VS 黒騎士
「私の主は何処に……」
部屋の中に入ると、黒い鎧を身にまとった二メートルを超える西洋騎士がケンザキたちを待っていた。
(先制攻撃!)
黒騎士との戦闘は部屋に入ると同時に始まる。予めサコンに聞いていたお陰で、ケンザキは黒騎士までの距離を一気に詰めて、槍で鎧を叩いた。
「ガァーン ゴォ-ン」連続で二度振るわれた槍は黒騎士に命中して、黒騎士の鎧が振動する。
「……いざ。」
ケンザキの攻撃に反応したのか、黒騎士が両手で握っていた剣をケンザキに振りかぶる。
(ここだ!)
黒騎士の動きは確かに速かったが、ケンザキが反応できないほどではなかった。剣を上段に構えたことでがら空きとなった懐にある鎧の隙間にケンザキの槍が突き刺さる。
「…………ッ!」
ケンザキが違和感に気づき、槍を手放して距離をとる。
「どうしたケンザキ!」
「サコン!多分だけど、黒騎士の鎧の中には体がない!どうやってダメージを与えればいいんだ!」
遊ぶゲームの違いから得た気づき。マジクエでは通常、鎧の上からでも攻撃が通るため鎧の中身などを気にしたことはない。
しかし、millionwarsでは鎧の上から攻撃が通ることはない。必然、鎧の隙間や鎧により守られていない場所を狙うことがほとんど。頭を槍で叩いたのもそうだ、millionwarsでは有効な手段。
それゆえ気づけた発見。マジクエのプレイヤーにとっての盲点。
「アリス!光魔法だ!」
「『ピュリフィ!』」
アリスが魔法を唱えると、黒騎士の体が光で覆われた。しかし……。
「……怯まない!アンデッド系じゃないのか!すまないケンザキ!時間を稼いでくれ!」
(時間を稼げって言われても……!)
ケンザキはインベントリから黒騎士の元にたどり着くまでにモンスターから剥ぎ取った剣を装備した。
「主人は一体どこに……」
うわ言のように同じ言葉を繰り返しながら黒騎士は剣を振るう。刀での戦闘に慣れていたケンザキは西洋で主に用いられていたロングソードでの戦闘に苦戦を強いられていた。
日本刀が引いて切ることに特化した武器だとしたら、ロングソードは重さを活かし、叩き切ることに特化した武器。
機動性を重視した日本の甲冑とは違い、西洋の甲冑は全身が金属の板で覆われている。それゆえ、重さはあるものの、攻撃の通る箇所が少ない。
(攻撃をする隙がない!)
黒騎士の連撃がケンザキの剣に重たくのしかかる。
「『フルフォーカス!』」
ユウキがスキルを発動させると同時に黒騎士の動きが一瞬止まる。
「今だ、やれ!」
(ユウキさんナイス!)
ケンザキの剣による突きが、兜のバイザーの隙間に突き刺さった。
(やっぱり!)
バイザーの隙間を突いた剣が、黒騎士の兜を剥ぎ取った。
黒騎士の兜の下には黒い煙で作られた人の頭のようなものがあるだけで、やはり生身の人間入っていなかった。
ユウキが奪ったタゲが、兜を弾いたことでケンザキへと戻り、黒騎士は兜を拾おうとする素振りをみせず、ケンザキへと切りかかった。
「『鎧通し!』」
黒騎士の横からサコンのスキルが命中して、黒騎士は体勢を崩した。
「ケンザキ!鎧の隙間を切ってくれ!」
ケンザキは道中で手に入れたナイフに装備を変えて、剣を握っている右腕に飛びかかった。
ケンザキが右腕を拘束すると、黒騎士は振り払おうと凄まじい勢いで暴れ始めた。
「ユウキ、俺たちも抑えるぞ!」
三人がかりで黒騎士の体を抑え、ケンザキが鎧の隙間にナイフを突き刺す。右腕にナイフを突き刺すと同時に黒騎士の体は「ガラガラ」と音を立てて崩れ始めた。
「倒したのか……?」
崩れた鎧から黒い煙が抜けていき、部屋の中に四人のプレイヤーと黒騎士だったものだけが残された。
「結局なんだったんだ?隙間を攻撃するだけで倒せる敵だったのか?」
サコンとアリスが敵の正体について考えていると、ユウキが黒騎士の使っていたロングソードを手に取った。
「助っ人さんが今回限りなら、この剣は俺が貰っていいよな?」
