鷲と鼠
鼠入城
「い……今、櫓に配置したNPCの兵士から修羅陣営がもうすぐ到着するって……みんな、手筈通り頼んだよ!」
鼠入城には二十五万の九条陣営のプレイヤー、NPC兵士が一同に集まっていた。全軍の指揮をとるのは鼠入城 城主 栁。対するは十五万人のNPC兵士を連れた、朱羅陣営。
十五万と二十五万では戦力が一見過剰に見えるかもしれない。が、実力の高いプレイヤーが多い朱羅陣営は、何度も三倍以上の兵力差を覆してきた。
「いつも通り俺からの命令は一つだけど……振り返るな、前だけ見て突き進め!」
朱羅陣営の十五万から編成された三つの部隊は、馬がいない緊急事態のため、プレイヤーが約二百八十五人、NPC兵士が三万人の部隊が五つ再編成され、朱羅陣営による攻撃が開始された。
(予想よりもずっと弓兵の数が多い……)
NPC兵士の実力が低いため。NPC兵士の実力が頭一つ抜けているのは天鷹城であり、他の手に入れたばかりの城はそうもいかない。ともなると、実力のある朱羅陣営を相手する際に弓兵が多くなるのは必然と言える。
だが、九条陣営にとっても大量の弓兵を動員するのはリスクが大きい。
「一本、一本、しっかり狙ってね……」
弓矢一本の値段は大したことはないが、一度の戦場で使う弓矢の本数は百万本を超える。そのため多くの城主は、使い切りの弓兵よりも、生き残れば何度も使える騎馬を好む傾向にある。
「敵の矢が尽きたぞ!今が好機だ!」
矢の一斉掃射が終わり、朱羅陣営の城を任されている一人の城主が声を上げ突き進んだ。
「大したことねぇな!九条の兵士はよぉ!」
三万のNPC兵士と共に敵を薙ぎ倒しながら、前へ、前へと倉田は進んだ。
「待って倉田さん!何かおかしい!」
丈二!が倉田の行動に気づいた時には既に遅かった。倉田と倉田の率いる三万のNPC兵士とプレイヤーは九条陣営の屈強なNPC兵士により囲われてしまった。
「なんだこいつら!急に強さが変わりやがった!」
鼠入城 城主の栁は、前線に『友好度』の低いNPC弓兵を配置して、相手が奥深く入り込むように部隊の層に『友好度』の低いNPC兵士で道を作った。
これにより、倉田の率いるNPC兵士たちが簡単に倒せる道に入り込み、倉田たちは囚われることとなってしまった。
「ただでさえ騎馬がいないと言うのに……って、朱羅さん!?」
朱羅は仲間の方へと振り返り声をあげた。
「今から倉田の部隊が脱出するための道を作る!誰でもいいから百人俺に着いてこい」
朱羅が自身を囲むNPC兵士たちの前に立つと、自然と道は開いた。
「ちょっと待って朱羅さん!あなたが大将なんですよ!行っちゃダメだ!」
「心配すんなよ丈二。倉田が逃げるための道を作るだから」
そう言って敵の大群に向かっていく朱羅の姿を丈二はそれ以上止めようとはしなかった。
「あれは……朱羅だ!鷲宮城の城主 朱羅がそこにいるぞ!」
朱羅の姿を見て、九条陣営のプレイヤーたちが一斉にどよめき始めた。
(ハッ!城主が出てきたってのに、首を取ろうと飛び出す奴の一人も嫌がらねぇ。流石は九条のとこのプレイヤーだな。)
城主の首を落とせば、NPC兵士たちの士気は上がり、勝利には近づく。しかし、準備された戦いである以上、当然陣幕(リスポーン地点)は張られていると考えた方がいい。
なので、今は朱羅の首を狙うよりも包囲した五万のNPC兵士と倉田が優先される。
当然これらの判断を、一人一人のプレイヤーがしている訳ではなく、九条、または九条により戦場の指揮を任されたものが行っている。
「まぁ、無視をさせるつもりはないんだけどな」
一歩、また一歩と敵陣へと百人のプレイヤーたちと近づく朱羅に九条陣営のプレイヤーたちは困惑していた。
「さぁ、槍の間合いだぞ?」
まるで朱羅の挑発に反応したかのようなタイミングで鼠入城の城主 栁から先程まで弓を放っていたNPC兵士たちに命令が届き、NPC兵士たちは腰の刀を抜き一斉に切りかかった。
「遅い!」
相手の刀より速く振り払われた朱羅の方天画戟は、波寄せるNPC兵士たちを薙ぎ倒した。
「聞こえてるか倉田!俺の声が聞こえる方に向かってこい!」
返事はない……だが、確かに倉田のいる場所の勢いが増したことを朱羅と丈二は感じとった。
「二人して勝手なことを……佐藤さんと高坂さんは自分の城のプレイヤーとNPC兵士二千を連れて、暴れてください!」
大雑把で出鱈目な命令。だが、この指揮が朱羅陣営のプレイヤーたちにとっての百パーセントを引き出す。
丈二の命令により敵部隊へと攻撃を仕掛けた佐藤と高坂の率いる三百のプレイヤーと四千のNPC兵士は、キチッと並べられた九条陣営の兵士たちの中に飛び込み出鱈目に暴れ回った。
(まるでアリの巣だな……)
朱羅陣営四千人により九条陣営五千人を倒すことに成功した佐藤と高坂は、敵部隊の中で四方八方に攻撃したことで、敵の統率を乱すという数字以上の働きを見せた。
「や……やられっぱなしじゃダメだよね。こっちからも攻撃を仕掛けようか……」




