火中の鷲
猫又城攻略、そして鬼塚陣営への攻撃の日から一ヶ月。準備を終えた一羽の鷲が動きを見せた。
「丈二、もう充分だろ!そろそろ動くぞ!」
「……えぇ。蹂躙してやりましょう。」
朱羅陣営による大規模行進。五万人規模の軍が九条陣営に三つ。御影陣営と鬼塚陣営の領地に一部隊づつ送られた。
「みんな、ここが正念場だ!気合い入れていこう!」
九条は二十五万のNPC兵士を使い部隊を編成して、朱羅との戦いに臨んだ。
隠れ草の草原
隠れ草の草原とは、大の大人が潜むことのできるほど、背の高い雑草が生い茂る草原であり、朱羅陣営が九条の城へと攻め込むために通らざるおえない草原。
「ハッ!潜んでますよと言わんばかりの静けさじゃねぇか」
「でしょうね……山越えが論外な時点で我々がここを通ることは気づいているでしょうし、兵士を潜ませていると考えて間違いないでしょう。」
隠れ草の草原へと辿り着いた朱羅と十五万の兵士たち。九条が兵を潜ませていることを見抜いた朱羅は足を止めた。
「それで?何か考えがあるんだろ?」
「考えという程のものではないですよ。洋輝さんお願いします。」
丈二が名前を呼ぶと、大群の中から弓を左手に持ち馬を操るプレイヤーの集団が現れた。洋輝と呼ばれたプレイヤーを筆頭に馬から降りるやいなや、弦を引き弓を構えた。
「討て!」
放たれた矢は放物線を描きながら生い茂った雑草の中へとバラバラに落ちた。
「……見つけた。ここから五メートル先、矢が直撃したのか何かが動くのが見えました。」
「敵が潜んでいることさえ分かれば充分だ。お前ら!おそらく敵は、そこかしこに潜んでいる!ゆっくりと策を練りたい所ではあるが、考えているうちに九条は必ず次の策を打ってくる。」
プレイヤー、NPC兵士を合わせた十五万人が朱羅の一言一言に耳を傾ける。
「なに、らしくないこと言ってるんですか?いつも通りでいいんですよ、いつも通りで」
「たまには俺もかっこつけようとだな……まぁいいか。ゴホン……黙って俺に着いてこい、遅れるんじゃねぇぞ!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」
朱羅は馬から降り、手網を仲間に任せ、先頭で草原の中に飛び込み、仲間たちはその後に続いた。
(九条が兵士を忍ばせてお終いなはずない。いつ仕掛けてくるつもりなんだ……)
しかし、丈二の警戒を裏切るように朱羅の軍は何事もなく、九条陣営のプレイヤーを捕らえることに成功した。
「お前たち二人だけなのか……?」
九条陣営のプレイヤーたちは何も答えない。
(おかしい……九条陣営が大量の部隊を編成しているのは情報屋から買った情報だから間違いはない。ここでないなら、どこにその部隊が……!)
「朱羅さん!早くここを抜けましょう……!」
気づいた時には既に時遅し、朱羅たちの向かう先の背の高い雑草に火がつき、風に乗って朱羅たちへ向けて迫り来る。
「ブルルルルルル!!」
轟々と勢いよく立ち上る炎をに怯えた馬たちは、全力で来た道を引き返そうと走った。
(やられた!馬を失ったせいで、弓騎馬だけでなく槍騎兵に追いつくことも叶わない……攻める側にしてみれば致命的だ……)
丈二が考えを巡らせ、打開策を考え込んでいると、朱羅の右手が丈二の肩に触れた。
「フゥー……ハァー……お前らよく聞け!馬を失った今、俺たちに勝ち目は無い!だから、腕に自信のない者は今すぐ首を切り、城にデスポーンした後に、俺たちと合流するんだ!俺たちは先に敵の城を叩く!」
普段の朱羅から飛び出すことのない現在における最適解の一つ。丈二と陣営に所属するプレイヤーたちは驚きのあまり一瞬固まったが、何人ものプレイヤーが正気に戻ると同時に自身の首に刃を突き立てた。
「炎が小さくなり次第、先に進むぞ。目標の城に到着するまでに戦い方を考えておいてくれ。」
丈二は改めて朱羅の天下人としての素質に感銘を受け。城までの道すがら、充分すぎる時間を使い作戦を練った。




