【番外編】うららかな春の日
3月。
少しずつではあるけれど、春の足音を感じる。
この世界に春一番はないけれど、南風が強く吹く日があった。この風が吹くと、満開のアーモンドの花びらが舞い散る。
アーモンドの花は、淡いピンクや白い色をしていた。
その花びらが舞う様は、前世の桜を思い出させる。
この世界でも桜は存在していた。
でも八重桜のような種類がメインで、花色も濃く、ぶわっと咲いている。
淡い色合いの一重咲きタイプの桜ではなかった。
むしろそのタイプに近いのが、アーモンドの花だ。
「メリディアナ、髪に花びらが」
3月の終わりの日曜日。
王都の庭園では、アートフェスティバルが開催されている。
冬の寒さの中、芸術家たちは部屋にこもり、創作活動に没頭。人々も屋敷の中で過ごす時間が長かった。でも間もなく4月で春爛漫を迎える。
本格的に春が始まると、花のお祭りが増えるので、今、この時期にアートフェスティバルが多く開催されるのだ。
庭園や公園などに、絵画から彫刻まで、様々な芸術作品が飾られる。
それを散歩しながら鑑賞しようというのが、アートフェスティバルだった。
しかも気に入った作品は購入も可能なので、芸術家の卵たちがこぞって出展しているし、貴族達もこれぞという作品探しを楽しんでいる。
私は特に芸術的な才能があるわけではないが、観るのは好きだった。
そこでエリダヌスと私は、デートを兼ね、庭園を訪れた。
そしてアートフェスティバルをまさに楽しんでいる最中、推しは私の髪についたアーモンドの花びらに気が付いたのだ。
ミルキーブルーのスーツ姿のエリダヌスは、そのサラサラの前髪とも相まって、いつもより若く見える。パステルカラーを着ると、幼く見える……これは推しにも当てはまるようだ。
十代に見えるエリダヌスとのデート。
なんだか高校生の推しとデートしている気分になり、こうやって花びらをとってもらうのも「”青春”だわ」と心の中で喜んでしまう。
心の中で喜んでいる……つもりだったが……。
「なんだか悪戯を思いついたように、ニヤニヤしていますが」
「えっ」
心の中の喜びは、どうやら表出していたようだ。
しかも可憐に微笑む……ではなく、ニヤニヤ状態。
恥ずかしい……。
思わずエリダヌスに背を向けてしまう。
「どうしたと言うのですが、メリディアナ?」
もう、心臓が止まるかと思った!
だって。
推しが!
ふわりと後ろから私を抱きしめるから!
「へ、変態に思われてしまったので……」
「編隊?」
「ち、違います! ニヤニヤ笑いしているのがバレてしまったから……」
するとエリダヌスが笑っている気配が伝わって来る。
同時に。
爽やかに鼻腔に届くアクアの香り。
「メリディアナ。君は何を勘違いしているのですか」
「……?」
「わたしが外見を理由に君を好きになったと思うのですか」
ドキッとして思わずエリダヌスを見上げてしまう。
「わたしは君の不器用なその性格に心惹かれているんです。ニヤニヤ笑いをしようと気にしません。そんな表情を含め、メリディアナ。君を愛していますよ」
エリダヌス……!
推しは庭園の中心で愛の言葉をささやき、私をキュン死させるつもり!?
メロメロの私をくるりと自分の方に向けると、エリダヌスは世界を満開にするような笑顔になる。
このままキスをされると思ったら。
「!?」
推しが驚きの表情をしている。
え、もしかしてキュン死すると考えたから、涎でも私、垂らしている!?
それとも口元が緩み切っている!?
「……春ですね。メリディアナの頭には花びらに続き、青虫が。翅もないのにどうして頭に?」
これには絶叫しそうになるが、自分で口を押さえ、我慢する。
この様子を見た推しは、その手で青虫を払ってくれようとした。
「あ、エリダヌス、待ってください」
「どうしました?」
「青虫は小さいので、この扇子にのせ、近くの葉に移してあげてください。きっと来月には綺麗な蝶になると思います」
エリダヌスは私から扇子を受け取りながら「虫は苦手ではないのですか?」と尋ねる。
「苦手です! でも私の頭にのったのも何かの縁だと思うので……」
広げた扇子にうまく青虫をのせると、エリダヌスはそばの植え込みへ移動する。
植込みの葉に扇子ごと青虫を近づけると――。
青虫は慌てた様子で葉っぱへ移動していく。
木の葉で食事をしていたら、うっかり私の頭に落ちてしまったのかしら?
今度は落ちないよう、気を付けてね。
そんな風に思いながら青虫を見送ると。
「メリディアナの優しさに、引き寄せられたのかもしれませんね、この青虫も」
「えっ!?」
「君のそういうさりげない優しさ。とても愛おしく感じます」
今度こそ、ふわりと舞い落ちる花びらのようなキスをされ、私の心は喜びで満開になる――。
お読みいただき、ありがとうございます!
ホワイトデーと春を思わせる陽気にあわせ、更新しました☆彡















