剣崎の槍
連合軍の戦いから一ヶ月が経った。停戦協定を結んだ朱羅、鬼塚、御影は未だ連合軍との戦いの最中。連合軍との戦いがいち早く終わった九条陣営は各々が陣営強化のために動いていた。
「九条さんからの命令だ。槍の特訓をするぞ剣崎。」
「特訓ですか?」
仲間と同じように金策を行おうとしていた剣崎の元に鳴海がやってきた。
「『四英傑』との戦いでは個の戦闘能力が今まで以上に求められる可能性が高いんだと。そこで、槍の師匠として俺が任命されたってわけだ。」
未だ未熟な剣崎の槍捌き。そんな剣崎にとって、ボクシングの技術を槍での戦いに組み込んだ鳴海は、これ以上ない教材であった。
天鷹城の訓練場。普段は多くのプレイヤーで賑わっているが、このサーバーでの戦いが終盤に差し掛かっているせいか、陣営のため尽くすものが多く、人影が少ない。
「まぁ、師匠つっても俺ができるのは全力で打ち合ってやることぐらいだがな。お前にはそれで充分だろうがな」
二人は練習用の木材でできた槍を手に取り、訓練場の中央で構え合った。
「……いきます!」
剣崎が鳴海へと踏み込み、上半身を捻り、全身の力を連動させ渾身の力で鳴海へと槍を振り切ろうとした。
「……ッガ!」
お互い同じ長さの槍、つまり同じ間合いのため、剣崎の薙ぎ払うという攻撃よりも鳴海の突きの方が数段早く相手へと届いた。
「……ッガ!……ッダ!……ッグ!」
連続して二度、突きが剣崎の頭と体に命中して、怯んだ所にフックの要領で行われた槍の払いが顔面を捉え剣崎を地面に倒した。
「millionwarsの物理法則は限りなく現実に近づけて作られてるからな。このゲームで身につけた体の正しい使い方は、ボクシングに活かすことができる。だから今日は何十、何百でもお前の練習に付き合ってやるよ。」
その後も剣崎は何度も膝を地面につけながらも立ち上がり、鳴海との訓練を続けた。
(こいつ……マジでどんな成長速度してんだよ……)
振る度、受ける度、剣崎の槍捌きは確実に上達していき、徐々に鳴海とマトモに打ち合えるようになっていた。
「いきます!」
既に数えるのはやめ、何度目か分からない剣崎からの先制攻撃。剣崎が槍の間合いに入ると同時に鳴海の凄まじい速さの突きが剣崎へと襲いかかる。
「……っな!」
しかし、ワンテンポ早く振られた剣崎の槍は、鳴海の突きよりも早く相手の眼前まで届き、驚いた鳴海は驚異的な反射神経で剣崎のひと振りを躱した。
(……近場ではもっとコンパクトに!)
剣崎は体勢を崩した鳴海に追い討ちをかけた。大きく振りかぶるのではなく、小さく……よりコンパクトに槍を振るう。
「……ヤバッ!」
剣崎の槍が鳴海の眼前でピタリと止まった。
「少し休憩にしませんか?ゲームだから体は疲れないんですけど、流石に少し疲れました……」
剣崎は地面に座り込み、続いて鳴海も地面に腰を下ろした。
「………………」
(剣崎のやつ……休憩するとか言っといて、まーたイメトレしてやがんな。こりゃ、何か掴んだか?)
剣崎は鳴海との特訓中に突きをほとんど放っていなかった。突きの技術で鳴海に勝てないというのもあるが、実践での戦闘を想定した上で槍による払いのみを多様していた。
剣崎の使う槍は笹穂槍。貫くことよりも切ることに特化した形状をしており、しなる槍の性質もあり、凄まじい威力で敵を薙ぎ払う。
「……よし!お待たせいたしました、もう一本よろしくお願いします!」
剣崎と鳴海は再び立ち上がり、お互いに槍を構えた。剣崎は脇構え(右後方に穂先を向けて間合いを悟らせない構え)。鳴海は下段(穂先を地面に向けて間合いを測りにくくする構え)に構えた。
(こいつ……やっぱ何か掴んだな。雰囲気が変わりやがった。)
迂闊には飛び込まず、両者ジリジリと距離を詰める。
(……この距離なら俺の槍が先に届くぞ!)
鳴海の突きの必中距離。ステップで距離を詰め、地面に向けられた穂先が剣崎の胴体目掛けて襲いかかった。
「……っな!」
しかし剣崎は、左足を軸に右に体を回転させることで攻撃を回避した。当然、鳴海の攻撃はこれで終わりではない。腕を後ろに引き、二度目の突きを放とうとした、その時。
「…………!!」
槍を握る右手を少し穂先に近づけ短く握り、脇構えから地面スレスレで振り切られた剣崎の槍は、鳴海の顎を正確に捉えた。
(……視界が!)
脳震盪。剣崎が薙ぎ払いを乱用する最も大きな理由であり、かつての戦場において多くの死に直結した症状である。
兜の上からの槍による叩きつけは意識を奪い、その隙に隙間から命を奪っていた。
リアルを追求したmillionwarsにおいても脳震盪は存在する。とはいえ、実際に脳震盪になる訳ではなく、頭部や顎への強い衝撃が検知された場合に限り、視界が定まらなくなる。
平衡感覚を失い、今にも倒れそうになる鳴海の首元に剣崎の槍が優しく触れた。
「……まずは一勝です」




