【番外編】願い事~バカンスシーズン(9)~
まさにサンセットディナーになったのに。
壮大な景色よりも、料理よりも、記憶に残ることになったのは、エリダヌスの溺愛だった。
完全にふわふわした気持ちでエスコートされ、オペラが上演される劇場へ向かう。
ルジマール子爵令嬢とドミナント男爵令息も、オペラを観劇すると言っていた。ゆえにすぐ後ろを二人が着いてきていてもおかしくなかった。でも後ろに続くのは……マルシクと従者のみ。不思議に思っていると……。
「メリディアナが気にすると思ったので、少し遠回りをして劇場に向かっています」
なんという気遣い!
推しの愛に胸が熱くなる。
そこでふと思う。
「エリダヌスは迂回して、劇場に向かうルートが分かっているのですか?」
「メリディアナと自分の命を預けるわけですから、この船の構造、どこに何があるかは、事前に把握しています。といっても船の詳しい構造は機密らしく、全てを掴んでいるわけではありませんが……」
「つまり船の構造から逆算し、迂回ルートのあたりをつけ、進んでいるのですか?」
「その通りです」と頷くエリダヌスを見て、しみじみ思う。
これが私の推しなんだと。騎士団長なのだと。
もし戦場に出ることがあれば、大勢の騎士と兵士の命を預かることになる。戦場となる土地の地形や構造を理解し、リスクを算出し、最善解を導き出す──それを当たり前にできないといけないんだ。
その能力を今回発揮してくれたわけね。
エリダヌスの能力に感動し、そんな推しの婚約者である自分を誇らしく思う。
「また顔が破廉恥になっていますよ」
「仕方ないです。エリダヌスが有能過ぎて感動しているので」
エリダヌスの耳が、ポッと赤くなったところで劇場に到着。エリダヌスはすぐに席には向かわず、目についた知り合いに声を掛け、私のことを紹介する。
積極的に社交をするエリダヌス。少し不思議に感じたが……。
「アンブローズ公爵令嬢! 心配しましたわ! こんなに時間ギリギリに到着されるなんて! 船内は広いので迷われた……とも思いましたが、あのウェリントン団長様が迷うわけがありませんよね! どうしたのかと思いました!」
ルジマール子爵令嬢の反応を見て、エリダヌスの意図を理解することになる。まさかオペラまで、ルジマール子爵令嬢と隣の席になるとは思わなかった。でもエリダヌスはこれを予想していたのだと思う。
社交をすることで、着席するタイミングをギリギリにした。
おかげで隣に座るルジマール子爵令嬢と話す時間は、ほぼない。
ルジマール子爵令嬢は、見るからに話し足りないという表情をしていた。
でもオペラの上演がスタートし、私は内心安堵する。
ということでここまでは上手くいった。
二本立てのミニオペラは軽快で分かりやすく面白い。楽しく観劇を終え、後は部屋に戻り、花火をエリダヌスと楽しめばいいと思っていたのだけど……。
エリダヌスが社交的に動いたことで、話しかけることを遠慮していた貴族が上演後、動き出した。すなわちエリダヌスに挨拶しようと集まってくる。その数があまりにも多く、流暢に私を紹介して……そんなことをしていると、キリがない。
「マルシク、メリディアナを先に部屋へ連れ帰ってください。メリディアナ、花火が始まるまでには戻ります」
「了解です、エリダヌス」
「かしこまりました。ウェリントン様」
マルシクと共に劇場を出る際、ルジマール子爵令嬢とドミナント男爵令息のことが、一瞬脳裏をよぎる。でもさすがにあれだけの人に囲まれ、私であろうと話しかけるのは無理なのだ。ルジマール子爵令嬢も話せないと悟ったのだろう。既にその姿はこの場になかった。
「お嬢様、こちらです。先程は迂回ルートで遠回りして劇場まで行きましたが、こちらの階段ですぐにお部屋に着きます」
「あ、そうだったのね」
スマホには地図アプリがあるのでかなり楽になったが、前世では迷子になりやすかった。
転生したら、スマホもなければ、アプリもない。エスコートがなければ、普通に迷ってしまう。
そこでマルシクと歩き始めた時。
そわそわした様子の令嬢がいる。
年齢としては十五歳くらいか。
私と目が合うと、困ったような顔をする。
「どうかされましたか?」
ここは年上の私から話しかけてみると。
その令嬢は恥ずかしそうに打ち明ける。
「迷子になりました」と。
船内は広い。
迷子になっても仕方ないと思う。
それに迷子になった時の不安な気持ち。
やはり子供の頃、自分が暮らす屋敷で迷子になり、不安を感じたことがあるので、よく分かった。
ゆえにここはマルシクに彼女を部屋まで送るよう頼む。
幸い部屋番号は分かっているので、無事送り届けられるだろう。
「でもお嬢様を一人にするのは……」
「だってこの階段を上ったらすぐでしょう? さすがに迷わないわよ。私は大丈夫。ちゃんと鍵もあるのだから」
「……分かりました。くれぐれも寄り道などせず、お部屋にお戻りください」
「子供じゃないのだから、大丈夫よ」
こうしてマルシクと令嬢とは別れ、私は部屋に戻ることにしたのだけど……。
階段の一段目に足をかけたまさにその時。
「アンブローズ公爵令嬢!」
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明日は17時頃に公開予定です~
【お知らせ】
『悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした』
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第二部スタートです。
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