【番外編】約束(4)
「見事なエキシビジョンだった。これだけ観衆を喜ばせたのだ。団長、副団長、共に褒賞をとらせよう。何か望む物はあるか?」
国王陛下に問われると、副団長は……。
「副団長でありながら、落馬をしてしまいました……。これから乗馬の訓練に励みたいので、良質な馬を賜れると嬉しいです」
素直な気持ちを口にした副団長に、観客は拍手を送る。
つまり「副団長に名馬を贈ろう!」ということだ。
「観客も同意している。よかろう。副団長には良き馬を授けよう。馬術訓練に励むといい」
国王陛下の言葉に拍手が起きる。
続いてエリダヌスは……。
「ご存知の通り、わたしは婚約しました。できれば不滅の愛の象徴になる“不死鳥の石”をわたしの最愛に贈りたいのですが……」
遠慮がちに告げたエリダヌスは、少し恥ずかしそうに頬を染める。
これを見た令嬢マダムはため息をもらし、令息紳士もなんだか落ち着かない。
私も今のエリダヌスの表情にドキドキだった。
さらにご縁がないだろうと思っていた“不死鳥の石”。
その“不死鳥の石”をエリダヌスが私に贈りたいと思っていてくれたなんて。
しかもエキシビジョンでの勝利は、エリダヌスが成し得たこと。自身が必要とするものを求めていいのに、私への贈り物をリクエストしてくれるとは……!
胸がジーンと熱くなるものの。
“不死鳥の石”は特別だった。
果たして国王陛下は許可してくれるのか。
さらには観客のみんなは……。
たとえ許可が出なくても。
そもそも欲しいと願っても、全てが手に入るわけではない。
それに今この瞬間が記憶に残れば満足だ。
エリダヌスが表明してくれただけで、十分だった。
私がそんな風に思う中、国王陛下が口を開く。
「確かに婚約者ができたとなれば、あの石を贈りたくなる気持ちは分かる。……さて、皆、どうであろうか?」
国王陛下が観客に問う。
私はドキドキしながら観客の反応を待つ。
「団長、婚約おめでとうございます」
観客席からお祝いの言葉をかけてくれた人がいる!
「おめでとう」
「結婚祝いに“不死鳥の石”を!」
「見事な勝利だった!」
続々と祝福の言葉が聞こえ、拍手も一斉に起きる。
「まさに皆、団長へ“不死鳥の石”を贈ることに同意してくれた。よかろう。“不死鳥の石”を贈ろう」
国王陛下が宣言し、一際拍手が強くなった。
◇
帰りの馬車の中で、私はエリダヌスに感謝の気持ちを伝えた。
するとエリダヌスは、予想外のことを言い出す。
「目的は別にあったのですが、思いがけず幸運が舞い込んだようなものです」
「え、どういうことですか……?」
この会話を聞くことになった同乗者のマルシクは……。
「ああ」という感じで顔を手で覆っている。
どうやらマルシクは何かに気付いているようだ。
「馬上槍試合へ向かう馬車の中での会話、覚えていますか?」
エリダヌスは優勝者である自分に聞きたいことはないか、気になることはないかと言っていた。
でも特になかったのだけど……。
「あの時わたしは、メリディアナが“不死鳥の石”が欲しいと思っていないのか、確認したかったのです」
「え、そうなのですか!?」
「……そうなのですか!?とは、メリディアナ。君は気にならなかったのですか、わたしは“不死鳥の石”を勝利の証として賜っているのです。それをどうしたのか。誰に贈ったのか」
そこでようやく思い至る。
確かに“不死鳥の石”をエリダヌスはどうしたのだろうと。
同時に。
マルシクはエリダヌスの意図に気が付いていたのね……!と理解することになる。
「……気にならないのですか?」
「気になります! でも言われるまでは気にしていませんでした」
「わたしに関心がないのですか?」
「! 関心、あります! でもエリダヌスは優勝した翌年から招待席で観覧していましたが、いつもお一人でしたよね。つまりお付き合いしている令嬢はいない。よって“不死鳥の石”はお母様にでも贈ったか、自分用にお持ちなのかと……」
私の言葉を聞くとエリダヌスが口元にフッと笑みを浮かべる。
「第二王子の婚約者だったのに。わたしのことを見ていたのですか」
「それは……!」
隣に座る私の肩を抱き寄せると、エリダヌスが額へ優しくキスをする。
「責めているわけではありません。嬉しいと思っているのです。そしてメリディアナの想像は正解です」
つまり“不死鳥の石”は、御守としてエリダヌス自身が持っていた。
「“不死鳥の石”は大切な人に贈るものだと理解していました。よって母上に贈ることも相談したのですが……『贈りたい令嬢がいないのなら、自分の御守として持っているといいわよ』と言われたのです」
“不死鳥の石”を持っているエリダヌスは、私が欲しいと思うなら、贈りたいと考えていた。
ところが私は、まったく“不死鳥の石”に関心を持っていないような反応しかしない。
しかも……。
「メリディアナは馬上槍試合に出場している騎士を見て、カッコいいと言いましたよね? 見事に攻撃する姿を見て、いいと言いましたよね?」














