【番外編】イースターエッグハント(2)
うさぎのオブジェに近づいた時。
突然、体が、どこかに落ちていく。
それはまさに“Down the rabbit hole(アリスは穴に落ちる)”のようだった……!
でも意外とすぐにストンとお尻が地面に着く。
ただ咄嗟の事態に悲鳴すら出なかったし、これは一体何事!?という状態だ。
前世で子供の頃に見て、好きだったテレビ番組がある。それはドッキリを仕掛ける番組だ。こんな風に落とし穴に、仕掛け人がターゲットを誘導して……。見事落ちるシーンを見たことがあるが、まさにそんな感じで、私も落とし穴に落とされた気分だ。
もしかしてこの迷路庭園では、最近になってこんな仕掛けも作ったの?
でもさすがにそれなら告知するだろう。
なぜなら。
暗くてよく見えないが、ドレスは汚れ、ボロボロになっていると思う。
貴族令嬢相手にこれはあり得ない。
弁償してください!という事態だと思う。
そうなるとこの落とし穴は、迷路庭園の運営が用意した落とし穴ではないのでは?
でもそうなると、一体誰が何のためにこの穴を用意し……。
そこで足元に何か触れた気がした。
落とし穴に落ちた際、どうやらパンプスは脱げてしまったようだ。
薄手の靴下を履いているが、その足に何かが触れたのだと思う。
な、なんだろう……。
ドキンとはしたが、驚きが勝り、またも咄嗟に声が出ない。
だが額に汗を感じる。
何かがこの穴にいるんだ。
そう思った時、手が触れている地面に、ぬるっとしたものを感じ――。
「きゃあああああ」
そこでようやく盛大な悲鳴を上げ、立ち上がることになる。
慌てて見上げると、落ちた穴は井戸のような大きさで、深さも幅もそんなにはない。
穴の入口には、手を伸ばせば、ギリギリ届く。
でもそこにロープなり、何か突起があり、掴むことができなければ、這い上がることはできない。
というかさっき触れたぬるっとしたもの。
蛇だとは思わないが、多分、ミミズ……!?
足に触れたあれは、おそらくネズミか何かでは!?
春になったとはいえ、夜になると少しヒンヤリしている。
でも今の私はぶわっと汗が噴き出ている。
そして今の私が願うことはただ一つ。
虫やネズミがいると思われるこの穴から、一刻も早く抜け出したい!だった。
だがしかし。
剥き出しの土に触れたら、またミミズなどの虫がいるかもしれない。
そうなると土に触りたくないという気持ちが高まる。
穴から出たいのに、穴から出るための行動がとれない。
泣き出しそうな気持になりながら、頭上を見上げる。
見えるのは星が瞬く夜空。
どうしようもなく心細くなり、エリダヌスを恋しく思う。
勝負なんて考えないで、仲良くエリダヌスとイースターエッグハントをすればよかった。
余計な思い付きをしたがために、こんな落とし穴に落ちることになってしまったのだ。
「……エリダヌス」
たまらず最愛である推しの名を呼んだ時。
「メリディアナ」「お嬢様!」
エリダヌスとマルシクの声が、同時に聞こえてきた。
頼りになる二人の声が聞こえたのだ。
寂寥感が一気に吹き飛ぶ。
「エリダヌス! マルシク!」
すぐに応じると、眩しい光に目をつむることになる。
ランタンの明かりに自分が照らされていることに気付く。
「怪我はしていませんか、メリディアナ!」
エリダヌスの言葉に「怪我……」と確認することになる。
尻餅をついたが、頭をぶつけたり、足を挫いたりもしていない。
これは不幸中の幸いだろう。
「大丈夫です! 怪我はしていません!」
「分かりました。今すぐ、助けます」
推しが返事をしたと思ったら。
もうビックリ!
エリダヌスが落とし穴に飛び込んできたのだ。
するとスカートが揺れ、多分、驚いたネズミが近くを横切ったのだと思う。
それに対して悲鳴を上げたくなったが、同時に推しに抱きしめられている。
これには別の意味の悲鳴……嬉しい悲鳴を上げそうになった。
「無事で良かったです」
感無量のエリダヌスを感じると、胸が熱くなり、今度は嬉しい悲鳴どころではなくなる。
心配してくれたことへの感動で、涙が出そうになった。
「悲鳴が聞こえた時。それがメリディアナの声だと分かり、血の気が引きましたよ。でも迷路庭園で悲鳴を上げるような事態。何が起きたのかと。すぐに見晴台にいたマルシクと合流し、悲鳴の方角へ向かいましたが……。正規のルートを外れているため、見つけ出すのに難儀しました」
そこで私は隠しルートなのかと思い、うっかりここに迷い込んだことを話した。
「なるほど。まったくメリディアナは無茶なことをする。夜の迷路庭園で、隠しルートに向かうなんて。隠しルートは隠されているのですから、明かりだって少ないでしょうに。ともかく、ここから出ます。覚悟はいいですか?」
「か、覚悟ですか!?」
「ええ。覚悟が必要かと。ドレスを着ている。しかも今の年齢で、こんなことをされるのは、不本意かもしれません。ですが確実に出られますから」
い、一体、推しは何をしようとしているの!?


















