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【番外編】願い事~ホリデーシーズン(7/7)~

 視線が一気に集まった。


 特に令嬢マダムが熱い視線を、エリダヌスに送っている。


 これは私とのダンスを終えたら、エリダヌスは引っ張りだこね。


 そう思ったが……。


 一曲目のダンスが終わると、エリダヌスはダンスフロアを離れた。

 その瞬間、会場にいる令嬢マダムが私達の方に集まる。


 すると。


「メリディアナ。ようやく君と二人きりになれましたね」


 エリダヌスがその碧い瞳をうるうるさせた。

 周囲の令嬢マダムが息を呑む様子が伝わって来る。


「王都では任務の日々で、君とゆっくり話す時間を持てませんでした。でもそれはこの国と国民を守るために仕方ないこと。王都を離れたこの地でようやく、今、この時。君と三カ月ぶりでダンスを踊ることができました」


 万感の想いを込めたエリダヌスの一言に、周囲にいた令嬢マダムは動きを止める。


「こうやってゆったり君と過ごす時間。できれば温かく見守っていただきたいものです。愛する者との久方ぶりのかけがえのない時間。大切にしたいと思う気持ちを汲んでくださる、お優しい方々ばかりですよね、この会場にいる皆様は」


 うるうるの瞳でエリダヌスが周囲の令嬢マダムを見つめた。

 このエリダヌスのうるうるの瞳と目が合ってしまった令嬢マダムは、そばにいる人に、倒れそうになるのを支えてもらう事態になる。さらにこの言葉を聞いた上で、エリダヌスにダンスをして欲しいとアピールできる女性は……いない。


 というか、エリダヌスは策士だわ!


 確かに以前のエリダヌスは、ワーカホリックだった。国王から三カ月の休暇の取得を命じられるぐらい、仕事中毒。でも今は違う。


 “プライベート重視の騎士団長”

 “オンとオフも充実の騎士団長”


 これが最近のエリダヌスの呼び名だった。

 とはいえ、ここは王都から遠い。

 さらに王都から来ている令嬢マダムでも。

 あのうるうるの瞳で切なげに語るエリダヌスを見たら……。


 何も言えない。


 というわけでエリダヌスは自身の魅力を武器に、集まる令嬢マダムをいとも簡単に退けてしまった。


 これにはもう口をぽかんとして驚くしかない。


「メリディアナ。そんな風に愛らしく口を開けていると、塞ぎたくなるのですが」

「!」

「わたしに口を塞がれるのは嫌ですか?」

「! そんな! 嫌なわけがありません!」

「そうですか」


 そう言って満足気に微笑むと……。

 本当に口を塞ぐ=キスをしようとするのだから!


 驚いてその胸に顔を寄せてしまう。


「皆が見ているのに。メリディアナは甘えん坊だったのですね」


 違うけど、もういい!

 甘えん坊でもなんでも。


 だって!


 エリダヌスは私以外とは今日はダンスを踊る気はなく、あんな芝居を一人で打ったのだ。しかもエリダヌスが打った芝居で、誰かがとんでもない不利益をこうむるわけではない。実に可愛らしい嘘なのだ。


 そこまでされるのは、女冥利に尽きるというもの。


 でもどうしてかしら?

 なぜそこまでするの?


「間もなくニューイヤーです。最愛であるメリディアナと初めて迎える新年。まさかこんな風にメリディアナと過ごせるとは……。想像していませんでした、去年のわたしは」


 それは……でも確かにそうだ。

 改めて言われると夢のような状況だった。


 何せ前世記憶が覚醒し、“推しだ!”と認識した時。

 エリダヌスに命を助けられたが、開口一番で言われた言葉、それは……。


 ――「君は死を招く女です。本当に恐ろしい。助ける必要などない命ですが、偶然通りかかることになりました。しかも裁きを受ける前。仕方なく救ってやったに過ぎないこと、肝に銘じてください」


 氷点下のように冷たい眼差しを向けられたのだ。

 それが今はその引き締まった胸に身を寄せ、推しの鼓動を聞いている……。


「去年の今頃のわたしは……。騎士団本部に詰め、カウントダウンとニューイヤーで大騒ぎする人々の対処に、ため息だったのですよ。それが今年は……。分かりますか、メリディアナ。わたしがどれだけ喜ばしく思っているのか」


 それはよく分かる。


 なぜなら。


 表向きはいつも通りの冷静沈着なエリダヌスだけど、今、推しの心音は大変なことになっている!

 こんなにドキドキしているなんて……。


 ――「……この期に及んで戯言を。見苦しいです。公爵令嬢としての誇りはないのですか?」


 容赦ない推しの冷え冷えとした言葉に、あの時の私は泣きそうだったのに。


「今日だけは。今晩だけは。新年を迎えるその瞬間は、誰にも邪魔されたくありません」


 そう言ったエリダヌスが、その手で私の頬を優しく包む。

 その瞳は限りなく甘く、私の心を溶かす。


 あの日向けられた氷のような眼差し。

 私を拒む氷壁のようなオーラ。


 ――「死を自覚し、少しはまともに戻ったようですね。だが遅い。既に賽は投げられました。幾度かの警告を無視したのに今更、死を恐れるなど笑止千万。公爵令嬢としての誇りがあるなら、潔く死を受け入れてください。自分の罪を贖うしかありません」


 窒息死か首の骨を折られると思ったのに。


 それもこれも()()の出来事。

 来年はすべての記憶を上書きするような、エリダヌスからの溺愛が待っているはず……!


「いろいろと昔のわたしを思い出しているようですが。その記憶、すべて忘れるぐらい、メリディアナを愛すると誓いましょう」


 極上の笑みをエリダヌスが浮かべた時。

 遂にカウントダウンが始まる。


 ……3・2・1、ハッピーニューイヤー!


 花火が打ち上がる音、鐘の音、汽笛。

 人々の歓声、拍手、口笛。


 沢山の音がしているはずなのに。


 その時、すべての音が聞こえなくなり――。


 新しい年の始まり。

 エリダヌスの婚約者として初めて迎えた新年。


 それは推しの優しいキスからスタートした。

お読みいただき、ありがとうございます!

ホリデーシーズン編はこれで終わりなのですが

不思議なことに、キャラクターがまだ動いているんです。終わりなのに、始まり。きっとまた会えます!

See you again!

そして!

この度、ESN大賞7で奨励賞を受賞しました!

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応援くださる読者様に心から感謝です

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