【番外編】約束(3)
朝からスタートした馬上槍試合は、昼休憩を挟み、ティータイムの時間に決勝戦となった。
決勝戦は両者互角でなかなか勝負がつかず、手に汗握る展開。
このまま若手の新進気鋭の騎士が勝利を収めるかと思ったが、中堅どころの騎士が、最後の最後で底力を発揮。若手の騎士の槍が壊れ、中堅どころの騎士の勝利となった。
勝負がついた瞬間は、割れんばかりの拍手と喝采が起き、もう大変。
しばらくはその熱が残ったが、その間に表彰式の準備が進められる。
競技場の中心にあったレーンが撤収され、表彰台が設けられた。
エリダヌスは賞金を授与する役目があるため、表彰台へ向かう。
こうして試合の熱気が残る中、その栄誉を国王陛下が称え、表彰式は無事に終わったと思ったが……。
「わたしが馬上槍試合で優勝したのは五年前です。あれからそれなりに時間が経ったわけですが、わたしの腕は落ちていないのか。わたし自身が気になります。今日は副団長も来ているので、皆様にエキシビジョンとして、わたしと副団長の勝負を披露したいのですが、いかがでしょうか、国王陛下」
エリダヌスがそう告げると、もう会場がドッと沸き、「見たい!」という声が沸き上がった。
私も大声で「見たい!」と叫んでしまう。
国王陛下も大喜びで「それはぜひ見たいものだ。すぐに準備をするといい」と応じる。
副団長は目を丸くしているが、こうなったらやるしかない。
ということで再びレーンが設置されることになり、準備が整うまでの間、追加でお茶菓子や飲み物の販売となる。チラリと見ると、どうやら『ブルームーンチョコレート』は完売だ。
一方の私は飲み物でクールダウン。
エリダヌスの勇姿が見られると、かなり興奮していた。
でも興奮しているのは、ここにいる観客全員も同じ。
誰一人帰ることなく、エリダヌスと副団長の試合を待ちわびている。
そして遂にラッパの音が聞こえた。
レーンの左右の端に、エリダヌスと副団長がそれぞれ登場した。
エキシビジョンということで分かりやすいように、エリダヌスは碧のマントに白馬、副団長は赤のマントに黒毛の馬に乗っている。
角笛が吹き鳴らされ、いよいよ試合がスタートした。
「!」
いきなり度肝を抜かれたのは、走り出した際の馬の速度!
エリダヌスは上体をやや前傾姿勢にしている。
そのことで空気の抵抗を抑えた。
さらに自身の体を馬に近づけているのだ。
つまり重心を下げ、安定性を高め、スピードをキープしている!
これには観客はビックリだが、副団長も同じ。
「え」となり、馬の操作がおろそかになり、やや減速。
しかも心の乱れがその後にも出てしまう。
予想より早く、エリダヌスと対峙することになり、槍の攻撃が出遅れた。
その結果、副団長の攻撃はあっさりエリダヌスの盾に阻まれる。
それでいてエリダヌスの槍の一撃に、副団長はまさかの盾を落とす事態に。
これにはもう観客は驚きつつ、エリダヌスの戦略に「奇想天外」と舌を巻くしかない。
エリダヌスの戦いぶりは、試合の域を超えていた。
実際の戦場でこれをやられたら、敵はあきらかに驚愕し、翻弄される。
こんな戦略を即座に思いつけるなんて、エリダヌスしかいないと思えるものだった。
何よりも副団長は決して弱いわけではない。
副団長になる前、馬上槍試合で優勝経験はないものの、決勝には何度も残っているのだ。
やはりエリダヌがスタートダッシュであんなに馬のスピードを出すことが、想定外だった。
動揺して当然。
ここは気を取り直して再戦となる。
角笛が吹き鳴らされ、試合が開始した瞬間。
またもあのスタートダッシュをするかと思いきや。
今度は通常通りの騎乗で、エリダヌスは馬を走らせる。
これには副団長は完全に肩透かし状態。
気を取り直して馬を走らせているが、この肩透かし状態になることで、副団長の気は、少しだけ緩むことになる。
そしてエリダヌスと副団長の馬が接近したまさにその時。
一呼吸早く、エリダヌスは攻撃を繰り出した。
それはまさに“外した!”と思わせる攻撃だった。
次の攻撃を出す前に、副団長が攻撃する。
その際、盾での防御が遅れれば、胴への攻撃ポイントを副団長がとることになる。
副団長は「勝てる!」と思っただろう。
だがしかし。
エリダヌスのワンテンポずれた攻撃は、まさにフェイントだった。
副団長が「行ける!」と思い、攻撃する前に、二番目の攻撃を繰り出したのだ!
これは防御が甘くなり、副団長はバランスを崩す。
つまりエリダヌスの攻撃を盾で防いだが、槍の威力を受け止め切ることができなかった。
受け止め切れなかった威力により副団長は……落馬してしまう。
落馬=即負けとなる。
この瞬間、エリダヌスの勝利が決定。
これまた観客は驚き、同時に大歓声を送ることになる。
本来互角のはずの相手に圧勝できたのは、その戦術によるところが多い。
しかも同じ手法を繰り返さないことで、相手を困惑させることに成功している。
これはもうさすが、の一言に尽きる結果だった。
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