【番外編】イースターエッグハント(1)
4月が始まり、街に春がやって来た!
春がやって来た……大袈裟な表現に思えるかもしれないけれど、本当なのだ。
まず街路樹の側には素焼きのプランターが並んでいるが、冬はそこに何も生えていない。
だが。
春になるとそのプランターが満開になる!
それはもうある日、突然に。
双葉など見ることなく、いきなり花がぶわっと咲いているのだ!
からくりは3月31日の真夜中に、王都の職員が総出で、花が咲いたプランターと入れ替えをしている……ということなのだけど、事情を知らない人達はみんなビックリする。
とにもかくにも王都中にいきなり花が溢れ、「春だ!」となるのが4月の風物詩でもあった。
さらにこの時期に行われるのが、イースターエッグハント!
前世だと、イースターの日曜日に行われるのだけど、この世界はちょっと違う。もちろん、当該の日にも行われるのだけど、イベントとして子供から大人まで楽しむのだ。
つまり。
庭園や公園では4月になるとイースターエッグハントがアトラクションのように楽しめるようになる。園内の決められたエリアに、宝物入りの卵形の置物が隠されているので、それを見つけようというイベントだ。
参加者は制限時間内に宝物入りのイースターエッグを探すが、持ち帰ることが出来るのは一つのみ。出口で係員が空の卵型の置物を回収する。
もしも一つも見つけられないと、出口でお菓子が入ったイースターエッグをもらえる仕組みになっていた。
これは大変人気で、どこの公園も庭園も4月になると、このイースターエッグハントが行われている。特に人気なのが迷路庭園。お宝入りのイースターエッグの置物探しに加え、迷路も楽しめるということで、大人気だった。
かくして仕事帰りのエリダヌスと私は、金曜の夜を楽しむため、迷路庭園にやってきていた。
そう。
イースターエッグハントは大人も楽しめるよう、夜間も行われている。ランタンで照らされ、幻想的な雰囲気の庭園や公園で遊べるのは、とても魅力的。夜間料金が上乗せされるが、大人気だった。
「ほう。わたしと一緒に探すのではなく、宝物のすごさを競うのですね」
アイスシルバーのスーツに、薄手の紺色のマントをまとったエリダヌスは、片眉をくいっと上げる。
「はい。一緒に探す楽しみ方は、まさに王道。最近のカップルは、別々でイースターエッグを探し、見つけた宝物の凄さで勝負をするのです! 勝者は敗者に一つだけ願いを叶えてもらえる――というルール」
桜色のドレスにオフホワイトの薄手のロングケープを着た私は、意気揚々と返事をした。
するとエリダヌスはフッと口元に笑みを浮かべる。
「……いいでしょう。騎士団には時として、奇想天外な任務が持ち込まれます。王宮の庭園で行方不明になった飼い猫を見つけてくれ――なんていう任務もあるのです。猫を探すのもイースターエッグを探すのも、似たようなもの。最上級の宝物を見つけ出しましょう」
騎士団に迷子の猫探しが任務として持ち込まれるなんて……! でも間違いなくその猫の飼い主は王族。そして王宮の庭園をウロウロできる人間は限られる。
そうだとしても猫探しをする推しの姿を想像すると……。大変、頬が緩みそう!
その件はさておき。
イースターエッグの置物に隠されているお宝。そして置物自体のゴージャスさは、比例していた。見た目がゴージャスなイースターエッグを見つければ、中のお宝に期待が持てた。
そのお宝には、ちょっとした宝飾品、ネックレスやイヤリングもあった。これはもう男子が見つけ、女子に贈りたいところ。
その一方で紙きれ一枚のこともあるが、これは出口で特別なチケットに引き換えられる。つまりはオペラや演劇の観劇チケットと交換だったりするのだ!
というわけで見つけたお宝を競うことは決まった。
「マルシクは見晴台で様子を見ていて」
「かしこまりました」
迷路庭園は入場時に荷物検査をしているので、貴族も安心して楽しむことが出来た。迷路のような場所で、剣を振り回されたら大変なため、荷物検査は昔からのルールだった。
ということでランタンに照らされた迷路庭園の中を進むことになる。
既にいくつかイースターエッグは目に入っていたが、それは装飾の少ないシンプルなもの。これはとびきりのお宝ではないと分かるので、エリダヌスも私も手を出さない。
「ではここからは別々ですね」
遂にエリダヌスとは、別々のルートを進むことになる。
自分から言い出したものの。
エリダヌスと別々になるのは……。
寂しい。
でもこれも勝負のため。
一時、別々になるだけだ。
我慢、我慢。
一方のマルシク達護衛のメンバーは、見晴台から私達を見失わないように、真剣な表情でこちらを見ていた。あんなに真剣だと、もしも今が昼間なら……。
マルシクが、とびっきりのお宝が隠されたイースターエッグを見つけられそうだった。
しばらく進むと、「うん?」と思う場所に出くわすことになる。
それは正規のルートとは違うような、整備されているような、されていないような、生垣の切れ目だ。
実は迷路庭園では、何ヶ所かにこんな感じの隠しルートがあり、それはショートカットになっていたり、秘密のスペースになっていたりする。
秘密のスペースでは、珍しい花が植えられていたり、小さな噴水があったり。見つけられると幸せな気持ちになれるのだ。
もしかするとそんな場所に、特上のお宝のイースターエッグがあるかもしれない!
そう思い、その切れ目にすっと体を忍ばせる。
男性は通れない、スリムな令嬢が通れるような幅だった。切れ目を抜けると、こぢんまりとしたスペースがあり、そこにはまさにうさぎのオブジェがランタンに照らされ……。
うさぎが何か抱えていると思ったら、特大のイースターエッグ!
これは間違いなくお宝だわ!
エリダヌスに勝った!と嬉しくなり、うさぎのオブジェに近づいた時。
!?
突然、体が、どこかに落ちていく。
それはまさに“Down the rabbit hole(アリスは穴に落ちる)”のようだった……!
“Down the rabbit hole(アリスは穴に落ちる)”
まさに不思議の国のアリス!


















