
「………………」
御影の敗北を悟った鬼塚は、真剣勝負の中、剣崎の背後から奇襲をかけた。
「…………ッ!」
しかし、奇襲は叶わず頭を撃ち抜かれ、鎧だけを残し消え去った。
「よ……しゃあ!!」
突如、天守前に隼の声が響き渡る。
「君に任せてよかったよ隼くん……」
九条の命令で鬼塚をマークしていた隼は、九条たちが来るよりも先に天守前の木の上に登り、鬼塚を確実に倒すタイミングを見計らっていた。
「ハァ…………鬼塚に心配させてしまったようだな。剣崎くん、この戦いの勝敗は既に決した。だけど、君さえ良ければ、俺との一騎打ちを最後まで続けてはくれないだろうか」
鬼塚が倒されたことで、鬼塚陣営の士気は低下。九条陣営の勝利は確定したも同然。逆に御影との一騎打ちに付き合い、もしも敗北でもしたら、敗北する可能性が生まれる。
「………………」
「俺たちのことは気にせず、君の好きにするといい」
九条を無言で見つめる剣崎に、仲間たちは笑って剣崎の意志を尊重した。
「やりましょう……最後まで!」
「ありがとう……恩に着る」
二人同時に、再び槍を構える。お互い次の攻防が最後になると予感していた。
「………………」
御影は姿勢を低くして最速の攻撃を近距離から仕掛けるために動かない。剣崎はすり足でジワジワと距離を詰める。
(ここだ!)
すり足から放たれた、攻撃の起こりが読みずらい一撃。御影は槍が振るわれたと同時に突きを放つ。
(くそ……ここで!)
しかし、突きが放たれたのは剣崎の体ではなく槍に対して、三又に別れた穂先は剣崎の槍を絡めとった。
(まだだ!)
剣崎は御影へと飛びかかった。
「…………ッガ!」
『組打ち』柔道の源流にあたる、甲冑の重さを活かした近距離戦闘。
剣崎に飛びかかられた御影は地面に倒れ込み、剣崎に馬乗りされる。
「……ッ!」
跳ね除けようと暴れる御影の顔に剣崎の鉄槌が命中する。
「…………ッブ!」
何度も振り下ろされた鉄槌は御影の顔を捉え、見ていた者の背筋を凍らせた。
「もう……首を切ってくれ」
御影は満足気に剣崎に頼み込み、必死に攻撃していた剣崎は我に返り、首を切るための短刀をとりだし、御影の喉を切り裂いた。




