槍衾
「邪魔をしてこないと思えば……この準備をしていたというわけか……」
鬼塚と御影の二十万を超える大群は、破城槌を用いて城門を突破した。
城門を超えると長柄鑓を持った九条のNPC兵士たちが鬼塚、御影の部隊を待ち構えていた。
籠城に慣れた勇の選んだ作戦は槍衾。短くても四メートル、長ければ六メートルを超える槍を持った兵士たちが横に並び立つことで、圧倒的なリーチにより敵の接近を阻止することができる。
「ハッ!こんなもの、どうということは……今度はなんだ!」
「ド〜ン!!ド〜ン!!」と太鼓の音が突然城全体を包み込んだ。」
「バッ!」槍衾を指揮する猪ヶ倉城のプレイヤーが腕を一度上げ、下げると、高く掲げられた長柄鑓は正面に立つNPC兵士たちの頭へと振り下ろされた。
「(マズイ!)弓兵を使って槍衾を崩すまで、一度後退するんだ!」
「………………」
鬼塚陣営のプレイヤーが自分の任されたNPC兵士へと必死に命令を出すが、太鼓の音にかき消され、NPC兵士たちの耳には届かない。
「バッ! バッ! バッ!」
槍衾を指揮しているプレイヤーが先程上げた右手を下げ、左手を前に突き出し、左手を上に上げた。
すると、横一列に並んだ槍を振り下ろしたNPC兵士たちは後ろへと下がり、その背後から槍を高く掲げた新たな長柄鑓を持ったNPC兵士たちが現れた。
「バッ!」
槍衾を任されたプレイヤーが左手を振り下ろすと同時に、長柄鑓が相手のNPC兵士たちの頭部へと振り下ろされる。
城に攻めいられるまでの短い時間で勇が猪ヶ倉城のプレイヤーとNPC兵士たちに伝えた作戦は完璧だった。
狭い道を利用した槍衾は城内ということもあり、槍衾の弱点である背後や側面を狙われる心配がなく、正面の敵に飲み集中することができる。
さらに太鼓の音でNPC兵士への命令を遮断。命令を与えられない相手のNPC兵士たちは動くことができず、腕を使った合図を覚えた猪ヶ倉城のNPC兵士により一方的な攻撃を受けることになった。
(……ッチ!バカどもが!)
長柄鑓を構えるNPC兵士たちの前に一人のプレイヤーが飛び出した。
(鬼塚……!)
鬼塚の存在に気づいた猪ヶ倉城のプレイヤーが、NPC兵士へと指示を出そうとした。
(雑魚が……!)
しかし、NPC兵士を動かすよりも早く鬼塚の槍は猪ヶ倉城のプレイヤーの喉を貫き、息の根を止めた。
指示役のプレイヤーが死んだことで、猪ヶ倉城NPC兵士たちは鬼塚の後に続いたNPC兵士たちの手によって呆気なくやられ、御影と鬼塚の部隊は先に進んだ。
(……ッチ!そりゃ壁は一枚なわけないよな。)
槍衾を超えた先には新たな槍衾が待ち構え、鬼塚たちの足を再び止めた。
(まぁ、対策がねぇわけじゃないんだけどなっと!)
鬼塚は自身に付き従うNPC兵士を槍衾の前へと押し出した。
(穴がないなら、穴を作ればいいだけの話だ!)
すぐさまNPC兵士の背後から鬼塚が距離を詰める。
「バッ!」
振り下ろされる長柄鑓。しかし……鬼塚は姿勢を低くすることで、仲間のNPC兵士を盾にすることに成功した。
(このまま先に進む……ッ!)
鬼塚が仲間に進軍の合図を出そうと手を挙げた瞬間、鬼塚の肩に一本の矢が突き刺さった。
(どこから……!?)
鬼塚は矢が飛んできた方向にすぐさま視線を向けたが、既にそこには誰もいなかった。
(頭を狙ったんだけどな……弓弦さんみたいにはいかないな……)
隼に任された役割は槍衾により足を止めたプレイヤーへの狙撃。城下町の屋根から屋根へと移動することで位置を悟らせず、鬼塚、御影陣営の指揮系統を麻痺させるのが目的。
(鬼塚さんが姿を見せてくれたのは僥倖だ。鬼塚のことを射抜くことに集中しろ……って、鬼塚さんはどこに?)
狙撃ポイントを変えた隼が弓を引き絞り、相手の部隊に視線を移すと、そこには鬼塚の姿は見当たらず、NPC兵士の中を掻き分けるように御影が姿を表した。
「全軍突撃!!!」
太鼓の音の中でも聞こえる、御影のバカでかい掛け声に合わせ、全軍の総攻撃が始まった。




