【番外編】彼の想い(3/4)
お嬢様が卒業舞踏会で第二王子から婚約破棄され、断罪された時。
目の前が真っ暗になりそうだった。
しかも一度収監されたら、死亡しない限り、出るのは不可能と言われる黒の塔へ連行されるというのだ。そんなこと、許してはならない。阻止しなければ!
その一心だったが、多勢に無勢であり、かつ卒業を記念する舞踏会の場で、流血沙汰は起こせない。警備兵に取り押さえられてしまったが……。
先にお嬢様が連行され、自分は宮殿にある地下牢に連れて行かれそうになった。大人しく連行されるふりをして、地下牢に続く階段の途中で脱出を図り、それは見事成功する。そして王立騎士団ルミナスの団長、エリダヌス・ロイド・ウェリントンと一緒にいるお嬢様を見つけ出すことに成功した。
なぜ、ルミナスの団長とお嬢様が一緒にいるのか。
だがそれ以上に驚いたのは……お嬢様にこう言われたこと。
お嬢様は潜伏先として、娼館を選んだのだ。そのため部屋をとる必要がある。当然、自分が部屋をとると思っていた。ゆえに「部屋をおとりします」とお嬢様に伝えると――。
「お願いね、マルシク」
お嬢様から「お願いね」と言われるなんて……。
命令されることに慣れていたので、これには驚いてしまう。
さらに娼館を利用したことがない自分は、上手く部屋をとることが出来なかった。すると団長が部屋をとると申し出てくれた。それを聞いた直後、お嬢様の顔が赤いことに気付いたのだ。
「お嬢様、顔が赤いです。どこか具合でも?」
「! だ、大丈夫よ。気にしないで、マルシク。それよりも、ごめんなさいね。その……娼館の部屋をとるよう、命じてしまって」
まさかお嬢様から謝罪の言葉をかけられるとは――。
これはもしかすると、自分が初めて見かけた日のお嬢様に、戻ったのでは?
「あ、あの、マルシク。私、第二王子のリギル殿下から婚約破棄された上に、男爵令嬢へのいろいろを指摘されたでしょう? それで少し、心を入れ替えたというか……」
お嬢様はまるで弁明するように、そう言ったのだ。
ここで自分は確信することになった。あの日の他者を思いやられる優しいお嬢様に戻られたと。
それからの王都での潜伏の日々は、楽しくて仕方なかった。
一緒に過ごすお嬢様は、恐れ多いくらい、自分に気遣いを見せてくれる。
そんな風にお嬢様と過ごすと、淡い期待を抱いてしまう。
護衛騎士と令嬢の恋――巷で人気のロマンス小説の題材であり、そして実際に立場を越えて結婚した二人の話を聞いたこともある。
でもそれは高位貴族の話ではない。
せいぜいが伯爵令嬢と護衛騎士で、公爵令嬢と護衛騎士……はさすがに聞いたことがなかった。よってそれはあり得ないことだと分かっていても。今の優しいお嬢様なら……。
そんな中、お嬢様がふと見せた子供のような表情。それはスターチョコレートの限定味を食べたい……という実に可愛らしい願いだった。チョコレートくらい、いくらでも召し上がればいいと、思うものの。警戒を怠るわけにはいかない。チョコレート屋に行ってもいいものか……。
「あ、ごめんなさい。緊張感が足りないわね。しかも私、今、この格好なのに」
お嬢様は男装……従者の装いをしていた。
それなのに浮かれてしまったことを恥じている。
お嬢様は何も悪いことは言っていない。
幼なじみであるルクルド・オークレーの死に直面し、自身も害されかけたのだ。
息抜きは必要。
だからお嬢様を連れ、チョコレート屋の行列に並んだ。
しかしそこで、お嬢様を貶めた張本人である男爵令嬢ラーン・イングリスと遭遇するとは……!























































