連合軍と予想外の奇襲
「連合軍が結成された」
九条から届いた一斉メール。長文で送られたその内容は九条の旗の元に集まったプレイヤーたちの心を震わせた。
東西南北、それぞれの地で連合軍は結成され、『四英傑』へと宣戦布告をした。
九条へと宣戦布告をしたのは北部連合の立案者である睦月。八つの城を所有していた睦月は『四英傑』が争っている間に五つの城収め、現在では十三の城を所有している。
睦月の勢いと今ある装備を失うことを恐れた周辺の城主たちは軍門に降り、二十三の城を従えて北部連合の設立及び、九条への宣戦布告を行った。
しかし、九条を含めた『四英傑』は連合軍の設立を予見しており、配下に集めさせた資金を使い数で勝る連合軍へと対策を進めていた。
八月七日 天泣の丘
幾つもの丘が連なっており、よく天気雨が降ることから名付けられた天泣の丘。
九条は周辺に散りばめた見張りの兵士からの連絡で、二十万を超える軍が九条の所有する中で最北の城である兎角城へと攻めこもうとしているとこを知った。
九条は直ぐに集められるだけのプレイヤーを集め、軍を編成し、兎角城と連合軍の最南の城を挟むように存在している天泣の丘で連合軍の到着を待ち伏せていた。
連合軍
「睦月さん、前方に九条の兵が……」
「あ〜、いいよ、いいよ言わなくても分かってるから。どうせ十万を超える大群で待ち構えているとか、そんなとこでしょ?」
「違います!三千……いえ、五千の兵を引き連れた弓騎兵と思われる部隊が、こちらに向かってきています。」
「え?あ、違うの?……でも、まぁ。あの人の弓騎兵への対策はしてあるけどね。って言うことでよろしくね須藤さん。」
「任された!」
millionwars内で屈指の戦闘能力を誇る九条の弓騎馬隊。九条に勝つには弓騎馬隊への対策が必要と言われるほどに噂を広めていた。
当然、連合軍を結成した段階で睦月も対策を練った。その対策の内容は実にシンプル。プレイヤーのみで構成された弓騎馬隊を結成するというもの。
量より質。連合軍に参加したプレイヤーたちの中から選りすぐりの弓使いを集めて編成された弓騎馬隊は、質という一点において、確かに九条の使う弓騎馬隊よりも優れていた。
「敵軍、弓騎馬隊に甚大なダメージを与え、弓騎馬隊は退却した。」
連合軍のプレイヤーで編成された弓騎馬隊を指揮していた須藤からの連絡で、睦月は九条の弓騎馬隊に勝利したことを知った。
(よし!やはり俺の弓騎馬隊は、あの九条にも通用する!)
「睦月さん。熊野城 城主 大悟からメールきました」
「そういえば……あいつの姿だけなかったな。それで?参加しなかったことへの謝罪でもしてきたのか?」
「それが……今から天鷹城の攻城を始めると……」
「は?」
millionwarsの世界は縮小した日本が舞台となっており、大悟が城主をしている熊野城は青森の位置。そして、九条が城主をしている天鷹城は福島県の位置に存在している。
長距離の移動には大量の食料が必要となり、食料が足りなくなればNPC兵士の士気が下がり、到着することができてもマトモに戦うことはできない。
それどころか、縮小されているとはいえ青森から埼玉までの距離の移動。九条陣営のプレイヤーに発見されればそこで終わりのうえ、何十時間の移動をどうやって可能にしたのか。
天鷹城前 大悟
「食料、かなりギリギリだったな。」
「最初に大悟さんが山を超えて天鷹城を落としに向かうって言った時は正気を疑いましたけど、何とかなるもんですね!」
天鷹城攻略に参加できる熊野城のプレイヤーたちは、大悟の命令により二十四時間以上の移動時間を費やし天鷹城前に集まっていた。
大悟の通常ではありえない命令を可能にしたのはmillionwars内の陣幕というアイテム。
陣幕は設置することでリスポーン地点を更新することができるアイテムで、通常は戦闘地点から離れており、目に付きにくい場所に設置されることが多い。
熊野城のプレイヤーたちは時間を合わせ、持ち前の精神力で三日かけて、天鷹城までの山を超えた。
「城の食料を全て運んできたんだ。勝たないと詰みだな……」
「流石に大丈夫だと思いますよ。話だと、天泣の丘にほとんどのプレイヤーとNPC兵士を送ってるらしいじゃないですか。」
「だといいんだがな……」
大悟の奇襲は九条の意表を完璧に突いており、想定通り天鷹城のプレイヤーやNPC兵士による守りは手薄となっていた。
「グサッグサッグサっと!それにしても門は開けっ放しだし、門番は二人だけだし不用心ですね天鷹城。……ってなんですこれ?」
二人の門番をあっさり倒し、大悟の率いる部隊が天鷹城の城下町へと足を踏み入れると、人っ子一人おらず、リアルに再現された風の音だけが熊野城のプレイヤーの耳に届いた。
「誰かに先を越されちゃいましたかね?」
「……だとしたら門番がいたのはおかしい。」
「ですよね!それで、どうします?めっちゃ罠の匂いするんですけど天守まで進みます?」
「ここまで来たんだ、行くしかないだろ……」
「ですよね……」
恐る恐る慎重に、大悟の率いる部隊は天守へ向けて前へと進んでいた、その時だった。
「はーい、ここから先は通行止めでーす」
時間の問題で天鷹城で留守番をしていた、居残りプレイヤーの葛木がNPCの弓兵と共に大悟たちの前に立ち塞がった。
「たかだか三十人程度で通行止めって言われてもな……どうします、NPCを肉壁にして強引に進みますか?」
「……それしかないな」
大悟は言い表せない不安を胸にしながらもNPC兵士に命令をして、前方へと歩みを進めた。
「やっぱ、そうなるっすよね〜。それじゃあ皆さん!じゃんじゃん放っちゃってください!」
目の前の兵士に命令したとは思えない声量で葛木が声を発すると、周囲の家々の突上げ戸(棒で押し上げて固定する窓)が一斉に開き、一斉に民家の中から矢が放たれた。
「……ッ!前へ突き進め!」
大悟の咄嗟の判断により、少なくない犠牲を払いながらも、前方の弓兵と葛木を倒し、城下町を抜けた。
「まさか、弓兵を民家に忍ばせてるとは……」
大悟は天鷹城の『NPCとの友好度』の高さを大きく見誤っていた。民家の中から矢を放っていたのはNPC兵士ではなく、城下町で暮らす一般のNPC。
鈴木が海外のプレイヤーから購入した、大量の諸葛連弩は城下町で暮らすNPCたちに配られており、多くのプレイヤーが城を離れた場合に限り、九条の命令で民家に籠り敵が侵入してきた際の迎撃を命令されていた。
当然、並大抵の『友好度』の高さでは実現な不可能なので、兵士以外のNPCによる攻撃とは誰も考えつかない。そして、九条のために戦うのはNPCたちだけではなかった……。
「うわぁ……まるで人間ハリセンボンだな。可哀想だけど、天鷹城が奪われたら困るんでね。全力で邪魔させてもらいますね!」
城下町を抜けた満身創痍の大悟たちを待っていたのは、どこにも所属することなくmillionwarsを楽しんでいた何百人ものプレイヤー。
無所属のプレイヤーに限り、中に入ることを許可していた天鷹城で日頃世話になっていたお礼として、城の守りを請け負っていた。
「クソが……」
こうして、予想外の方法で天鷹城を襲った熊野城のプレイヤーたちは九条を慕う者たちによって討ち取られた。




