【番外編】彼の想い(4/4)
お嬢様を貶めた張本人である、男爵令嬢ラーン・イングリスと遭遇した時。
瞬時に顔色が変わってしまったお嬢様を見て、守るために抱き寄せ、マントでその姿を隠した。この時、頭の中ではお嬢様を守る気持ちでいっぱいだった。だがあの男爵令嬢は、三十分も店内に居座ったのだ。
警戒はしているが、少し自分自身の気持ちも緩み、お嬢様を抱き寄せている……その甘美な事態に胸が高鳴ってしまう。
こんな風にお嬢様を抱き寄せるなんて、初めてのことだった。
自分のことを、ただの護衛騎士として命じるだけのお嬢様だったら……。
こんなに長時間、抱き寄せることに、不快感を示したかもしれない。
でも今のお嬢様は違う。
自分に抱き寄せられるままにされているなんて……。
お嬢様を想う気持ちは高鳴る。
だが……。
娼館には、予定より遅い時間に戻ることになってしまった。しかもお嬢様は欲しかったチョコレートが手に入ったのに、元気がない。それもこれもあの男爵令嬢のせいだ。
お嬢様には馬車で待ってもらい、行列に自分だけが並べばよかったのかもしれない。
そんな後悔の気持ちに苛まれながら、娼館の中に入り、部屋の扉を開けると――。
内側から扉がぐっと力強く押され、ハッとするが、遅かった。
銀髪のカツラ姿の団長に、いきなり胸倉を掴まれ、廊下の壁にドンと押し当てられていた。その動きのスピード、力強さに、一切抵抗できなかった。
これが……王立騎士団ルミナスの団長の実力。
まるで見習い騎士に戻ったかのように、無力さを感じていた。
「こんな時間までリズベルト様を連れ歩き、何をしていたんだ」
押し殺した冷たい声に、まさに肝が冷え、咄嗟に声が出せない。
「指定した屋敷へも来ない。なぜ来ないのか言伝もない。騎士の基本の報告はどうなっている!?」
「も、申し訳ありません。確かにおっしゃる通りでした。保護に失敗したこと、指定のお屋敷のヘッドバトラーに、お伝えするべきでした」
「その通りだ。使用人と警備兵は皆、今か、今かと心配して待っていた。今後は怠らないように」
「はいっ」
素直に非を認め謝罪するしか、団長の怒りは収まらないと思った。そしてそれは正解だ。謝罪することで、彼の声のトーンと口調は、いつも通りに戻ってくれた。
「エリス様、報告の件は私のミスです。マルクは」
お嬢様……!
自分を庇うような言葉に胸が熱くなった瞬間、団長が手を離した。
「!」
声を出しそうになり、なんとか呑み込むことになる。
いきなりお嬢様のことを、団長は激しく強く抱きしめていた。
「無事で……無事でよかった、リズベルト……」
絞り出すような苦し気な団長の声。彼がどれだけ心配したかが伝わって来る。
……心配だけではない。そこには……男としてお嬢様を想う気持ちが間違いなくある。
薄々そうではないかと思っていた。
だが今回の件で確信することになる。
団長はお嬢様のことを……愛しているのだと。
その後の二人のやり取りは、見ているだけで甘く感じる。
お嬢様を見る団長の瞳は、限りなく優しい。
大切に守りたい存在として、お嬢様を見ている――傍らから見ていて、気付いてしまった。
一方のお嬢様は……。
本人は自覚されていないと思う。
でもお嬢様もまた、団長に好意を寄せている。
つまり……二人は両想いだ。
王立騎士団ルミナスの団長、エリダヌス・ロイド・ウェリントン。
彼は公爵家の嫡男でもある。その上で騎士団の団長。
実力、容姿、家柄、そのどれをとっても太刀打ちできる気がしない。
さらに団長であれば、お嬢様のことを完璧に守れるだろう。
自分は……団長をサポートできればいい。
お嬢様への気持ちは、自分の一生の宝物。
結ばれることは叶わくても、この気持ちはなかったことにはしたくない。
これから先もずっと、自分はお嬢様のお側に仕える――。
お読みいただき、ありがとうございました!
切ない表情のマルシクで終幕です~
番外編までお読みいただけたこと、心から感謝でございます。
よろしければ最後に。まだの方はぜひ。
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