一本の閂
「結局朱羅さんの率いる七万近い部隊には騎馬なしにも関わらず二日で二つの城を落として、丈二さんの率いる七万近い部隊は未だに鼠入城を取り囲んでいる……か。」
朱羅陣営による鼠入城攻略から二日。丈二の当初の予定では丸一日かけた鼠入城攻略のはずだったが、合流するはずの騎馬隊は栁の命令により敵城へと走っている騎馬隊と衝突。人数差が大きく、朱羅陣営の騎馬隊は全滅。
そして、鼠入城の籠城、新たに攻略対象を選び、陥落させた城の蓄えが少なかったことにより戦いは長期化していた。
鷲宮城 城内
「はあぁ!?何の冗談だ?前線を無視して来るなんてありえな……まさか、あの山を超えたのか!」
ヒトコブ山、フタコブメ山、二つの連なる山々を総じて駱駝山脈と呼ばれている。この山脈を超えるには三日以上かかると噂されており、駱駝山脈を戦いに用いるのは不可能と考えられていた。
しかし、熊野城による山を超えての天鷹城の攻城の方法を聞いた九条は、これを決行、現在に至る。
「城に残っているプレイヤーを掻き集めて時間を稼げ!」
鷲宮城は朱羅陣営の本拠地。溜め込んだ物資を失うことも問題だが、何よりも陥落した場合、millionwarsのシステムとして、朱羅や丈二の率いるNPC兵士が部隊から外れることになってしまう。
「『鼠入城の騎馬が鷲宮城に向かっている』……か。こりゃ、城が落ちるのも時間の問題だな……」
陣幕を設置してから、二日間の間、交代で馬を走らせ敵を翻弄していていた騎馬隊の攻城参戦。それと同時に九条の部隊に参加している二人のプレイヤーは鷲宮城への潜入を成功させていた。
「…………………………」
「……ねぇ、二郎くんだっけ?私、あなたに何かした?どうして口を聞かないどころか目も合わせてくれないの?」
人目につかない道から城へと忍び寄り、NPC兵士と梯子を上手く使い、城内への侵入に成功した二郎と結衣。二人の目的はただ一つ、正門の閂を外すこと。
「……寡黙な忍びの方がかっこよくないですか?」
「そうかな?お喋りな忍者もギャップがあっていいと思うけど」
二人が正門の方向へと走りながら会話を楽しんでいると、曲がり角から鷲宮城のプレイヤーが二人現れた。
「……っが!あっぁ……」
相手が気づくよりも早く、敵の接近に気づいた二郎は、鷲宮城のプレイヤーが交戦状態に移行する暇を与えず、喉にクナイを二つ突き刺した。
「凄っ!」
「……別に普通ですよ。足音を聞いて、敵に先手を打つ。ダンジョン探索ゲーでは必須のテクニックなので。」
二人は再び走り出した。正門へと近づくほど鷲宮城のプレイヤーの数は増えていき、何とか二人は道中、悪戦苦闘しながらも正門へと辿り着いた。
「今度は私が魅せる番!二郎くんは閂をお願い!」
十数人の門を固めるプレイヤーを前に薙刀を構える結衣。二郎は返事を返すでもなく、黙って門を固めるプレイヤーたちへと走った。
「行かせるわけねぇだ……っぶねぇ!」
二郎は立ち塞がるプレイヤーたちへと向かい鎖鎌を投げた。高速飛来する鎖鎌の鎌を身を低くすることで数人のプレイヤーは難なく躱してみせた。
「……っな!」
二郎は身を小さくしたプレイヤーの頭に手を置き、まるで馬跳びをするように飛び越えた。
「行かせる……っか」
咄嗟に振り返り、二郎へと手を伸ばすプレイヤーの体に結衣の薙刀が貫通した。
「よそ見してる余裕はないんじゃない?」
薙刀を体から引き抜いた結衣は、プレイヤーたちの意識を引きつけるため、次から次と切りかかった。
「クソッ!待ちやがれ!」
結衣は七人のプレイヤーを引きつけることに成功したが、残りのプレイヤーが二郎の背を追いかけてる。
(クソッ!あいつ……どれだけ……)
鷲宮城のプレイヤーたちは全力で二郎を追いかけたが、距離は離されるばかりで、一向に近づくことができない。
「やめろーーー!!!」
二郎が閂へと手をかけると同時に、背後から悲痛な叫びが二郎の耳へと届いた。しかし、ゲームとはいえ、これは戦い。二郎は改めて覚悟を決めて、鷲宮城の閂を外して法螺貝を吹き慣らした。