「あぁ、構わな……ユウキ!武器を捨てろ!」
「は…………?」
剣から黒騎士の中身を構成していた黒い煙のようなものが吹き出て、ユウキの体を覆った。ユウキの白い鎧は、みるみると黒く染まり、第二の黒騎士がケンザキの立ちはだかった。
「……剣が本体だったってことか!ユウキ、俺の声が聞こえるか!」
サコンの声がユウキに届くことはなく、新たな黒騎士がケンザキへと狙いを定め襲いかかった。
「…………っ!」
黒騎士の攻撃を後ろに飛び退くことでケンザキは避けることに成功した。
「……できることなら、この体ではなく貴様の体が欲しかったのだがな。」
「……体を手に入れて話せるようになったてことか。」
ケンザキたちの戦っていた黒騎士の本体は剣で、剣を所持したプレイヤーの体を奪う。
鎧の隙間を攻撃しなくてはならないというマジクエのプレイヤーが普段とる必要のない攻撃をしなくてはならない事も含め、完全に運営の悪ふざけにより生まれた高難易度ボス。
「『フルフォーカス!』」
「ユウキのスキルを!」
『フルフォーカス』を黒騎士に使われたことで、黒騎士から目を離すことができなくなった。
「『激高』『破斬!』」
現実とゲームの身体能力の乖離から感覚障害が起こったことでVRMMOから消えた『プレイヤーのステータス』。
ゲームがプレイヤースキル絶対主義にならない為にもVRMMO業界が代わりに目をつけたのが『装備のステータス』。
millionwars同様、マジクエの武器にも装備ごとに攻撃力と耐久力が定められている。それぞれのゲームは独自の計算システムにより、攻撃の値と耐久力の値を計算して装備の破壊を可能にしている。
『激高』は装備している武器の耐久力を下げる代わりに攻撃力を上げるスキル。『破斬』は、このスキルの攻撃を受けた装備の耐久力を大幅に削るスキル。この二つのスキルを組み合わせた攻撃のことがマジクエ内では『激高破斬』と呼ばれている。
黒騎士が『激高破斬』を放った相手は、近くにいたサコン。サコンの職業は回復と素手による攻撃を得意とする『修行僧』。肉体へのダメージこそ少なかったものの、装備が破壊され無防備な状態となった。
「……!危ない危ない。」
装備を破壊されたサコンは後ろに飛び退き、すかさずアリスがフォローに入り、黒騎士のいた地点を爆発させた。
アリスの魔法を避けた黒騎士にケンザキが追い打ちをかける。
「どうやら警戒すべきは君だけのようだ!『破斬!』」
黒騎士から繰り出された『破斬』を、ケンザキは紙一重で避けて鎧の隙間に剣を突き刺した。
「……な!」
(『破斬』とかいう攻撃は上段からしかこない。攻撃を宣言してくれるのなら避けるのは容易いだろ……)
体を手に入れたことで黒騎士はスキルを使えるようになった。しかし、ケンザキにとってマジクエの発声によるスキルの使用は驚異ではなかった。
黒騎士の通常の攻撃はmillionwarsのプレイヤーにも通用するほど力強く、素早い。だが、何度攻撃を仕掛けても『激高破斬』を放つタイミングでケンザキのカウンターが黒騎士の新しい体であるユウキへと突き刺さる。
「ならば……!」
黒騎士は『激高破斬』が通用しないことを悟り、スキルの使用を辞めて黒騎士の本体であるロングソードによる通常の攻撃へと切り替えた。
「……アリスさん!」
黒騎士はケンザキを攻撃することに夢中になりすぎて、背後の魔法使いに気づくことができなかった。
黒騎士の背後をとったアリスの放った魔法は『獄炎』命中した相手を一定時間炎で包み込む魔法。使用された相手は炎により持続ダメージと視界を制限される。
「くそ……どこに行った!」
ケンザキの姿を見失った黒騎士の体に衝撃が走る。
「『鎧通し』……今度は効いたかな?」
サコンの鎧通しを受けた黒騎士は痛みのあまり下を向いた。
「今度こそお終いだ」
下を向いたことにより生まれた、兜と胸当ての隙間に、背後へと回ったケンザキが剣を突き刺し、黒騎士とほ戦闘は終了した。




