【番外編】願い事~ホリデーシーズン(2/7)~
「まさかベッドが一つのスイートルームを、メリディアナが予約してくれるなんて。驚きました。公爵家の令嬢。深窓の令嬢と言われることも多いのに。大胆ですね」
エリダヌスの言葉に、私は半笑いで応じるしかない。
なぜなら。
私だって自分の身分と世間の評価を理解している。
ゆえに普通なら、どんなに婚約していようと、婚約者と同室、しかもベッドが一つの部屋を選ぶなんて……あり得ないのたがら!
両親にだって言うことはできない。スバ施設のスタッフには、チップを弾むので他言無用でお願いしている。同行するマルシク以下も同様だ。
ではなぜそうまでしてスイートルームを、ベッド一つの部屋を予約したのか。
仕方なかったのだ!
残っていた部屋は、そこしかなかった。
つまり。
エリダヌスを招待すると言っておきながら、またもすっかり忘れていた。大慌てで予約した結果、とれた部屋がそこしかなかった……というのが真相。
でも言えない。この事実を。
古城の雲海に続き、失念してたなんて。
エリダヌスが知ったら呆れる!
ただ、分かって欲しい。
公爵令嬢、暇人かというと、そうでもないのだ。
特に将来公爵夫人になると分かったことで、新たに教育を受けることになった。しかも婚約式もあり、双方の親戚一同に挨拶をするわけで……。その段取りやら手紙を書いたりは私がしていた。他にも……違うわ。これは言い訳ね。
失念していた私が悪い。
「とはいえ、娼館を潜伏先に選ぶぐらいです。メリディアナのことを、世の中の高位貴族の令嬢の枠に当てはめて考えること自体が、間違いかもしれませんが」
「ええ、おっしゃる通りです」
もはや破れかぶれ、どうとでもなれ!で応じると。
「ただ困ったことに。わたしはメリディアナのそう言う大胆不敵なところを、堪らなく魅力的に感じてしまうのも事実。可能な限り、期待に応えましょう」
目の前にキングサイズの天蓋付きベッドがあった。
そんな場所でエリダヌスが私の腰を抱き寄せたのだ!
しないでいい妄想が広がり、頭に血がのぼり、鼻血が出そうになる。
「どうします? スパよりベッドのマットレスの強度を、二人で確認しますか?」
エリダヌスのとんでもない発言。
マットレスの強度を二人で確認!?
それってどういうことですか!?
またも妄想が膨らみ、頭がクラクラした時。
扉が盛大にノックされる。
「緊急時以外、寝室まで来ることを禁止させましょうか?」
エリダヌスがまたもとんでもないことを言い出したので、汗がブワッと吹き出す。しかしそんな発言とは裏腹に、ちゃんと「はい」と応じ、エリダヌスは扉を開ける。
「この後のご予定をお伝えいたします」
マルシクは護衛騎士なのだけど、私と苦楽を共にした結果。もはや従者であり、バトラーとしての役目も果たしてくれていた。この後の予定も、甲斐甲斐しく伝えてくれる。
「なるほど。この時間でもスパに入れるのですね。それで男女混浴のエリアは?」
エリダヌスは、まるでマルシクの上官のように。あたかも報告を受ける指揮官のように、答えを求める。
あまりにも堂々と尋ねるので、私もマルシクも、エリダヌスが驚愕の問いを投げていることに気づかない。
「男女混浴のエリアは、サウナエリア、家族貸切浴室……待ってください! いくら婚約しているとはいえ、混浴エリアの利用はなりません! そこは既婚者と子供を連れたファミリーが」
顔を真っ赤にしたマルシクが、ようやくそこで何を聞かれたのかに気がついた。懸命に混浴エリアの正しい用途を説明している。
するとエリダヌスは、サラサラの自身のブロンドをかきあげ、実に悠然と微笑む。
「このスイートルームが、スイートルームたる所以。それはスパ施設と同じ、天然の湯を引いた浴室があること。そこはこの部屋に滞在する者なら、自由に利用できますよね、マルシク」
マルシクはハッとしてひるむも、すぐに言葉を紡ぐ。
「確かにその通りです。ですが、誇り高き騎士団長であるウェリントン様が、よもや未婚の婚約者と破廉恥な行為に及ぶなど……あり得ないですよね!?」
これまで最敬礼でエリダヌスに接していたのに! マルシクが全身全霊でエリダヌスに抗議をしていた!
「フッ。マルシク、君も成長しましたね。わたしに噛みつく勇気を持てるようになったとは。新兵は卒業、と言ったところでしょうか。ですがハッキリ申し上げましょう。このスイートルームを予約したのは誰ですか? ベッドが一つしかなく、専用の浴室が備えられた部屋を予約したのは、わたしではないですからね。あくまでわたしは、求められたら答えるまでです。無理強いはしませんよ、一切」
これにはマルシクと私が同時にノックアウトされている。
「わたしは無理強いはしませんが、懇願される自信はありますけど」
エリダヌスの勝利宣言に、マルシクが恨み節で私を見た。
「お嬢様……!」と。
この事態を招いたのは私だ。
もうここはマルシクにアイコンタンクト!
「大丈夫。私は絶対に陥落しないから!」と。
だがマルシクの瞳は……。
「え、あの団長ですよ、お嬢様。分かっていますか?」と分かりやすく語っている。
でもそれは見ないふりをするしかないっ!














