忍
丘の上の連合軍
「単純な策だが、下手な奇策よりも効果覿面だな。睦月の作戦はつまらないものが多いが、こうまで一方的に矢を放てるのは爽快感があるな!」
「そっすね……」
丘の上の弓兵を任された二人のプレイヤー。獅田城の車田と二郎。丘の上から相手が近づくのを待ち、NPC兵士に命令をして弓を射る。役割を全うするために必要な力、それは忍耐である。
「それにしても、まさかお前に弓の才能があるとはな。いつ練習したんだ?」
「……才能っすかね?」
車田の質問に二郎は誰かへのメールを打ちながら気怠げに返事を返した。
「……お前なぁ。ここにはお前と俺しかいないんだから、メールよりも俺と会話を楽しんだらどうなんだ?」
「そっすね、それじゃあ……」
二郎の刀が車田の腹部を貫いた。
「参考までに、今どんな気持ちっすか?」
「お前……裏切って……!」
「まぁ……はい。城主の東城さんの信用を得るのは苦労しましたよ。用心深い人だったんで。」
「……悪評は直ぐに広まって、お前を信用する奴はmillionwarsのどこにもいなくなるぞ。」
車田は意識を手放すの前にメッセージを送ろうと、右手を少し動かした。
「侍にとっての悪評は忍びにとっての賛美なんですよ。車田さん、今までお世話になりました」
二郎はメールを送ろうとする車田の息の根を止めた。
「『九条さんへ、丘の上の弓兵は動きを止めました。』さぁ、これで俺の仕事は終わりだな。……噂が静まるまで別ゲーで遊ぼっと!」
「弓弦さん!九条さんの命令で助っ人に来ました!」
弓弦、鳴海、隼の三人が指揮をする八千五百人を超える部隊に剣崎の兵士三千が加わった。
「まさか強力な助っ人がお前とはな……それで?丘の上の弓兵はどうするんだ?」
「それなら九条さんが、『既に解決してあるから、気にせず敵本陣を叩いてきて』って」
「今度は一体、どんな手を使ったんだか……とりあえず分かった。剣崎、お前は鳴海と共に行動しろ。俺と隼は二手に別れて矢が尽きるまで敵を射る。」
弓弦たちは再び、敵本陣へ向けて馬を走らせ始めた。
連合軍 本陣
「睦月さん!敵が近づいてきます!」
「案ずる必要はない。もうすぐ丘の上の弓兵による一斉掃射が始まる。」
弓弦たちが丘の上の弓兵の間合いに入る。
「もうすぐ……」
さらに近づく。
「もうすぐ……」
さらに、さらに近づく。
「弓兵は何をしている!」
弓弦と隼は二手に別れ、本陣の側面への攻撃を始めた。
「全員、この鳴海様に続け!」
鳴海と剣崎の部隊が馬を降りて、正面から敵本陣の部隊へと攻撃を仕掛けた。
「慌てることはない、敵は少数だ!前方の敵は取り囲み迎撃!弓騎馬隊は少数精鋭で迎え撃て!」
連合軍の総大将 睦月の命令により鳴海たちは取り囲まれ、弓弦たち弓騎馬隊へと選りすぐりのプレイヤーたちが押し寄せた。
「プレイヤーは狙わなくていい。お前たちは密集している敵側面を狙い矢を放ち続けろ。」
弓弦と隼の命令でNPC兵士たちにより、敵本陣の側面への攻撃が始まった。
(二……四……六……八人。)
隼は弓弦に教わった通りに弓を構え、お手本のような動作で矢を放った。
「ヒィィィィン!!」
隼の放つ矢は、次々と敵のプレイヤーが跨っていた馬へと命中して、プレイヤーを地面へと叩き落とした。
一方、弓弦は黙々と敵プレイヤーの頭を射抜いていた。
「ふざ……けんな!こんなのクソゲッ……」
(……隼の方は大丈夫だろうけど。上手くやれよ鳴海……剣崎。)
鳴海たちの率いる本陣突撃部隊
「……ガッ!」「……グァッ!」「……クソガッ!」
正面から敵本陣へと切り込んだ鳴海たちは、波のように襲いかかる連合軍の兵士たちを次から次へと薙ぎ倒していた。
「……なんだよこいつら!どうして、この人数を相手にできんだ!」
どんなに強いプレイヤーでも物量で襲われれば一溜りもない。しかし、この二人は近間での戦闘における天才。片やボクシング、片や剣道とmillionwarsで身につけた戦闘スキルで致命傷を避けながら戦うことに慣れていた。
「剣崎!NPC兵士たちの中に隠れろ!」
NPC兵士を指揮するプレイヤーがいなくならないための命令。剣崎は直ぐに鳴海の命令の意図を察してNPC兵士たちの中央へと身を隠した。
「さて……と!お前ら気合い入れろよ!俺たちに宣戦布告した奴らに目に物見せてやるぞ!」
鳴海、それから剣崎の率いる五千の部隊は三十分を超える戦いを繰り広げた。結果として一万千人余りいた九条陣営の特攻隊は弓弦、隼の率いる弓騎馬隊八千のみが残る形となり、連合軍二十万の軍勢に甚大なダメージを与えることとなった。




